06『彼の性癖は─ツインテールお姉さん系ロリエルフ……(以下略』
余談。
森を下り、汚れ切った制服姿で彼女と共に探偵の所へ向かっている時の会話である。
「そういえば、さっきは浮いてたお前だけどさ。なんで今は浮いてないんだ? なんか操作出来たりするのか?」
「いーや、操作できないよ。不定期で、勝手に浮いちゃうの」
「不定期で浮くって、まじかよ」
そりゃあ恐ろしい。
いつも浮いているヤツが、急に調子に乗ってクラスで一発芸を披露したあげく激滑りした時ぐらい恐ろしい。
そして、この”例”に使ったのは実体験じゃない。
それはいくらなんでも僕じゃない。
というか、僕はクラスで一発芸をするほど頭がおかしくない。
『能ある鷹は爪を隠す』のだ。
そんな簡単に自分の実力を他人に晒すわけなかろう。
「そうそう、だから私は私で苦労しているわけ」
「じゃあ、雪凪。学校で浮いちまった時はどうしてるんだ?」
「え? 机に必死に捕まって誤魔化してるけど。浮いちゃうとね、本気で捕まらないと大変なことになるの。だから机に対してうつ伏せになって、机の両端を掴むんだよ?」
「ふーん、って、奇行すぎないかそれ!? もしかしてお前、僕の隣のクラスでそんな格闘してたのかよ」
授業中、急にうつ伏せになって机の両端を掴み始める、か。
傍から見れば、ああ、うん、キ〇ガイの一言だろう。たとえ高嶺の花でもあり、『黄金の絶壁神』でもある美少女である彼女に恋をしている少年がいるとしよう。もしそんな乙女心持ちの少年が、憧れの薔薇が、そんなことをしていると知ったらどうだろうか。
そりゃあ冷めるだろう。
冷え冷え冷え〇タだ。
因みにだが『黄金の絶壁神』というのは今、僕が名付けた。
とあるカードゲームのカード名をオマージュしてみたが、どうだろうか。
いいや、なんかしっくりこないな。
どうせ仇名をつけられるんだ。怒られるようなものぐらいが丁度いい。まぁ怒られたくないから、心の中でだけでしか言わないようにするんだけれども。
それより、どんな仇名にするか。
「奇行でも、仕方がないでしょ。クラスメイトには尿意が! 尿意がまずいの! って嘘ついてたから大丈夫だと思うし」
「うわぁ、そっちのほうが大分マズいと思うのはこの僕だけだろうか」
「なによ? もしかして、ドウテイで変態な緋色坂クンからしたら、私が毎回浮いてるたびに無抵抗にクラスでスカートの中身を見せてしまうようなラッキースケベ的な展開を妄想してたり? うわ、キモイね流石に」
「そんなことしとらんわ! というか、お前みたいなヤツに需要なんてないから、ああ!」
そもそも、仇名とは相手に親しみを込めて呼ぶための”愛称”とは異なり、悪評、事実無根の評判や人間関係のいざこざを噂する名前という意味である。
また渾名というのは愛称と同じような意味であり、仇名とは意味が異なる。
そうだな。
悪評、か。
自分のコイツに対する実体験でもいいだろうか。
「まぁそれはおいておいても、君が変態だっていう証拠はあるよ?」
「どんな証拠だよ、言ってみろよ」
っと、コイツの仇名を考えていたら変な話題が飛んできてしまった。もちろん、爽やか系イケメンの僕からすれば、この程度のおちょくりの対処簡単なんだが。
仕方がなく意識をこれに割いてやる。
ま、どうせこういうのは僕の動揺を誘うためのハッタリだ。コイツに対して変な事をした覚えはないし、問題はない。
そこまでの大事にはならないだろう。
そんな中で金髪ツインテールは人探し指を口に当てて不気味な冷笑を浮かべて、囁く。いや、それは誤解だ。
大声で、周りの視線なんてないも同然と、叫ぶようにソレらを陳列した。
「そりゃあ、緋色坂徒京という人間が前、朗らかに自身の髪性癖について話していたことかな? 『僕はな、ツインテールがいいんだ。え? ショートボブ? あ~、無理無理! ああ、それとエルフが良い。エルフは素晴らしいよ。耳がいい、あのツンツンな耳が美しい! 舐めつくしたい! それに肌はいつまで経ってもツヤツヤなんだよね。ああ、それそれとロリ属性もあり! ロリ体型の癖にお姉さんキャラ? えぇ、最高すぎる! ああ、それとそれとそれと! やっぱりビックな山は忘れられないよなぁ! 王道だよな! これを混ぜて出来たら、あら不思議!? ぼいんぼいんツインテールお姉さん系ロリエルフ美少女の完成────!!』って」
ほらね、全然大したことないで……しょ………………って?
