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第25話 再建


「ただし、何か問題が生じたら、必ずここに帰ってこい。深追いだけは絶対にするな、お前は正義となると見境がなくなるからな」


「うッ!! 気を付けることにする」


「俺とリタは、あと何匹、害虫がこの村に入り込んでいるかわからない以上、生き残っている村民たちをこの宿屋へと避難誘導をする。この宿屋は絶対に死守しなくてはならないからな」


「あーしが助けた子供もいるしね」


「ああ、それももちろんだが、何よりレーベ=セントスの存在が大きい。レーベがこの村で守り切れずに死んだ時点で、俺らはあの国王に理由をつけて殺される可能性すら浮上する。例えば、勇者が王女を見殺しにしたとか、な」


 僕ら勇者は国を守ることに有益だと分かっている限りは、庇護ひごを受けられるが、無益だと判断されたら即座に見限られるということだろうか。さすがにそんな無慈悲なことないと信じたいが……。


「……っと、すまない。余計な心配をさせてしまったが、レーベが無事な限り問題ないはずだ。俺とリタで宿屋を死守、セイシロウがタイキの探索と救出だ、頼んだぞ!!」


「「うん」」


 僕はタイキの探索に移るが、どこから探せばよいのか皆目見当かいもくけんとうがつかない。仕方がないので、一度宿屋の屋根へと跳躍して高所からタイキを探すことにする。


「……くっ!!」


 僕は改めて視点を上げて村全体を俯瞰ふかんすることで、現在の自分たちが置かれた状況を把握した。魔物が蹂躙じゅうりんした車輪の痕で小麦畑が描き殴られて、血痕がところどころにキャンパスに色付けされて、五体満足の死体の方が珍しい。大体は頭がないか、潰れてしまって死体だと判別できない物、誰だったのか判断が付かない腕や足がそこらへんに無作為に転がっていた。


 ふざけやがって。残忍な魔物に対する憎悪と、もっと自分がうまく振る舞えなかったのかという後悔が混ざり合った感情が込み上げてくる。……落ち着け、ションフォンなら冷静に分析する。この濁った感情にふたをして、一度、深く呼吸をした。


 そして、改めて現状把握に努める。


 まずは魔物の数。――残り二体。


 つぎに魔物の位置。――小屋。森に面する村のはし


 なんであんな人が少なそうな場所に魔物が集まっている?疑問に思った矢先にベルーガ先生の授業が思い起こされた。


「魔物はエーテルが枯渇しだすと、エーテル総量が高い人物に集まる習性がある。お前ら、勇者は、絶好の獲物になるから、注意するように」


 ……まさか、僕は屋根を跳躍で伝いながら、小屋へと向かう。


 あれは……タイキ!!見つけた!!


 タイキが魔物に双方向から攻められて、背後には木々が邪魔をしている。完全に袋小路となり身動きが取れない状況に陥っていた。まずは、タイキに近い魔物から仕留めることにする。上空からの魔物への一撃。完全に魔物は機能停止した。


「タイキ、大丈夫だった!?」


「セイシロウ、おせーよ。もう少しで死ぬところだったぞ」


「ごめん!! 最初に見かけた奴以外に、もう一体魔物を見かけたんだけど、討伐に時間がかかっちゃって……。それにしても、タイキはすごいな!! 二体を同時に抑えてくれていたのか!?」


「はッ、うるせーよ。さっさともう一体ヤるぞ!!」


「うん、もちろん!」


 タイキの結界魔法で残りもう一体の魔物の四方にエーテルの壁を作り出す。完全に壁に囲まれて魔物は身動きが取れない状況に陥った。壁を突破しようと一度後方に下がり、助走をつけてから前方の壁を破壊しようとしたのだろうが、後方に距離を取ることも許されない。タイキが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。


 僕は機能停止した魔物を踏み台に跳躍をした。あまりの勢いに黒い球体が大地にめり込む。狙うは魔物の中心部。上空からの渾身の一撃を放つためにエーテルを右拳に集める。


「潰れろッ!!」


 黒い表皮は粉々に砕かれ、衝撃で生じた大穴を僕の拳が中心コアを欲して掘り進んでいく。


「くらぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええッ!!!!」


 魔物の中心コアに到達して、亀裂が生じる。エーテルの光が漏れ始め、次の瞬間にはガラス玉を床に落としたように中心コアは辺りに散乱した。


「やったな!! セイシロウ!!」


「うん、これで全部の魔物をほうむり去った。僕たちの……いや」


 僕たちの勝ちだ。そう言おうとして踏みとどまる。いや、これだけの犠牲を出して、勝ちとは到底言えないだろう。かなりの犠牲者が出たはず。僕たち勇者はこの村を救うことは出来なかったんだ。


「……トーマスを助けなかったことは許せない」


 そんな僕たちの気持ちを察してか、タイキの背中に守られるように隠れていた少女がタイキに向かって責めるように言った。僕たちと同級生くらいだろうか。


 僕にはトーマスがだれかを知らないが、タイキが助けられなかった人なのだろうか。もしかすると、先程屋根から眺めた腕や脚のみの人物がトーマスなのかもしれない。僕が駆けつける前に色々あったようだ。彼女からの辛辣しんらつな言葉を前面に受けて、タイキの表情は苦痛で歪んでいる。その言の葉には棘が含まれていた。


 その言葉に続きがあるかのように、少女はうつむきながら、独り言のようにつぶやいた。


「……でも、私を助けてくれてありがとう、勇者様」


 そう短く伝えると、一礼をしてからこの場を去っていく。タイキは何かをこらえるように身体を震わせながら、雲一つない青い天井を見上げた。表情は僕の位置からだと読むことが出来ない。もしかしたら、あえて僕に見られないように隠しているのかもしれない。


「……なあ、セイシロウ?」


「ん? なに??」


「俺決めたよ……」


 タイキは一呼吸だけ間を置いてから続けて決意を表明する。


「この村を必ず再建させる!! そして、今度は絶対に守り抜いてみせるさ」


「うん、タイキならできるよ」


 タイキは勇者の中でも一番自分自身を分かっている。それは誰もが直視をしたくない自分の弱さも含めて。僕はタイキという勇者の背中が心なしか大きく見えたのだった。


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