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「悪夢『吐く』」

 道端にはポツンと一つだけ街灯があり、周囲を照らしている。


 ふいに、私の足元でうずくまる人影が見えた。激しい苦しみに耐えながら、身をよじっている。地面には吐瀉物が広がり、その光沢を帯びた液体が暗闇の中で不気味な輝きを放っている。その人の顔は苦痛に歪んでおり、嘔吐と共に涙を流しているかのようにも見える。


 周囲には誰もおらず、静寂が不気味な雰囲気を醸し出していた。


 女性だ...うずくまっているのは女性だ。彼女は、暗闇の中でよりはっきりと浮かび上がる。長い髪が乱れ、その顔には深い苦悩が刻まれているようだ。涙が頬を伝って、吐瀉物に混ざりながら地面に滴る音が静かな夜に響いていた。


 彼女の口は動いているが、声は聞こえない。彼女の眼差しは絶望的で、助けを求めるような哀願がその姿から伝わっていた。


 その声は消え入るように静寂の中に吸い込まれていく、周囲にはただの静けさが支配しており、彼女の孤独がますます際立っていた。


 彼女の顔をじっと見つめる中、私の心は混乱と疑念に満ちていた。顔の輪郭、その眼差し、その表情。それらに既視感を覚えた瞬間、冷たい戦慄が背筋を伝って駆け抜けた。


(彼女は...わたしだ)


 それに気づいたとき、時間はゆっくりと流れ、不気味な感覚が私の心を覆い尽くした。その間、現実と夢の世界が融合しているような錯覚に苛まれた。


「たすけ...助けて」


 彼女の声は嗚咽を交えながら、言葉にならない悲痛な感情を込めていた。その声は切なくも絶望的で、まるで何かから逃れようとする絶望的な叫びのようだった。その叫びと共に、私の心は深い絶望に包まれた。



 その瞬間、目を覚ますと、息を切らせて床に寝転がっていた。周りをみると見慣れない部屋にいた。


 ゆっくりと深呼吸をし、夢の出来事を振りかえる。彼女が嘔吐している姿や絶望的な叫び、そして自分の絶望感。その中で、ふと、以前の出来事が蘇る。


(私は海辺で激しい波に呑み込まれ、溺れかけたんだ...)


 そして、いま、部屋にいる。夢の中の出来事は過去の体験と繋がっていたのだ。


 そのとき、看護師が入ってきた。彼は私が床に倒れているのを見て驚いている。


「大丈夫ですか?どうしました?」彼は心配そうに声をかけてくれた。


「夢を見て…少し混乱して」


 彼は安心させるような微笑みを浮かべ、手を差し伸べてくれた。彼の優しい声が、夢の中の絶望感から徐々に引き戻してくれるようだった。


「もし良ければ、少し話を聞いてみましょうか?」看護師が優しく提案してくれた。


 看護師が優しく手を差し伸べた瞬間、彼の顔が変わった。微笑む代わりに、彼の表情は一変し、目が赤く光り、口元から微かな笑い声が漏れた。


「まだ悪夢は終わってないですよ」と彼は冷たく囁いた。その声はまるで別人のようで、部屋中に不気味な響きを残した。


 驚きと恐怖が私の心を襲い、同時に部屋が歪んで見え始めた。壁がゆがみ、天井が回転し始め、周囲が夢の中の不気味な風景へ変わりつつあった。


「どうして!?」と叫びかけようとすると、看護師の姿が次第に変化していき、その姿は煙のように消え、代わりに現れたのは私自身の姿だった。鏡のように、私の顔が私の顔と重なり合い、その瞬間、部屋は暗闇に包まれた。


 息が詰まるような不気味な静寂が漂い、私の意識は次第に薄れていきました。目が閉じると、再び夢の中の状況に囚われたかのような感覚が広がり、現実と夢の狭間で揺れ動く意識が私を包み込みました。

あなたは夢の中で匂いを感じますか?

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