パパ活男『愛人は若ければ若いほどイイッ!』
愛人は美しければ美しいほどいい。
愛人は多ければ多いほどいい。
愛人は若ければ若い方がいい。
20代?高校生?余裕だね。ロリコンと言われても構わない。
……だが。
「……」
そいつに会った時。俺は声が出ないほどショックを受けた。
細い目、潰れた鼻。捻れた唇。
美人とは言えないのに何で?
俺はその日からすべての愛人と別れてこいつ1人に生きると決めた。
俺もいい年だ。金ならある。好きな物を好きなだけ買ってやるぞ。
・
「ねぇ~ん買って買って買ってぇ~ん?」
「むぅ」
こいつは不細工の癖に一丁前にブランド物を欲しがる。
普通のバッグでいいだろ。
仕方ねぇな。
・
「パパぁ~ん?携帯買ってぇーーん?」
「おいっ。前買ってやったばかりだろ?」
「もう型落ちしてるものぉ」
料金も全部俺が払っているのに何でこんなに強気にねだれる?不細工の癖に。
・
「おいっ!その顔どうした!」
アザが出来てる。不細工がより不細工になってるじゃないか!
「男に殴られたのよぉ!ほっといて!」
……ほっといてと言われても。
俺は男とは別れろなんて言える立場じゃない。
・
「あたし。顔はブスだし頭は悪いしほーんといいとこないよね?」
タバコを吸いながらそう言う愛人は本当にブスだった。
「まぁ。ブスでも若けりゃ何とかなる」
「……否定しなさいよ」
・
「わがれぢゃっだぁ。パパぁ~ん!!」
本命の恋人と別れたらしい。
俺に出来る事は抱き締めてやる事ぐらいだ。
・
「お前。将来はどうするんだ?」
別に俺が食わしてやってもいいが。俺が死んだ後が心配だ。
手に職はつけた方がいい。
「働くわよ」
「働くぅ?」
こいつが?ずーーっと俺に食わしてもらってきたこいつが?
「働いて。欲しい物を買うのよ」
たまらなく説教がしたい。
社会はそんなに甘くない。
お前の欲しい物を買ってやる為に俺がどれだけ働いたと思ってるんだ?
金ってのは空から降ってくるもんだと思ってないか?
「お前みたいな甘ったれを雇ってくれる所はない」
「あるのよねぇ。絶対に雇ってくれるところが」
「絶対にぃ?」
待てよ?風俗か!?そうか。
体を売って欲しい物を買うのか?それはダメだ。そんな事させるぐらいならやはり俺が買ってやる……
「どこだよ!」
「パパのネジ工場」
「……あ」
意識が一瞬飛んで目の前が真っ白になった。
・
フラッシュバック?
これがフラッシュバックってやつか?
こいつと出会った日の俺が見える。
まだ会社の経営がうまくいってた頃の俺だ。
調子に乗って何人も愛人作って浮かれてた。
元嫁が抱っこしているのが今の愛人だ。
・
・
・
愛人遊びがバレた俺が嫁に離婚届を突きつけらている姿が見える。
運っていうのは落ちる時はとことん落ちる。
離婚してすぐ会社は傾き、倒産。俺は町工場で働き始めた。
・
(安いバッグでいいだろ?)
(バッグじゃなくてランドセル!)
(……高いな。最近のランドセルは)
・
(新しいのじゃなきゃダメか~?)
(新しいケータイ持ってないといじめられるもん!)
(そっかぁ。でもたけーなぁ)
・
(何で殴られたんだ?)
(私が気持ち悪いからじゃない?)
(そんなバカな事あるか?イジメじゃないか。学校に殴り込んでやる)
(余計イジメられるって!)
・
(男と別れたか)
(なんで嬉しそうなのよ?)
(べ……別にぃ?)
・
(お前未成年何だからタバコ止めたらどうだ?)
(ワンカートンでプレゼントしてくれてよく言うわよ。本当に私に甘いわよ。パパこそジジイなんだから止めな)
・
・
・
「パパ泣いてる?」
「泣いてないよ」
誤魔化すには無理のある涙の量だがそこを誤魔化すのが男だ。
「こんなワガママな私をここまで育ててくれてありがとうございます」
「……ううっ!?」
追い討ちをかけるなバカ!このままでは威厳が。
「……まぁなんだ?雇ってはやる。うちは厳しいぞ!ネジ作りは甘くない!欲しいものを買う?生意気を!新人が欲しい物をすぐに買えるような給料は出せないぞ!」
「ほーらねっ?絶対に雇ってくれるって言ったでしょ?」
「うるさいっ!で?なんだ?欲しい物ってのは!?」
今日は気分が良い。就職祝に俺が何でも買ってや……
「パパのネクタイ。私が選んであげる」
「あーーっ!」
もうだめだぁ!くそっ!鼻水もヨダレも止まらない。
今日は最高の日だ!
「とりあえず帰ろうか。楽しみぃ。今日は久しぶりにママとパパと三人でご飯だね」
丸めた卒業証書を持って俺の前を歩く学ランの男。
本当に大きくなったな。
『愛人』
俺と嫁に。そしてこれからの人生で出会う沢山の人に愛される人になって欲しいと俺が名付けた。
マナト。身体は男で心は女ってのは俺にはよく分からない
。
この先もお前は多くの差別と戦うだろう。
でもな?ありきたりな言葉だけど俺は一生お前の味方だし、お前を愛し続けるぞ。
お前が産まれた時に俺はそう決めたんだ。
マナト。頑張れよ。