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グレイシャルLOVE  作者: YOU-Hi
第1節 if ひとりごと
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if ひとりごと ⑧

 私達の念願のたこ焼き屋の屋台を見つけ、私は普通のたこ焼き、楓はマヨタコを買った。

「はいよ、たこ焼きとこっちはマヨたこね。出来たてだから熱いよ」

 それぞれに手渡された大玉のたこ焼きの上で鰹節が踊っている。ソースと青のりの匂いが食欲をそそるが、確かにこれは熱そうで猫舌の私としては少し躊躇してしまう。

「マヨたこ好きじゃないの?」

 楓が不服そうに伺ってくる。私はやりたい事があるので必要だから買ったまでなのだけど、楓にはまだ合点がいっていないようだ。

「分けて食べたら、色んな味が食べられて楽しいでしょう」

 楓はうんうんと頷きながら早速年相応の食い意地を発揮して一個頬張っている。出来たてで熱いと言っていたが楓は大丈夫なのだろうか。

「熱くないの?、大丈夫?」

 熱そうにはしているが歯に挟んで上手に食べている。楓はマヨたこだから殊更に熱いだろうが大したものだ。それを見ていた私も一個を爪楊枝で半分にして食べてみた。多少空気にさらしたとは言えなかなかの熱さで半分にして正解だった。これは一個まるまる食べていたら口の中が大惨事になっていただろう。

「桜子姉さんは猫舌だよね、猫舌って食べ方が下手なだけって前に聞いたけど」

 途中まで喋ってこれ以上はまずいと思ったらしい。楓は警戒しながらこちらを見つめてくるが、今の私は余裕がないのだ。口を開くことも出来ないし片手にたこ焼きを持っていてはいつものように抗議もできやしない。

「なかなか熱さね。楓も一個食べる?」

 私から器を差し出してしまったのがまずいのだが、楓は爪楊枝に一個刺して口に運んでしまう。なんて勿体ない。これだからお子様はと目が座ってしまったので、慌てて眉間を揉んで誤魔化した。楓は上手に頬張ったたこ焼きを殆ど噛まずに飲み込んで私に見直った。

「駄目だったの?」

 楓は自分が何かをやらかした自覚だけはあるらしく、そうやって上目遣いで見つめられると怒る気にもならない。いや、怒るようなことでもないし食べるかと私が差し出したのだから文句を言うことではないのだから。

「そうね、食べ方がなってなかったわね」

 私の意地の悪さが露見しないように出来るだけ優しくしてあげることにした。楓の口元のソースを拭いて、私のたこ焼きを楓の口元へ運んでみる。

「あーん」

 お姉さんと言えどもこれはなかなか恥ずかしい。周りの目もあるし、結構な勇気がいる行為だったのかとやってみて実感する。

 楓はというとなんの躊躇も情緒なくパクっと食べてしまった。そうだった、この子は何でも食べるんだ。本人曰く眼の前にあるものを食べないなんて作ってくれた人に申し訳ないと言っていたが、初恋のお姉さんからあーんとしてもらってもう少し嬉しそうにとか、恥じらいながらとかそういうのはないものなのだろうか。

「普通のも美味しいね」

 今度こそと味わったたこ焼きを満足そうに飲み込んで楓は口を開いた。聞きたいのは味の感想ではなくて、今の気持ちなのだけど。

「桜子姉さんにも僕のあげるよ、そろそろ冷めて食べやすいんじゃないかな」

 駄目だこれはとため息をついた私の眼の前にマヨたこが差し出される。

「あーん」

 と楓が躊躇もなくやってくる、今度は私がやる番なのか。この子は何で戸惑ったりせずにそういうことが出来るのだろうか。そういえば昔も私の頬に付いていたご飯粒をなんの躊躇いもなく取って、楓が食べてしまったことがある。あの時も周りからは歓声が上がり、私は顔から火が出る思いだったがこの子はそういう行為に抵抗がないのだ。周りに茶化されても何のことか理解していなかったし、行動原理が所謂男前のすることでそれが当たり前だから抵抗がないのだろう。

「あーん」

 私は覚悟を決めて口を開けて、楓から食べさせて貰う。首筋にかかる髪が邪魔になりそうだから髪を押さえ、たこ焼きを口に含む。味が解るような状況ではないのだが、なんでこの子は当たり前に感想が言えたのだろうか。

「これは結構くるわね」

 楓もマヨたこを頬張りながら私の感想の意味が分からなかったらしく首を傾げている。

「マヨたこも美味しかったけど、この食べ方は恥ずかしいわ」

 私は楓の頭を撫でながら恥ずかしいのを誤魔化した。楓にはやっぱり何が恥ずかしいのか伝わっていないようだが、それがこの子の魅力だったり良さなのだろう。

 すっかり私だけが恥ずかしい思いをした格好だがなんとか挽回しなくてはならない。

「次はりんご飴でも食べましょうか」

 私は食欲で気持ちをリセットする事にした。楓は何か考えているのか、顎に手を当てて左上を見上げている。

「りんご飴って食べたことないかも」

 そう言えばこの子の家は結構食べ物に厳しいんだった。お菓子なんて基本なく、従妹の私の所に来てたまに食べられる程度だと言っていた。小さい頃から健康で居たわけでもないから、親が心配するのも分からなくは無いけど、医学を囓った身からすると根拠が薄いと思う。

「じゃあ、りんご飴二人で食べましょう」

 祭りは仕掛け花火の時間が迫ってきて少し屋台通りが空いてきたように感じる。

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