『むかしの写真』
陽の落ちた窓辺で、古びた写真アルバムを開いた健一は、妻の美代子に微笑みかけた。
「おい、見てみろ。昔の写真が出てきたぞ」
美代子は眼鏡越しにのぞき込んだ。
「まあ、懐かしいわね」
健一は写真を指差した。
「ここだ。若い頃によく散歩した公園だよ。覚えてるか?」
美代子は首を傾げた。
「え?誰と一緒に行ったの?」
その瞬間、健一の笑顔が凍りついた。沈黙が部屋に満ちる。
「ああ...そうだった」健一は低い声で呟いた。
「君とじゃなかった」
美代子の顔が青ざめる。
「どういうこと?」
健一は深くため息をつき、50年間隠し続けた真実を告白した。
「実は...あの頃、君と付き合っていたけど、もう一人...」
美代子の目に涙が浮かぶ。
「嘘でしょう?」
健一は頭を垂れた。
「すまない。若気の至りだった」
静寂が二人を包む中、美代子はゆっくりと立ち上がった。
「お茶を入れてくるわ」
台所に向かう美代子の背中を見つめながら、健一は写真を握りしめた。そこには、若かりし日の健一と、美代子ではない女性の姿があった。
美代子が戻ってくると、二人で無言のまま茶を啜る。夜が更けていく。
翌朝、隣人が異変に気付き警察を呼んだ。居間で発見された健一と美代子。二人の前には、空になった茶碗が置かれていた。
警察の調べで、茶碗から猛毒が検出された。そして、美代子の日記から衝撃の事実が明らかになった。
「私も、あの頃...別の人と」
長年の秘密を抱えたまま、二人は永遠の眠りについたのだった。