誰かの気持ちを考えた事がありますか ③
葬儀は厳かに進んでいた。
丈夫の死を惜しみながら多くの人が参列してくれた。喪主を務める楓と孫一、その隣には桜子が並び儀式を見つめている。曹洞宗の葬儀は他の仏教では見られないような特徴がある。まず死者はこれからお釈迦様の弟子になるために旅立つと言う考え方があり、葬儀が始まると引導を渡す僧侶、導師によって剃髪が行われる。
次にその導師によって授戒の為の儀式がおこなわれて、お釈迦様のもとへ弟子入りする死者を清める。これらの儀式の後に、読経が行われて焼香となる。
焼香に向かう参列者は桜子、楓、孫一と皆順番に会釈を交わしたり、実際に言葉を交わす参列者も少なくはなかった。桜子は俯き、疲れた様子で参列者に頭を下げていた。自分が助けてあげられなかったという自責の念があり、言葉少なく参列者を見送っていた。それとは対象的に楓は普段の印象とは違い立派に喪主の役割を果たしていた。手続きなどはほぼ孫一に任せてしまっていたので2人で喪主を努めているが、参列者の挨拶にしっかり受け答えをして気丈に振る舞い、立派だと賛辞を述べる参列者も少なくはなかった。
孫一はまだ汗が止まらなかった。結局誰にも楓のやろうとしている事を相談出来ずに今を迎えてしまい。この後どうなるのかの不安に押しつぶされそうになっていた。事情を知らなければ、若い喪主に代わり手続きその他を終えて憔悴した様子に見えるだろう。実際に憔悴しており、その点においては誤解は生まれていない。
「なあ、楓よ。本当にやるのか?」
焼香も一段落して、またお経を唱えるべく導師が準備をしている。そんなタイミングで孫一は震え声で楓に話しかけた。不安そうに楓を見つめる孫一であったが、楓は真っ直ぐを見つめ孫一の不安な様子を見る事は無かった。
「うん、出棺の前だよね」
楓は言葉を交わしても孫一と目線を交わすことは無く、行間を読むとか周りの反応や視線から意味を察する事は一切なく孫一の最後の願いも泡と消える。孫一もはっきりと言えない後ろめたさもあり、直接的な内容を言わなかったことに後悔をしながら次々と唱えられるお経を聞いていた。このままなら出棺の前、鼓鈸三通 (くはつさんつう)のタイミングで楓はギターを持ってきて歌うつもりでいる。鳴り物を鳴らし音楽で死者をお見送りするやる事は全く一緒なのだが、意味が全く違うものだ。
「どうすりゃいいんだよ」
孫一は故人に成って3日の丈夫に助けてほしいと願いながら、その忙しかった数日で初めて故人のことを思っていた。丈夫がいたらなんというのか、昨日の夜に娘婿に説教を垂れた時は自分が偉そうに楓に言った。だが今孫一も改めて丈夫ならなんと言うか考えてみた。
「まあ、なるようにしかなりませんよ。Let It Beって言うじゃないですか?」
丈夫の言葉が思い出される。あの洋楽かぶれめと亡き兄を思い出し孫一は少し苛立ちを感じた。丈夫ならこの状況でそう言う気がして腹が立ったが、同時に気持ちが楽になり孫一の顔色が明るくなる。
「そうだな、なるようになるさ」
孫一のその言葉を聞いていた楓が丈夫の好きだった洋楽を口ずさむ。
「静かにっ」
その楓は太ももを抓られ、桜子に咎められいる。
三者三様にいつもの様な行動だった。でもそれは丈夫が亡くなって初めてのことで、3人共にそれがきっかけになったのか俯いていた桜子も不安に押し潰されそうだった孫一も、自分がやりたい事に自信だけはある楓も皆が前を向いた瞬間だった。
ついにお経が全て唱えられ、出棺の前までやって来た。ここで時間がほしいとだけ事前に導師に伝えていた孫一は導師からの視線を合図に立ち上がる。
「えー、本日は皆様ご多用の所、わざわざご会葬いただきまして誠に有難うございました。出棺に先立ちまして、今は婿に行ったので昼神家なんですが、木下家を代表して一言ご挨拶を申し上げます」
すらすらと喪主の挨拶を述べる孫一がうっかりいつもの様な軽口を交えつつ挨拶をする。丈夫の人生を振り返り、突然の別れになり自分と丈夫の最後の会話が隣の娘と婿の結納の時に酔っぱらって絡んだ雑な会話だったこと。そんな沢山のどうでもいいことが大事だったんだと軽口が見え隠れしながらもしっかりと挨拶をした。
「そして、婿殿。楓君も丈夫の息子として皆さんに伝えたい事があります。あー、ですが。あの、本当にその、この場では申し訳ないんですが。多分、その仮に丈夫がもし、ここにいたらなるようになります。としかあいつは言わないと思うんですよ」
孫一が必死に話している最中、楓はアコースティックギターを抱えて帰ってきた。流石にその光景を見た参列者もざわめき、混乱している様子だ。そこへ孫一が言葉を続ける。
「だから、その。皆さんの中にも色んな想いがあるんでしょう。私だって今回の件は神様に一言申したいそんな気分です。だからこそ、丈夫の思いを、この楓君が代弁する機会を今頂きたいのです」
喋り通しの孫一は一度唾を飲み込み一呼吸あけて、また話し始めた。その目はいつも見せないような真剣さで桜子にはとても新鮮に映っていた。新しい家族である楓の為に頑張っている父の手を桜子はそっと握って父を見た。その父は娘と新しい息子を見て大きく頷き最後のお願いをする。
「正しくないのも間違っているのも重々承知してます。ですが息子の歌を聞いてあげてください」
少し沈黙があった。誰も止める者、咎める者が居ないのか導師、参列者、孫一、桜子と順番に視線を交わし楓は初めて人前で1人で歌う。小さい時から父と歌っていたことを思い出しながら。
分かっている人はわかっていると思いますが、歌をインスピレーションに書いております
気が向いたら聞いてみてください。最初のサビまででいいような気がします
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&opi=89978449&url=https://m.youtube.com/watch%3Fv%3DjXT_MujRmbo&ved=2ahUKEwi5wqXskN2EAxU5bvUHHSEtDuMQ3yx6BAgREAI&usg=AOvVaw1s4kQOHqL-K3pBJALFnyF5




