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グレイシャルLOVE  作者: YOU-Hi
第5節 stay together
33/35

stay together ①

 喜一郎の一件から一夜明け、昼神内科医院の診察が再開していた。三が日が終わっての初の開院ということもあり、いつも以上に病院は賑わっていた。中でも桜子が喜一郎の応急救護を行って、見事に一命を取り留めたと言う話題は目立った話題も無い田舎町ではセンセーショナルな事件として取り扱われていた。

 一命を取り留めたと言っても桜子が逡巡していた時間が原因になったかは不明だが、喜一郎には低酸素脳症の症状があり、現状手足に麻痺があり首から上しか動かすことが出来ない状態だと言う。

「いやー、桜子ちゃんはすごいずら」

 診察室に呼ばれた老人は入ってくるなり桜子に称賛を送る。桜子のお陰で一命を取り留めたのは間違いないのだが、当の桜子の中には自分がもっとしっかりしていれば麻痺も残らずに助けられたのではないかと言う思いもあった。孫一には思い上がりだと言われ、楓には命が助かったのは桜子が頑張ったからだ、後の事に責任を感じてはいけないとか、桜子の責任ではないとそれぞれの言葉で伝えてくれた。

「なにもしてないわよ。他の外科医ならもっと上手く出来かも知れないし」

 朝からこんな調子で褒められているのに桜子は責められているような感覚に陥ってしまっていた。自分が迷っていなければ、自分がしっかりしていれば誰も死ななせる事はなかったのにと後ろ向きに考えてしまう。

「ここには外科医なんて桜子ちゃんしかおらんよ」

 老人が言うことも最もだった。片田舎に外科医がゴロゴロといるわけがないし、桜子が居たから助かったのは間違いないのだが、それでも胸を張って称賛を受ける気持ちにはなれなかった。

「私のことはいいの。診察に来たんでしょ」

 そうそうと手拍子を打ち、老人は腰が痛いだの最近食べ物を飲み込むと咳き込むだのと自身の気になる事を挙げていく。

「誤嚥性肺炎はいやね」

 老人がそうそうと桜子に指を指して来たのを、老人のカルテでいなす。要は指を指すなと桜子は伝えたかったようだ。

「食べ物飲み込みやすくする薬を出しとくから、粉薬だからヨーグルトにでも入れて一緒食べちゃって」

「ヨーグルトなんて、たべねぇよ」

「なら良かったじゃない、甘いのとか果物入ったのもあるのよ」

 老人たちの相手をしていればなんとなく気分が落ち着くのか、仕事に集中しているのか桜子の表情は少しばかり明るくなったように目の前の老人は感じていた。

 そして、相変わらず老人達は手であしらわれて、退出を促されるのであった。


 楓もまた悩みがあった。先日の桜子の反応を見れば自分の中にある不安を口にすることは出来ないと思っていた。ここ数ヶ月本当に時折であるが、胸の痛みを感じることがあり、以前のような総合病院にでも行けばわかるのかもしれなかったが楓1人で外出出来る環境にも無く、仮に行けたとして検査入院なんて事になればそれはまた桜子の心を乱してしまうことになってしまう。

 そんな事を考えているとやはり、胸が締め付けられる様な感覚になる。

「ほんと、文学的表現だけならいいのにね」

 実際に胸に痛みを感じだして楓は苦悶の表情を浮かべる。痛みがやってくる原因やタイミング、対処法分かっていたり、薬があればいいのかもしれないが楓はそれらの答えを待ち合わせておらず、ただじっとして痛みが去るのを待つことしか出来ない。

 本を読んでいた手を休め、胸に手を立てて耐え忍ぶ。時折こんな調子だから最近はまた自室にこもっていることが多いのだが、音楽活動で作曲だ作詞だと理由をつけて1人になる口実にしていた。

「本当にちゃんと歌作ろうかな」

 やっと胸の痛みが和らいできた楓はぼそっと呟く。また最近丈夫の葬儀のときのように歌で伝えたいこと、残したい想いを感じるようになって来ている。桜子の事は本当に好きでずっと一緒にいたいと言う思いがあるが、まだ喪中でしっかりと入籍も出来ていない。そこに最近感じている胸の痛みが、まるで自分自身に残された時間を伝えられているようで焦りを感じている。ずっと一緒にいたい人と永遠を誓っても、果たして意味はあるのか、報われないとしても桜子を愛そうと、そんなことを考えながらまた歌を紡ぎ出していく。

「でもこれは誰にも聞かせられないんだろうな」

 楓は自虐的に呟いていた。この歌を人前で歌うのは、きっと今の自分に置かれている状況を話すようなもので、桜子なら気がついてしまう訳で結局伝えられない自分の思いはどこへ行くのだろうかとそんな事を考えてしまうのに、何故か歌詞もメロディーもさらさらと川の流れのように溢れ出して海のように一つの歌として纏まっていく。

「こういうのって才能?」

 丈夫が楓が小さいときから色んな曲を聞かせてくれて、ギターの弾き方と細かな音楽の知識を教えてくれていたからなのだが、考えたメロディーを歌にしていくという事は、やはり素養がなければ出来るものでは何のかもしれない。

「でもやっぱり歌えないよねー」

 そろそろ日も陰ってきて桜子たちが帰って来る。もしからしたらギターの音くらいは病院にも聞こえているかもしれない、桜子に聞かれたら適当に誤魔化せばいいかとそんなことを考えながら楓は立ち上がり自室を出ていく。みんなでいる間は胸が傷まないように自分だけのおまじないをして。

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