00『プロローグ』
僕という世界の幕を閉じる上で、神楽鐘雪凪と本格的に付き合うようになったあの瞬間のことを忘れることはないだろう。
僕はとある高校へ入学した。
趣味であったライトノベルの影響もあって、夢のような高校生活を送れるのだとなんでか期待していたのだが、当然のように陰気臭い僕にそんな未来が待っているわけもなく。
入学から三ヶ月ほどで現実と理想の乖離を理解して、憧れのラノベ主人公のような生活なんて送れないのかと絶望した。流石に二年生になれば何かしら人生のターニングポイントぐらいあるだろうとせめてと期待したが、的外れなものであって、何もなかった。
何もなかった、というのはそのまんまの意味である。
体育祭や文化祭、主な学校行事。その全てにおいて欠席に欠席を重ね、そこで生まれるはずであった友好関係、人間関係が皆無。
そう、何もなかったのだ。
二年生の中盤まで空っぽで生きてきた僕には友達なんて碌におらず、いや一人もいなかったために、クラスでは孤高の雑魚という異名さえ持っていた。誰が命名したのかは知らない。ただ二年生の夏休み明けから、陰口のようにそんなことを囁かれていたのを覚えている。
違う。そんなことはどうでもいいのだ。
ともかく、ボクという存在は世界に大して何ら影響のあるものではなかったし、ただちょっと”ボッチ”なだけの普通の男子高校生だったのだ。
そんな色褪せる世界から解放、いや、追い出されたのは高校二年生の秋。
ぼく、『緋色坂徒京』と、かのじょ『神楽鐘雪凪』は正反対という言葉が似合う関係だ。
僕は学校内では勉学面でも、スポーツ面でも、その他諸々何もかもで落ちこぼれであった。模試の結果なんてもう死んでいるし、普段のテストだって数学と社会以外は出来があまりにも悪く、下から数えた方が早いし、というかテストの度に最下位争いをしている。
中学から続く帰宅部の王でもある。僕はスポーツだって出来やしない。
性格は良くないし、金持ちでもないし、ナニモカモガ終わっている。
冴えない男子高校生。
だが彼女は違った。
勉学面でも、スポーツ面でも、その他諸々何もかもで優等生であった。優秀すぎるが挙句、奨学生として高校に通っていて学費が免除されているらしい。加えてスポーツも出来るらしく、卓球では県大会優勝を果たしている。
ゲンキハツラツ、誰に対しても優しいその性格からクラス受けは良く、人気者。
誰がどう見ても彼女という存在は天才だった。決して秀才ではない、一つの間違いもすることのない天才だ。
交錯の余地なんてなかったのだ。
その刹那の前に、彼女とは一度だけの因縁があったけれど。そんなのは大したことないことであって、意味もないことであって、僕と彼女で接点はなかったのだ。
共通点なんてない。相違点ばかりだ。
なにせ、確実に徒京と雪凪という人間は”正反対の存在”であり、相容れないモノなのだから。
廊下で彼女とすれ違う度に吐き気さえも感じる。
つくづく実感するのだ。神様っていうのは性格が悪い、とな。僕と彼女は同じ世界に生きていて、同じ人間という生物なのにも関わらず、なんでここまでも境遇が違うのか。ステータスが違うのか。
僕は別に常人から離れた道を歩いてきたワケじゃない。
ただただ生まれてきて、ただただ育って、ただただ生きてきただけなのに。普通の男子高校生なのに。
何が違ったっていうのだろうか。
彼女という存在を理解した今でも、どこか遠くで嫉妬している。
もし、僕があの時にみた化け物の一人が本当に神様だというのならば、本当に神っていうのは怖いもんだ。多様性の蔓延った社会で、差別の源を創っている張本人。
ふざけるのも、大概にしてほしい。
もっともこれは日本のカミサマの話で、外国の話は知らない。
なにせ学がないから、そこまで思考は及ばないのだ。
自分でもソレは承知しているつもりである。
話を戻すとして、そんな対義語的な存在、水と油的な存在である緋色坂徒京と神楽鐘雪凪にも共通点というのが存在する。
ただただ、単純なものだ。
誰でも、聞けば簡単に理解できること。
僕も勘違いしていたのだ、自分のことを。
僕は勘違いしていたのだ、彼女のことを。
ただの、その共通点っていうのは。
良くも悪くも。
『普通ではない────』
ということだけだった。
カッコよくいうとするのならば、意味不明に言うのならば、二人とも色褪せる世界から追い出されて、いつまで経っても治らない呪いに縛られ続ける怪物だったのだ。
実際に彼女はある意味で天才であったし、周りにのみんなから好かれている。だけど、他人から期待されるという感情というのは、たとえどんなにも出来た人間でも簡単に押し潰せるほどに、大きなものだったのだ。