おい、待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て────!!!!。
その瞬間、心臓の鼓動が早くなる。
爆速だ。拍動数、一秒間に一万回ぐらいしていたかもしれない。いや、していた。体温は急激に上昇し、血液はマグマのようにマウナロア火山、体中が噴火したように燃え上がる。
なんで僕はこんなに動揺している!?
必死に脳内の思考回路に電流を走らせて、思考した。
ふむ、なるほど。
彼女が先程発した破廉恥にも程がある台詞はなんでか知らないが、身に覚えのあるセリフだったのだ。というか自分が言った台詞だ。
だがコイツの前でそんな台詞を言った覚えもない。
詳しくは覚えてはないが、言ってないはずだ。
じゃあ、なんでコイツは知っている!?
「ななな、誰のセリフだよ!?」
「しっかりと認めたまえよ、緋色坂徒京クン?」
「フル……ネームで呼ぶなぁ!? 煽ってんだろ! 僕はお前にそんな台詞を言った記憶はないぞ!」
『僕はお前にそんな台詞を言った記憶はない』
ここで自分の墓穴を掘ったことは、一生恨むべき失言だったとそのリアルタイムに感じた。
それじゃあまるで、僕が別の場所でその発言をしたみたいじゃないか。
「ちゃ、ちゃうちゃうちゃう! 言ってない! 僕は断じてそうは言ってないぞ!」
「ニシシ、とら〇あ────」
「ぎゃぁああああああああ!!!!!!」
僕は叫んだ。ただ叫んだ。
彼女が唐突に発した単語が、聞き覚えのある”店名”だったから。
同時に脳裏に映像が流れ込んできた。一か月前、ある少年が某健全な本屋さんで推しの作家さんの新作本を手にとってニヤニヤしながら気味悪くオタクあるあるの早口言葉を発動、連呼していた壮絶な現場。
そんな地獄絵図が映り込んだのだった。
悪いけど、ちょっと引いちゃうよね。
え? その少年は誰かって?
僕……だ……よ……?
身に覚えがあって当然だった。だって自分自身がしっかりと一か月前に本屋でそんなことをマジで言っていたのだから。
「どこで、どこで見てたんだよーーお前ーーー!!!!」
「え? もちろん、緋色坂クンと因縁付られたあとだからね。ライバルの同行は観察するよ。ちょうど、本屋に立ち寄るのを視たから、君が本に夢中になっている最中、背後一メートル後ろから聞いてたんだよね。変態クンの独白をね」
「い、一メートル!?」
え!? 僕が独り言で言っていたあの破廉恥な様々なセリフが背後一メートルで聞かれていたって!?
待てよ。怖い! 怖すぎる!
