Knockin' on heaven's door ⑤
次の日のお昼。楓の親父さんが持ってきてくれたハンバーグ弁当を食べながら、これからどうなのだろうかと考えていた。
とりあえず今は楓の容態も安定しているが、リハビリなどしていく事を考えると楓の親父さんだけでは大変だろう。私が大学を休学して楓のサポートをしたほうがいいのではないかとそんな考えが頭に浮かんでくる。
私はハンバーグを飲み込みながら、両親にどんな顔をすれば良いのか、大学に受かってからは結構両親に酷いことを言ってきた。父より優秀な医者になると啖呵も切ってしまったし、そんな物言いを咎めてきた母にも学歴を絡めて色々と言ってしまっていた。
「親の金で大学に行ってるのよね」
少しだけならと先生の許可も出て、ハンバーグを頬張っていた楓がモグモグと咀嚼しながら私に何か言ってくる。多分どうかしたのか聞きたいのだろう。
「考え事してたのよ」
結構な量を頬張っているのに次のハンバーグをフォークに刺して準備している辺り食い意地張りすぎてはないだろうか。
「少しって言われているでしょう」
私から睨まれて残念そうな顔をしている楓を見ていると悩んでいるのも馬鹿らしくなってしまう。楓はフォークを1度皿に戻して、コップの水を飲み干して楓が口を開いた。
「何考えてたの?」
私は空になったコップにまた少し水を追加して、楓に渡しながら答える。
「これからの私達のことよ」
何も考えずに真面目に答えた後、この言い方はまだ誤解されるのではないかと思った瞬間。
「もう結婚する?」
ほら、やっぱり。いや私の言い方が悪かったのだと反省をしながらため息を付いた。
「まだしないわ!」
「けちー」
子供みたいにふくれっ面で私に悪態をついてくる楓の頭を軽くチョップしながら話を続ける。
「これからあなたの身の回りの事とか考えると、親父さんの他にも手伝える人が居たほうが良いでしょう?」
またハンバーグを食べ始めた楓が不思議そうにこっち見て、腕組みしながらハンバーグを咀嚼している。
「大学を休んで私も手伝おうかと思ってたのよ」
「駄目、それは駄目」
楓が私に向かって腕でバツを作ってアピールしてくる。駄目と言われると思っていなかったので少し面食らってしまった。
「なんで駄目なの?」
私の考えも聞きもしないでいきなり否定されたので食ってかかってしまったが、楓は気にせずに続けた。
「桜子姉さんのお父さんとお母さんが頑張ってくれたから、東京の大学に通えているんでしょう?」
それを言われると二の句が継げない。私だってそう思っているから悩んでいるのだが、楓がそういう以上は私からは何も言えないだろう。楓の親父さんが言ってくれればいいけど、あの人は多分あるがままに受け止めてしまう。だから助けてほしいとか言ったりしないと思うので多分無理だろう。
「でも大丈夫なの?。私が居なくて困らない?」
うーんと唸りながら、また楓は腕組みをしている。私の言い方も少し意地が悪いと思うが楓が望んでくれれば理解が得られると思ってしまう。
「桜子姉さんがいてくれれば嬉しいけど、僕のわがままで叔父さんたちや桜子姉さんに迷惑はかけられないよ」
本当にこの子は。
こんな時までいい子でいなくてもいいと思うのだけど、私が原因でこうなっているのだし、強く出れない所もあるので仕方ないのかもしれない。
「じゃあ後2日だけね」
水を飲んでいた楓が思いっきり咽っている。何を今更と思うが、これぐらいは言ってもいいだろう。
病室の扉が開いて楓の親父さんが入ってくる。咳き込む楓の背中を擦りながら、親父さんに挨拶する。にこやかにしているが少し疲れているように見えるが大丈夫だろうか。
「楓くん、大丈夫ですか?」
ベットを挟んで私の反対側に座ったおじさんはちょっと躊躇っているように見えた。楓の容態のことでなにか言われたのだろうか。
「どうかしたんですか?」
どう言葉にすればいいのか親父さんは迷っているようだった。楓の容態がよほど悪いのかと心配になり、私は楓の手を強く握って覚悟を決めた。
「何を言われても驚きません。早く言ってください」
親父さんは悪くないのについ言葉が強くなってしまう。悪いのは私なのに、本当に私は。
「実は、私は楓の心臓のことなんですが」
ほら、来た。覚悟を決めろ桜子。
「この病院だとまだMRIと言う検査装置がないので楓くんの心臓を調べることが出来ないそうなんです」
MRIがあれば確かに心臓の状況が手に取るようにわかるだろう。
楓が不安そうにしてしている。自分の知らない単語が出てきて逆に怖くなったんだろうか、私の手を握る楓の力が強くなっている。
「それで東京の桜子さんの大学病院へ転院することになりまして」
楓がバンザイしている、心底嬉しそうだ。この子、自分がそれなりに重大な病気の可能性があるって自覚ないのだろうか。
「楓くん、バンザイされると離れてしまうパパとしては悲しくなってしまうのですが」
親父さんと私が頭を抱えている中、気まずそうに楓は苦笑いをしている。一つ私の心配が杞憂になったがこれからどうなることやら。




