見習い召喚士
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落とされたユイは、その時の余韻を残しながら容赦なく下へと落下している。
「ああああああああ!」
落下士ている間にも、ユイはどうにか着地できないものかと考えていた。しかし、考えている時間よりも落下するスピードのほうが明らかに早い。案内係のフクロウに最後に見せられた自分のステータスのjobスキル内に【風魔法】というスキルがあるのは覚えて居るが、魔法を使う所かチュートリアルすらまともに教えてもらってない状態でどう使えというのだと頭の中で悪態をユイはついた。
「(もうこうなったらやけくそだ!!)」
ユイは目を強く瞑り、心の中で「浮かべ!」と何度も念じ始めた。これでどうにかなるかという不安すらも思考からなくし、強く念じた。
「…っ⁉」
一瞬浮いたような感覚を体に感じたが、気が付いた瞬間ついに地面に落ちた。その場所は生い茂った草木の上だった。
「いったぁ・・・・。あのガイドのフクロウ・・・今度会ったときには容赦しないからね!」
この先、あの案内係のフクロウに会えることがあるのか分からないが、このゲームが始まってから楽しい思いをしていないという事実を実感するユイ。
「はずれだったかな・・・このゲーム・・・。」
ゆっくりと起き上がりながら、周囲の状況を確認するユイ。だが、おもむろに落とされた場所は前後左右見渡す限り緑一面しか広がっていない。ユイはこのような状態は今まで数多くのゲームをやってきて初めての経験である。
「なにも手掛かりがない・・・。こんな状況で同じようなプレイヤーいるのかな・・・。ひと先ず、近くを探索してみないとわからないか。...ッ!」
周辺を散策しようと立ち上がろうとしたとき、体のあちこちに擦り傷で傷だらけであった。
「うわ・・・傷のひどさは軽傷だけど見た目はだいぶ重症だよ・・・。それこそ回復の仕方なんて教わってないよ・・・。召喚士だけのゲームでヒール能力なんてあるのか?」
地味に痛い擦り傷だらけの体に鞭を打ち、立ち上がってまた周辺を見渡す。
「流石に、こんな森の中じゃ、何かできる算段は何もないかな・・・。仲間になってくれそうな魔獣がいれば勧誘するほか今はないか・・・。」
体に負担がかからないようになのか、その場所から真っ直ぐにユイは動き始めた。周りをみながら、ゆっくり、でも確実に歩みを進めるユイは、やはり自分のステータスが気になった。
「どうしたら見れるんだろうか・・・。とりあえず設定を見てみるか・・・。”ハジマリ”」
唱えると設定が開き、また新たに「見た目」「装備」「言語」「呪文」の文字に分岐する。ユイは、「呪文」の文字を見つけると迷いなく選択し開いた。
「設定画面:ハジマリ
ホームへ戻る:トマリギ
召喚書のみ:スクロール
ペンのみ:コンタクト
召喚書&ペン:ダブル
ステータスをみる:スキル
jobスキルを使用する:マジック・○○
地図を見る:ニュース」
このゲーム内で必要とされる「呪文」がそこには記載されていた。そして、その場所にはまだまたこれから必要とされるであろう「呪文」が書かれそうな余白も残されていた。
「あの糞フクロウ・・・重要な呪文まだまだあるじゃないか・・・。」
ゲームをしていて、これほどまでに苦労をしている人物は後にも他にもいないのではないだろうか。ひと先ず確認するように「呪文」を覚えていくユイ。そして、やはり何か引っかかりを感じた。
「それにしても、私のステータスとかjob、おかしくなかったか?もう一度見てみるか...。”スキル”」
「呪文」を唱えると自分の前に表示が現れた。
「ユイ Lv.1 Job:見習い召喚士
役職:NPC
jobスキル:【風魔法】【雷魔法】
ステータス
攻撃:10
防御:20
敏捷:15
幸運:50
MP:70」
