stay together ②
サイトの仕様変更と書き方に悩んでおりました。ここから楓の心情をメインに綴っていきたいと思います。
春が来た。この街を囲うようにそびえ立つ山々も雪化粧から少しづつ新緑の翠と露出した山肌のコントラストが目立つ景色へと変わり始めている。
僕、木下楓の心臓はなんとかなっている。時折痛みや息苦しさを感じる事があるけど、去年の暮れから付き合いとなればなんとなく我慢の仕方やごまかし方が分かって来た。以前は起床すれば思いっきり背伸びをして体に血を巡らせて、頭と体に朝が来たことを知られせていたけど今はそんな乱暴な起き方はしない様に注意している。ゆっくりと緩やかに体を覚醒させてあげるように心がけて、痛まない心臓との付き合い方を探している。痛みに慣れてきたなんて言ってはいるけど痛い思いはできるだけしたくはない。
それでも昼神家の中では僕が一番の早起きなのは変わりない。寝るのは家族皆そんなに変わらないけど、昼神家の面々は朝が苦手な様に思う。そんな皆を起こすために渡り廊下の雨戸開けて太陽の光を家の中に取り込んで行く。東の山の向こうから顔を出した太陽が冬の間よりも近づいたような気がして眩しさに少しばかり既視感を覚えた。
「あともう少しで1年か」
後2ヶ月もすればお父さんが居なくなって1年になる。桜子と婚約したのに喪中で何もできていないことに後ろめたさも感じるし、この胸の痛みの件を黙ったまま、結婚式だの何だのと進んでいって大丈夫なんだろうかと思ってしまう。どうなるにせよ桜子と一緒に居ると決めたのだから、そろそろ改めてプロポーズとかしたほうが良いのかもしれない。
世の中の書籍やドラマのイメージだとバラの花束やダイヤの指輪(給料3ヶ月分)なんだろうけど、こんな身体と病気のお陰で定職もなく収入なんてない。0に3を掛けたところで何も増える訳も無く、どうしたらいいのか悩みが増えるばかりだ。
朝食のだし巻き卵を焼きながらも考え事は続く、手が空いたらインターネットでロマンチックでローコストなプロポーズでも無いか調べてみようと思慮にふけっていたら、いつもよりも卵の焼色がきつね色になってしまった。
「ありゃりゃ」
食べられないわけじゃないからよしよしと食卓の準備を進めた。時計は7時を過ぎていてそろそろ恵子さん辺りから起きてくる頃だ。昼神家の朝食は皆揃っていただきますとはならない、現に今は僕一人で朝食をとっている。
恵子さんが起きてきて眠そうに目をこすりながらおはようと挨拶され、僕も咀嚼中の口元を隠しておはようと挨拶をした。恵子さんでもゆっくりなのに桜子はとにかく低血圧で起きてこない。ほぼ一緒に寝ているのに僕がカーテンを開けても、部屋を出ていってもいつまでも夢の中にいる。あんなに夢の中にどっぷり浸かっていたら普通の社会人なら相当問題児扱いされると思うけど、更に上の孫一さんがいて、病院の診察時間30分前まで寝ているのだから桜子が診察時間1時間前に起きるのは早起きなのかもしれない。
僕は自分の食事も終わり分の片付けも終わって、朝のくつろぎタイムにテレビを見ていたら地元がズームインされ、桜並木が紹介されていてとても綺麗に映っていた。
「あら、今年はもう見頃なのね」
恵子さんが朝食を食べながらテレビに映る桜並木に感想を述べる。
「本当にきれいですね、混むんですか、ここ?」
「どうかしら、出店が出てるわけでもないからそこまでではないと思うけど」
これだと思って魅入っていたら、テレビからダイヤモンドは永遠の輝きと素敵な指輪もおすすめされた。高価な指輪はちょっと無理かなと思いながら、素敵な桜並木でのプロポーズプランを考えてみよう。
廊下が軋む足音がして、ようやく桜子が起きたみたいだ。ガラガラと居間の扉を開けてボリボリとお腹をかきながら入室してくる姿は休日のサラリーマンみたいで滑稽に見える。本当にこの人にロマンチックなプロポーズが通用するだろうかと不安になってしまった。
「おはよう桜子」
「楓、おはよう」
僕の声掛けに、大あくびをしながら返事をして来た桜子は恵子さんからお茶を受け取って僕の朝食を食べ始める。桜子がご飯を食べているのを見るが好きだ、美味しそうに食べてくれるし、本当に美味しいと思っているとほっぺたを押さえながら食べるのが癖で、今もちょっと焼きすぎただし巻き卵に大根おろしを添えて食べて、美味しそうにほっぺたを押さえている。
「ほっぺた落ちそうなの?」
つい微笑ましくて笑顔になってしまう。僕がニコニコとしているが嬉しいのか桜子も僕の頭を撫でながら笑顔になっくれた。
「今日も美味しいわよ、お婿さん」
「なら良かった」
そんな僕たちのやり取りを見て恵子さんが微笑んでいる。
「あんた達今度休み何処か出かけてきたら?」
急須からお茶を注ぎながら恵子さんが話しかけてきた。待ってましたと心のなかでガッツポーズをしてしまう。
「さっきテレビで桜並木の紹介してたよ」
僕は恵子さんからのパスをしっかりとゴールに蹴り込んだ。あま、サッカーなんて、テレビで見たことあるだけでしたこと無いんだけども。
「桜並木?」
桜子が怪訝そうな顔をする。はて、普通の女子は桜とか好きじゃないっけ?あなた桜子って名前なんだから桜好きじゃないの?。いや花より団子ってタイプな気がする。僕が困っているのを察してか恵子さんがまたアシストをしてくれる。
「近くに美味しい団子屋もあるわよ」
「なによ、それ。私が花より団子って事?」
いや、実際に怪訝そうな顔をしていたじゃないかと僕と恵子さんが憤慨する桜子を見つめて笑ってしまった。
「いいわよ、お花見くらい行ってあげるわよ」
なんでこの人はこんな事で喧嘩腰になるのだろう、本当に子供っぽいと思ってまた恵子さんと2人で笑ってしまった。楽しい食卓に花が咲いたように笑い声が響く。
どうプロポーズするか考えないといけない。




