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グレイシャルLOVE  作者: YOU-Hi
第2節 Knockin' on heaven's door
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Knockin' on heaven's door ④

 私と今日子が散々泣いた後はずっとバタバタしていた。警察に事情を聞かれて経緯を話したり、病院に到着した父と母に怒られて、楓の親父さんに何度も何度も私は謝ったのだ。

「楓くんがそうしたくてこうなったのなら、後悔はないでしょう」

 相変わらず楓の親父さんは怒らない。楓がああいう子になっているのはこの人の影響が大きいだろう。うちの親と交換してほしいくらいに人格者だ。楓が小さいときから男で一つで楓を育ててきたのに加えて、楓の人格を尊重していつも楓にどうしたいか何がしたいが聞いてから親父さんも話していたの思い出す。うちの親なんか私が物心ついた頃には医者になれ、跡を継げだったのに比べると雲泥どころか月と大地ほど感覚が離れている。

「それに私は嬉しいんですよ。あの子が自分より人の事を優先できる利他的な感情を持っていることが」

 楓のお母さんは楓が小さいときに交通事故で死んでしまった。車が交差点に突っ込んできて、いち早く気がついた楓のお母さんは信号待ちをしていた全く知らない人達を逃がして逃げ遅れて事故にあってしまった。運転手は心臓麻痺で楓のお母さんを引いた時には息絶えていたかもしれない言うし救われない事件だった。

 楓もお母さんと同じように人を守る選択が出来る事が、ちゃんといい子に育っている証なんだろう。

「でもまだ目を覚ましてないんですよ、目を覚ましてもちゃんと元通りに生活できるかもわからないんですよ」

 私は仮にも医学を志すものとして多少の知識がある。心肺停止した人間が蘇生して障害を持たずに目を覚ます確率なんで僅かしか無いのだ。

「目は覚ましますよ」

 集中治療室の楓を見ながら楓の親父さんが答える。ときどきこんな不思議なことを言う人だ。

「さっき寝ている楓と約束してきました。明日の晩御飯はハンバーグを作っておくので、間に合うように目を覚ますようにって」

 楓のような満面の笑みでそう言われると本当にそんな気がしてくるから不思議だ。

「でも目を覚ましても退院はできないと思うので、食べられませんよ?」

 親父さんははっとした顔をして苦笑いをする。この人が人格者で、尚且つこんな感じの人だから、楓も王子様キャラみたいな純粋な子なんだと本当に思う。

「困りました、最悪冷凍保存ですかね」


 楓が目を覚ましたのは次の日の夕方だった。


 楓は翌朝には呼吸や心拍も安定してきたので個室に移されていた。親父さんと私は付き添いをしていたが、私は徹夜でつい眠ってしまっていて、気がついたらひぐらしの鳴き声が聞こえてくる夕方になっていた。親父さんは目を覚ました時には居なくなっていて、やっぱりハンバーグを作りに帰ったのだろうか。

 暑さでのどが渇いていた、病室の水差しからコップに水を注いでいた所に急に声をかけられた。

「お水、僕の分も貰える?」

 私はコップから水が溢れているのに暫く動きが取れなかった。楓が私に話しかけてきた現実を理解するまでに時間がかかってしまった。

「桜子姉さん、お水溢れてる」

 少しかすれた声で私の名前を呼ばれて、ようやく水差しを置いて楓の所へ向かう。楓の顔を覗き込んで矢継ぎ早に話しかけていく。

「楓、私見える?、指何本ある?。痛い所は無い?身体は動く?」

 楓のほうはだいぶ混乱しているのか、上手く答えられていない。それが私を余計に不安して更に質問を浴びせかけてしまう。

「ああ、えっと足が動かないかも」

 そう言われて私の体に重いものが押しかかる。やっぱりだ、心臓マッサージをしてたって蘇生の確率がちょっと上がるだけだ。心臓が止まれば血が流れない異常何処かに麻痺や障害が出ることのほうが多い。

「ごめんね、楓。全部私のせいだわ」

 私は項垂れながらナースコールを押してナースを呼ぶ。後は私より医者や看護婦に任せた方が良いだろう。

「そんな事ないよ。桜子姉さんな無事で良かった。それより僕、お水飲みたいな」

 私がショックを受けているのを察してか、楓が明るく声をかけてくる。手はちゃんと動くようで私の髪をそっと撫ででくれた。それが嬉しく泣きそうになりながら、ここで泣いたら楓を傷つけてしまうと必死に我慢する。

「可愛く言っても駄目よ、病院の人来るまで少し待ちなさい」

 出来るだけといつも通りに受け答えをしてみて、楓の頭にそっと触れてみる、

「大丈夫、痛くないよ」

 そう答えた楓の方から私のてに頭を擦り付けてくる。本当に猫みたいだ。優しく頭を撫でていたが、つい顎も撫でてしまいたくなり実行してしまった。楓も不思議そうに微笑んでいる。

 そんな中に看護婦達がやって来て、私は恥ずかしくて顔が真っ赤になり、顎を撫でながら動きが止まってしまった。

「意識が回復したの、良かったわね」

 楓が助かったと教えてくれた看護婦が微笑みながら、医師の共にテキパキと楓の身体を確認していく。

  結果、現状ではやっぱり足に麻痺があるようだ。膝から下には痛覚がなく、股関節は動かせるようだけど歩けるかは今後の頑張り次第となりそうだ。

「お水は飲んでもいいですか?」

 忘れていた。目を覚ました瞬間から飲みたいと言っていたんだった。水差しに見をやった看護婦があらあらと苦笑してコップを私に渡してくれる。

「たくさんは駄目ですよ、唇を潤すくらいの気持ちで少しずつね」

 楓に少しずつ水を飲ませてやると少し落ち着いたようで、いつもの楓の笑顔が帰ってきた。

「ありがとう。桜子姉さん」

 私達を見ていた看護婦達が微笑みながら楓の親父さんに連絡しておくからと教えてくれた。親父さんは今頃本当にハンバーグを作っているのだろうか。親父さんのハンバーグ美味しんだよなと思い出し、あの人の言う通りになったんだなと笑ってしいた。それを見ていた楓が不思議そうにしていたので理由を教えてあげる。

「昨日親父さんが言っていたのよ、晩御飯はハンバーグだから、夕方には目を覚ますようにって」

 それは聞いた楓はガッツポーズをして喜んでいるが、この親子はどんだけ純粋なんだろうかと少し呆れてしまう。

「昨日心臓止まって、さっき目を覚ました人が晩御飯食べに帰れるわけ無いでしょう」

 さっきの私のように項垂れている楓をみて、歩けないかもしれないことより、ハンバーグが食べられないことのほうが絶望感が強いなんて何考えているのか。

「病院にお弁当で届けてもらえないかな?、桜子姉さんも食べたいよね?」

 まあ、食べたいけど。なんて思いを知られるわけにもいかず顔を背けて頬をかいて誤魔化した。

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