再度、自分のステータスをじっくり見るユイは、ひとつの文字を見返すために視点がまた戻ってくる。
「このゲームが召喚士しかいないから、今までのゲームとは違ったゲームということはわかっていたけれど、この役職のところ・・・NPCってやっぱり書いてある・・・。」
「ゴトッ...」
「だれ!?」
こんな静かな森に自分以外のわずかに響いた音に、反応したユイ。聞こえればたちまち警戒する。さらに、容赦なく落とされた案内係のフクロウが言っていたように戦わなければならない魔獣だって存在するため、一層、警戒し状況におうじて逃げる算段をしなければならない。音のしたほうを見てみると、茶色い頭巾を被った小さな少女が両手いっぱいの木の実をその場で落としていた。
「ぎゃあああああああ!!」
「うわっ!?・・・なに!?こいつ!!」
その少女が突然、レッサーパンダくらいの大きさだがモモンガやムササビのような姿もしている動物に変貌した。
「ど・・・どなたですかあああああ!!」
少女から突然、動物に変貌したのは初めて見るユイのような人間に驚いた為である。だが、元少女だったその動物は、びしょびしょに泣きべそをかきながら、震えてはいるが魔獣であり自分の縄張りの中なので身動きをとれない。
「いや、逃げないのかい!!」
「ハッ!忘れてた!」
泣きべそをかきながら、ユイに突っ込まれつつ、本来ならこの動物、基より魔獣にとって人間という未知の生物に遭遇したのであれば、逃亡ということが第一に命を守る選択となったはずだが、未知の生き物に遭遇した好奇心からか。はたまた恐怖に感じたか、先ほども言ったように震えて身動きが取れなくなっていた。
「というか、あなたこそ!私、魔獣ですよ!?」
「あ・・・。」
そういうユイも、この動物に会う前までは警戒し、いつでも逃げられるように算段していたはずなのに、予想とは反してこの動物が逃げたりせず、むしろ存在を確かめるような言動をしてきたので、すっかり「逃亡」という選択肢が頭の中から抜けていた。
「ぷっ・・・。お互い様ですね。」
ユイのすっかり気の抜けた反応をみた目の前にいる動物は今いるその場所に座り込み、クスクスと笑い始めた。その反応をみて、ユイはすっかり警戒心をなくし、気が抜けたことで同じように座り込んでしまった。
「なんか警戒してたのが馬鹿みたいだわ。」
どこか諦めたような、自分と似たような存在がいたからなのか、何か分からないが近しさを感じた。
「とりあえず、あなたは・・・・」
「ムクロレッサーです。私以上に弱い魔獣はこの森にはほとんどいません。それに仲間も・・・。」
目の前にいる魔獣に「呪文」を使おうとしたユイより先に、魔獣本人が自分で自分のことを喋り始めた。
「ちゃんと確かめたいから、こっちで改めて貴方のことを調べてみてもいい?」
「・・・はい。」
「ありがとう。”スキル”」
ステータスをみる呪文”スキル”を使用し、目の前の魔獣であるムクロレッサーの情報を表示させる。
「ムクロレッサー ♀ Lv.3 種族:魔獣
役職:医師
jobスキル:調薬、調合、【治療魔法】
ステータス
攻撃:3
防御:4
敏捷:10
幸運:40
MP消費:5
HP:30」
「なぜ、この森には貴方の仲間がいないの?医師なんてすごく重宝されるじゃない!」
ムクロレッサーの情報をみたユイは、先ほどの彼女の言葉から仲間とともにいないことに疑問をもった。その言葉を聞いたムクロレッサーは顔に影を落とした。
「私・・・、他のみんなより地味な毛色なんです。そのため、仲間たちからいじめられてて・・・。他のみんなは同じようにもっと鮮やかな毛並みなのに、私はこんな色で、もうそんな生活が苦しくて逃げだしてこの森に・・・。」
「え・・・・?」
ぽつぽつとムクロレッサーは、なぜ自分がこの森に一人でいるのかを話始めた。
暫くは、投稿頻度がまばらになると思います。ご了承ください。