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『深夜に彼女から』

 深夜の静寂を破るかのように、スマートフォンが震えた。画面には見慣れた名前が表示されている。「美香」――別れた恋人だ。なぜ今頃連絡してくるのか、疑問と好奇心が交錯する中、私は電話を取った。


「久しぶり、美香」


「うん、久しぶり。元気だった?」


 彼女の声は懐かしく、そして不思議な安心感を与えた。しかし、会話が進むにつれて、違和感が次第に募っていく。美香は最近の流行や話題について全く分かっていないようだった。最新の映画やヒット曲について話しても、彼女の反応は曖昧で、まるで別の時代に生きているかのようだった。


「ねぇ、美香。あのカフェ、覚えてる? 」


 よく一緒に行ったカフェ。去年潰れたのだ。確か、SNSでも話題になった。


 意地悪な気持ちで言ってみた。もし本当に最近のことに疎いなら、この話題で彼女から何かしらの反応があるだろうと。


「最近行ってなかったね。今度行こうね」


 明らかにおかしい。私は不安と不信感を抱きながら、意を決して聞いた。


「美香、今って西暦何年だっけ?」


「2015年よ、何言ってるの?」


 その瞬間、全身が凍りついた。美香が言った年は、私たちが最後に会った年だった。それから既に数年が経過しているはずだ。


「美香、どうして…?」


 その時、電話の向こうから美香の声が薄れていき、周囲の音が消え始めた。混乱と恐怖が交錯する中、私はスマートフォンを握りしめ、両親に電話をかけた。呼び出し音が数回鳴った後、母親が出た。


「お母さん、聞いてくれ! 美香から電話が来たんだ。彼女、何かおかしいんだ!」


 しかし、母親の声は私を更なる混乱に陥れた。


「もういいの、あんた早く成仏して…。もう苦しむのはやめて」


「成仏って、どういうこと?」


 すると、過去の記憶が一気に蘇った。あの日、あの事故の日。車の衝突音、血の匂い、そして徐々に薄れていく意識。私はその時に、すでにこの世を去っていたのだ。


 電話を切り、静寂が再び部屋を包んだ。

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