出立
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オルトロスを避けるように倒れたネメアーを横目にみているオルトロス。ここまでの戦闘をオルトロスがいた屋敷のドアの近くにいたユイとウィキ―は圧倒されていた。
「つ・・・強い・・・。」
「あわあわあわわ・・・。」
圧倒されつつ、驚きと戸惑いを隠せないウィキ―。そんな状態の2人のところに大鎌を持ったまま、屋敷へと足を進めてくるオルトロス。
「驚かしてごめんね~。怪我はな~い?」
「ちょっ・・・!?」
「あわわわわわ・・・!!」
驚かしている自覚はあるのに、大鎌を全然収めないオルトロス。圧倒される事よりも更に驚きと戸惑いが出てくるユイとウィキ―。それでも大鎌を収めないオルトロスはどんどん笑みがこぼれていく。
「あー、この地図、完全に穴あいて使い物にならないね。」
ようやくその場から大鎌を収めたオルトロスはネメアーが撃ち抜いた地図を拾って中を確認すると重要な部分に穴が開いていた。大鎌を収めたことを確認したユイとウィキ―はホっと胸をなでおろしたが、目の前の状況を確認すると良くない状況が広がっているのは一目瞭然だった。
「この森の地図って・・・それだけですよね・・・?」
「うん、確かもうこれしかなかった気がしたよ。俺達も流石にこれ以上は情報屋を廃業してどこかへ行こうとしてたから尚更ね。」
オルトロスの言葉を聞いて、落胆するユイ。唯一、頼れる情報が初めての敵によって台無しになってしまい、一歩ようやく進んだものがまた振り出しに戻ってしまった。ゲーム内とはいえ、ユイはこんなにも泣きそうになったのは初めてだった。
「でも、これって運命じゃない?」
「えっ・・・?」
オルトロスの言葉にユイは驚いて顔をあげるとそこには笑みを浮かべたオルトロスの顔が近くにあった。
「僕らは情報屋を廃業しようとしてどこかに行こうとしてる。君らは遠くに行こうとしてる。言い方は違うけど、方向性は一緒じゃない?」
「あっ・・・。」
「まぁ、ここら周辺の同じやつらばっかりで味気なくてつまんないし、たまには違う味も楽しみたいしさ、それでどうよ?」
つまり、オルトロスはユイと契約をしてもよいと自分から言っているのである。その意味を理解したユイは呪文を唱え、召喚書とペンを取り出した。
「あの、お兄さんがリディキル、弟さんがシィネマでどうでしょうか?どちらもよく笑っていらしたので・・・。」
「うん、いいよ。今日から俺はシィネマだね。」
白のオルトロス並びにシィネマは、付けられた自分の名前を書くと、先ほど入れ替わったときと同じように左にあるリングピアスを揺らすようにさわり、黒のオルトロス並びにリディキルと入れ替わり、召喚書に名前を書いた。
「契約してもいいだなんて・・・弟から言い出したのは初めてですよ。まぁ、私もこの意見には賛成ですしね。さて、これからよろしくお願いしますよ、我が主。私達の存在の意味の証明を教えてくださいね。」
召喚書にオルトロスのリディキルとシィネマの名前が刻まれると、ウィキ―と契約を交わした直後のように、召喚書の一番最後のページに向かってめくられ始め、特定のページにたどり着いた。召喚書の中に表示された、光って表示されている文字をみたユイ。
「通常クエスト 魔獣2体と契約する 完了
報酬 1000マナー 経験値 1000
報酬金は換金所にいって換金してください」
表示がされた文字を触ると、一時的に消滅し召喚書には何も表示されなくなったが、あの時と同じように、ユイのステータスとウィキ―そしてリディキルとシィネマのステータスが表示された。
「 LEVELUP!!
ユイ Lv.5➡13 Job:普通の召喚士
ステータス
攻撃:35 ➡60
防御:40 ➡80
敏捷:20 ➡40
幸運:55 ➡110
MP:80 ➡160
ウィキ― ♀ Lv.3 ➡ 5 種族: ムクロレッサー
役職:医師
ステータス
攻撃:3 ➡15
防御:4 ➡10
敏捷:10 ➡15
幸運:40 ➡50
MP消費:5 ➡8
HP:30 ➡50
+魔法石40
newパーティー
リディキル&シィネマ ♂ Lv.34 種族:オルトロス
役職:死神
ステータス
攻撃:254
防御:165
敏捷:245
幸運:60
MP消費:50
HP:150」
ユイとの契約が完了すると、今までリディキルとシィネマがいた屋敷が、穏やかな光を放ちながらその場所から館が消え始めた。
「お屋敷、消えてっちゃうけど・・・いいの?!」
「ええ、出立を祝ってもらえているので・・・。それに、情報屋を廃業する私達にはもう必要ないものですから・・・。」
こういっているリディキルの顔はなんとなく寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。ウィキ―はリディキルの足元に抱き着き、慰めるように話しかけた。
「寂しい時は泣いてもいいのです!ユイが私に教えてくれました!」
「寂しい・・・。」
ウィキ―の言葉を聞いたリディキルは無意識に眼から涙がこぼれた。それに気づいたリディキルは徐々に泣き出した。慰めるように、労わるようにユイはリディキルの背をさすり、ウィキ―はそのままリディキルの足を力を強めて抱きしめた。