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『笛の音』

 

「最近、笛の音が聞こえるんだ...」


 四谷の声は、わずかに震えていた。カメラに向かって話しかける彼の目には、不安の色が浮かんでいた。


「先週から始まったんだ。最初は遠くからの、かすかな音だった。でも今...」


 彼は言葉を切り、耳を澄ませるように首を傾げた。その瞬間、彼の顔が蒼白になった。


「近づいてきている。まるで...まるで俺を探しているみたいだ」


 彼の手元のペットボトルが、小刻みに震えていた。


「夜になると特に大きくなる。眠れない夜が続いて...」


 突然、四谷の目が見開かれた。彼の口が開いたが、言葉は出てこなかった。


「微かだが確かな笛の音が聞こえ始めた。来た...来てる...」


 彼の言葉は途切れ、動画は唐突に終了した。


 これが、人気実況者・四谷の最後の姿となった。


 警察署内。捜査員たちが、低い声で会話を交わしていた。


「四谷家の男性は、皆同じ年齢で不可解な死を遂げている。まるで...呪われているかのようだ」


「馬鹿な。幻聴による精神障害だろう。笛の音なんて、誰にも聞こえやしない」


「だが、解剖結果は自然死。何の異常も見つからなかった」


 若手刑事の一人が、四谷の過去の動画を黙々と見ていた。二週間前の動画のタイトルが、彼の目に留まる。


”百物語をして最後に何が起きるか試してみた”


 その夜、若手刑事は自宅で、その動画を最後まで見終えた。画面が暗転した瞬間、彼の耳に微かな音が届いた。


 遠くから聞こえてくる、かすかな笛の音。


 彼は思わず振り返ったが、部屋には誰もいない。しかし、その音は確実に近づいてきていた。


 刑事の額に、冷や汗が浮かぶ。彼は気づいてしまった。この音は、四谷を追い詰めたものと同じだと。


 笛の音は、さらに大きくなっていく。それは彼の心臓の鼓動と同期するかのように、不気味なリズムを刻んでいた。


 彼は震える手でスマホを掴み、助けを求めようとした。しかし、画面は起動しない。


 部屋の隅に、黒い影が揺らめいているような気がした。笛の音は、もう彼のすぐそばまで来ていた。

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