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て怖いわ怖いわ怖いし怖いわ怖いわ怖いし怖いわ怖いわ!」
「えぇ、そうかなぁ?」
「そりゃそうだ、このキチガイ鬼畜ツインテールストーカーがぁああああああ!!!!!」
役満に役満を重ねた重神。
彼女は確かに、常軌を逸した『キチガイ』で、まぁ容姿だけでいったら僕の性癖にヘッドショットする『ツインテール』に、ただただ単純に先程の話を聞いた感想の『ストーカー』。
それらどれか一つですら充分なのにも関わらず、彼女は全てがそろっていた。エグ〇ディアだった。
キチガイ鬼畜ツインテールガール。
略して、鬼畜ツインテ。
そしてそれが、僕の中での彼女の”仇名”となるのだった。
数十分経過。
「はぁ、着いたぞ」
「なんか疲れてるようだねぇ、なんでだろうね?」
「テメェの所為だよ、神楽鐘雪凪」
「えぇ~?」
或間駅前のベーカリー『夢丸』。
ベーカリーということは、パン屋さんなのだが。どうやらこの店では、パンを売るほかにカフェも営業しているらしい。
美味しいパンと一緒にコーヒーを飲む。
ふつうの女子高校生たちがお洒落と感じるのか、ここは毎回騒がしく混んでいる。
駅を自転車で通過する時によく、行列になっているのを見たもんだ。
「お前の大声が原因で、きっと僕の性癖が町ゆく人々数人にバレただろうしな」
「大丈夫! 誰もそんなの気にしないから」
「むむ、いや、そうだけど。精神的ダメージってのは大きいんだぞ? いくらこの僕でも、メンタルは弱めなんだ」
「だから、大丈夫だって」
そんなことはない。ここは認めるわけにはいかない。
断じて否定させてもらおう。
「……はぁ。なんで僕の周りのヤツらはこんなヤツらしかいないんだろうな」
もっとも、僕に関わってくれるヤツなんて木色とコイツ、そして妹ぐらいしかいないけどね。
いや、そんな悲しいことを思い出させないでくれ!
いや、悲しくないけどね。別に関わる人がいなくたって、友達がいなくたって、まったくもって悲しくもないし虚しくもない。
逆にだよ、友達が出来て何の利点がある?
そんなものが出来てしまったら、失った時の代償がでかくなるだろう? そうだ、僕が友達を作らない(つくれない)理由ってのは単純なんだ。
友達を作らなければ、何も持ち合わせていなければ、失うという行為がなくて済むのだ。そう、失うものがなにもない。無敵フィーバーな人間、それこそが僕なのだ。
友達がいない、悪いかよ?
失うものが無い人間ほど強いヤツは、この世界に一人ともいないんだよ。
少なくとも、僕はそう思うね!
「こんなヤツらって、なによ。馬鹿にされたーきーぶーんー」
「この僕にストーカー紛いなことをしておいて、馬鹿にされるだけで済むなら安いもんだと思え。一般人なら普通に通報している案件だからな?」
「大丈夫、一般人なら私が後ろにいたことさえも気づかないしさ」
「そういう問題じゃねぇよ」
誰にも見られてないからって犯罪が犯罪じゃなくなくなるってわけじゃあないんだよボケナス。
「ま、そんなカッとすんなって? 老けるよ? 白髪出るよ?」
「うっせー‼ まだ高校生なのに若白髪が生えてきて、洗面所の鏡の前でちょっと心配になった僕のことを気遣えよ!」
「あぁ」
しまった、口が滑った。
おいおい。
そのせいで、彼女は『あ、マジなんですか緋色坂さん』みたいな引いた目しちゃってるよ。黒くて、濁った眼光だよ。ていうか、なんで馬鹿にしてきたアイツの方がシラケてんだよ。
シラケていいのはこっちの方だよ。泣いていいのもな。
「ごほん、と。よし、これ以上アイツを待たせてると冗談抜きでキレられそうだからな。早くいこう。お前の話もアイツが怒ってたら聞いてもらえないだろうしな」
「げっ、それまずいじゃん。早くいこか」
「……自分のこととなると、急ぐんだな」
「そりゃそうだよ? だって、自分のことなんだから」
自分のことだから、自分第一になるは当然。自然の摂理として、僕もそのことを否定したりはしない。自分第一という生き方を否定するなら、緋色坂徒京という存在を否定するのと一緒だからな。
まぁ今の発言は、ちょっと愚痴ってみただけに過ぎない。
まぁ自分のことを優先するのはヨシとしても、僕のことを馬鹿にするのだけは止めてもらいたいものだ。
そう思いつつ、喫茶店パン屋さんのドアと同化した手を回すのだった。