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05『馬と鹿の座談会的な』

 僕は二ヶ月前、親友の本当の姿に出会った。いつものように帰った後、僕の家を襲った怪物。それはまさしく僕の親友であって──、玄関で見た彼の姿は、手足がところどころ獣の様になっていて。

 まさしく、化け物だったのだと衝撃を受けたのを覚えている。それから我を失っている彼に殺されかけた僕は不思議にも一人の人間と出会って、救われた。

 それが僕を今こき使っている探偵様──小南だ。

 あいつはあの時から、あまりにも胡散臭かった。


 まぁそして、それから色々とあって僕は半分人間半分狼の様な存在になってしまったのだが。外見は普段人間よりになっているものの、中身……、人格的な部分はともかく、魂の半分が狼に置き換わっているらしい。

 正確には狼の”化け物”に、らしいが。


 だから今の僕は狼の化け物が持っていた力を使うことができる。

 だがもう本来の力は廃れてきっていて、今に行使できるのは残り香程度のものらしいが。


 詳しいところは、よく知らない。


 で、そんな非科学的なはなし、誰が信じるかって? いやいや、そんなものスーパー天才である僕も信じられなかったさ。最初はね。

 だがしかし、信じざるを得なくなった。

 でなきゃ、この事象は説明できないのだから。


 で、だ。


 人外化け物と同化した当時の自分はいわゆる瀕死状態ってヤツだった。無理やり──そう、無理矢理に僕はあの狼に移り変わったのだから。

 器は耐えきれず、僕の体が耐えきれるわけもなくもう指先一つも動かない、絶体絶命、このままいけば野垂れ死ぬだろう、ってレベルの損傷を負ってしまったのだ。


 そんな状況の時に、またしても探偵小南が現れて「君のことを助けよう。だがその代わり、君には私の助手として三ヶ月の間役に立ってもらう。ん? 私のことをなんと呼んだらいいって? もちろん、先生だとも。私のことは先生と呼びたまえ」

 なんて恩に着る形となったのである。


 瀕死だった自分を助けてもらう代わりに、三か月間、僕は彼の助手として働く。僕と彼はそんな関係なのだ。

 それに最初に狼から命を助けられたという恩もあるしな。


「へぇ、そりゃそりゃ。その二ヶ月前の事件って、私と会ったあと?」


「ん。そうか、そうだったな。お前とあったのも二ヶ月前だ。まぁおまえとひと悶着あったあとの話だな」


「ふーん、深入りはしないでおくけど」


 街への帰路を雪凪(せつなぎ)に案内してもらいながら、僕の事情を説明する。足を一歩前へ踏み出す度に右左へ揺れる彼女の金色ツインテールがとても気になるのだが、何も言わないでおこう。


「ああ。で、お前はどうなんだよ雪凪(せつなぎ)


「え? なんのこと?」


「そんなの決まってるだろ。僕が一般人じゃないように、お前も一般人じゃない。だって今日の放課後、浮いてたじゃないか。物理的にな。というか、だから僕は追いかけてきたんだぞ? 慌てた顔してたし」


「……クラスで浮いてるのは君だけどね」


「一々五月蠅い!」


 なんてヤツなんだコイツは。

 デリカシーの欠片もない。僕が完璧で天才的な紳士じゃなければ、うるせぇ絶壁野郎が揉ませろとぐらいまでは言っていたかもしれないのに。

 コイツの一言一句が人をイラつかせるのだ。


「はぁ、うるさいなぁ、これぐらいで。これだからドウテイなんだよ」


「ドウ……、テイ……? なっ!? 僕をバカにするなよ!?」


「じゃあ違う????」


「……違いません」


 くそっ、処女の癖に──ドウテイだと僕をバカにしやがって。

 これは到底許される行為ではない。


「じゃあお前はどうなんだ」


「私はもちろん処女だよ?」


「ほーらみろ、お前だって僕と同じ未経験弱者じゃないか」


「違いますーっ。私はあなたと違って、ちゃんと信念を持って意志を持って、ソレを貫いているだけ。これは、愛する人にあげるのだ♡」


「それじゃあまるで僕が、ちゃんとした信念を持たず、意志すら持たず、ふにゃふにゃしているだけだから何もできてない雑魚みたいになるじゃないか!?」


 そうだとも! 彼女はそう胸を張る。

 ああ、くそ。

 そういうつもりなら、言ってやるよ、禁忌の台詞をな。


「絶壁のくせに」


「なんだって!?」


「は、いや。貧乳野郎のくせにバカにするのか……って……」


「きみ、今ので全世界の女性を敵に回したよ?」


「違うね。僕がバカにしたのは、処女で貧乳のくせに、ドウテイでソーセージの僕を馬鹿にする貧乳だよ。つまり、お前だ!」


 すると問答無用で蹴りが飛んでくるものの、大丈夫、もちろん慣れている。なにせ僕は生まれて十七年間、木色という暴力魔を相手にしてきたのだからな。同じステージにいる木色と雪凪なら、コイツの方が一段レベルが下だ!


