つかの間の休息
お待たせしてすみません。
続きを読んでいただきありがとうございます。
そしてご連絡です。前話をかなり改変したため、改変前に閲覧して頂いた方は前話から読み直す事をおすすめします。
前日は、部屋のカーテンを締めるのを忘れるくらいすぐに眠りについてしまったためか、眩しさを感じて目が覚めた。
「よく寝れたぁ・・・。」
身体をベットから起き上がり、ユイは丸まっていた体を伸ばした。その気配と同時に目を覚ましたウィキ―は魔獣の姿に戻っていたので四つ足動物特有の体伸ばしをする。その様子を見てユイは一安心したのもつかの間、通された部屋の扉がノックする音が聞こえて返事をすると、昨日に現れた黒の長髪に楕円眼鏡をかけた好青年のオルトロスが入ってきた。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
「おはようございます。おかげさまでよく眠れました。」
「それはよかったです。朝食の準備が整っていますのでご案内いたします。」
オルトロスの青年の先導により朝食へと向かっていく。その途中、ふと思い出したようにオルトロス達は口を開く。
「そういえば、このあたり一帯の地図や情報、必要最低限の装備が必要とおっしゃっておりましたがそれも朝食後にご案内いたします。」
「何から何までありがとうございます。そういえば、聞こうと思っていたんすが、なぜこのお屋敷にあなた一人だけなんでしょうか?」
ユイの率直な疑問を問いただしてみると、ほんのり柔らかな笑顔になったオルトロス。しかし、ユイにとってその笑顔は眼が笑っていないのをみると、地雷を掘ったかと自分を責めるような気持ちになり、黙り込んで難しい顔になってきた。
「そんな難しい顔をしないでください。こんな辺鄙な廊下で話せるような内容ではないので、私もこのような表情になってしまいました。お許しください。」
ユイの表情をみたオルトロスは何か気づいたのか自分達の反応を謝った。この言動を聞いたユイは驚いたが、自分でも不躾だったと反省した。
朝食を済ますと、食後のティータイムというべき用意がされた。オルトロスはユイの近くの椅子に座り、紅茶をひと口飲むと改まって口を開き始めた。
「先ほどの、問いについてのお話ですが・・・。」
「はい、この大きくて立派なお屋敷になぜおひとりで・・・?」
ユイが質問した内容を思い出すかのように始めるオルトロス。再度、その内容をユイは問いただし、オルトロスは真摯に受けとめた。
「簡単な話です。私はこの森に身を隠すために住んでおります。もとは私達だけでなく、主人も一緒でした。」
目を瞑り、思い出すかのように話始めるオルトロス。
これは、ユイがやってくる随分前の話である。
昔、オルトロスには忠実に召し仕える主人が存在した。聡明で謙虚な主人であったため、オルトロスもそれに習い忠実に仕えていた。主人の従えていた魔獣はオルトロスのほかに同じ狼の魔獣や蛇の魔獣、猪の魔獣など数多くの魔獣を従えていた。魔獣同士の多少のいざこざはあったもの、主人への尊敬や忠誠心はみな同じであったため、穏やかに暮らしていた。
オルトロスの仕えていた主人のやっていた仕事が情報屋であった。この森に潜むものや他の魔獣たちの情報や、近辺の街の情報などを探っていたのはオルトロス以外の魔獣たちであった。オルトロス本人はといえば、裏方仕事であり、そこに集められた情報やこの近辺の情報等をまとめる役であった。
だがそんな穏やかな暮らしもさほど長くは続かず、主人の体調が悪くなってくるとそこの魔獣たちは気が気ではなかった。しかし、情報屋という稼業であり、店の存続をしなければならないが、主人以外の指示を聞くものなどいなかった。
その間にも、人間の医療に関しては知識がなかった者たちだったため、主人の様態は更に悪化していき、そのまま主人は息を引き取った。
主人が亡くなった後は、契約が解除され屋敷にいる意味のなくなった魔獣たちは個々で行動し始め、最終的に残った者はオルトロスのみとなった。