 彼女はスカートの中身が見えることも厭わずに回し蹴りを発動するものの、腰を落として姿勢を低くすることでソレを回避する。

 蹴りは僕の髪の毛を擦って、びゅんと風切り恩を鳴らした。


「あっぶないなっ!」


「ふんっ!」


 どうやら、怒らせてしまったらしい。

 もっとも、悪いのは僕じゃなくてコイツなのだが。最初に煽ってきたのはコイツのくせに、負けたら拗ねるのかよ。


「まるで子供だな」


「馬鹿にしないで、頭の良さなら私の方が格上ですけど?」


「違うな。お前は確かに勉強は出来る。だがな、勉強が出来るからってそれが頭の良さとイコールで結びつくわけじゃあないんだよ。世間には勉強ができる馬鹿っていうのもいるし、勉強のできない天才だっているんだよ」


 そう。

 世の中多様性だ。

 そして金髪クレイジーガールに指を差す。


「そしてお前は勉強の出来る馬鹿野郎だ」


「なっ、どうやらキミィ。そうとう死にたいよ、ようだね?」


「そんなこと一言も言ってねーよ!」


 彼女は目潰しする体制に入っていたので、僕は両手で自分の大切で可愛い両目をガードしながらそう叫んだ。


 閑話休題。


 それよりだ。

 話が逸れてしまったが、こんな金髪絶壁ツインテール美少女を引き留めて、わざわざセクハラ紛いなドウテイショジョについて議論したかったわけじゃない。

 僕がしたかったのは、コイツの浮いている…………いいや、その表現だと誤解を生むだろう。なにより僕が自分自身のことを自虐しているようで気付いてしまう。


 だからココは彼女のあの現象を、浮遊とでも名付けておこう。

 ゴロが悪いって? 慣れるさ、気にするな。


「それよりだ、雪凪。なんでお前は浮遊しちゃってたんだ?」


「さぁ、私にも分からないよ。明確なターニングポイントがあったわけじゃないからね」


「はぁ、そりゃ大変だ。原因不明ってヤツだな」


「そうなんだよ~でもこの場所に来ると、浮くのが治るんだよねぇ。あれかな? 夜空が綺麗だから」


「というと?」


「私、星を見るのが好きなんだよね。星を見つめてれば、つまらない感情じゃん? 星は綺麗でしょ──」


「なるほどねぇ」


 そう言って溜息をつく隣人。

 でも僕は見逃していない。

 さきほどこの浮遊が何故起こったのか理由を聞こうとした時、彼女は『教えたくない』といったのだ。今度は分からない、で誤魔化そうとしているが無意味である。この探偵の助手である緋色坂徒京様には見抜けるんだよ!

 わーはっはっはっ!!


 最も、その内容なんて分かりっこないのだけど。


「なぁ雪凪。お前はさ、その浮遊が原因で色々と困ってたりしない?」


「…………もちろん、困ってるけど? 生活に支障をきたすしね。浮くっていっても、ほんの十分ぐらいだけど」


「大変だな」


 空を見上げれば、既に暗くなっていて、緋色の月が懸かっていた。


「なあ雪凪」


「なに?」


「僕なら、お前をその体質から解放する方法を知っている人を知っているかもしれない。その体質を治したいのなら、紹介するか?」


 そこで脳裏に思い浮かんだのが、憎き探偵だった。


「え、まじまじのまじ?」


「ああ、マジだよ。確証はないけどな、アイツなら知っている気がする」


「へぇ、そりゃそりゃ。じゃあ紹介。お願いしようかな?」


 じゃあ早速、彼に電話して今から向かうと伝えておこう。そう思って、ポケットに突っこんでいたスマートフォンを乱暴に取り出して起動した。

 ピピ、と無機質な電子音と共にあらゆる情報がディスプレイに投影されていく。


「……げっ」


「む。どうしたの急に苦い顔して、電池でも切れた??」


「違う、が。忘れていた」


 そういえば、彼女を追うのに夢中で『探偵に今すぐ来るように』と呼び出されていたことを忘れてしまっていた。

 電話アプリの不在着信二十三件を見てめまいがした様な気もする。

 さて、ここでするべきことは謝罪……じゃなくて、言い訳を考えておくことだろう。ああ、そうだとも。


 過ぎた事は変えられないとさきほど自分が話していたばかりなのだし、どうすれば激怒を回避できるか、うまく雷撃を喰らわずに済むかを考えたほうが得策だろう。


「あれ、スマートフォン切っちゃって。本当にどうしたのって?」


「いや、電話するのは止めた。圏外だったからな」


「さっき繋がっているように見えたけど?」


「そりゃあ幻覚だろうな。きっとその浮遊の副作用だ」


 もっとも、主作用も害でしかないので悲しいもんなんだがな。

 僕の発言(ジョーク)で気が少しでも緩んだのか、彼女からコチラが気が置けない存在と昇華したからなのかは分からないが、まさしく『ニマっ』と笑うように。

 ジト目金髪天使はツインテールをぴょんと跳ねさせて、コチラを見上げるように腰を下げて目を細めたのだった。


 そしてこう付け足された。


「そんなのサイアクなんですけどー」


 その時、不覚にも鼻血が出てしまったのは言うまでもないことだろう。

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