【第一章:1話】魔女、ここに誕生
――《称賛の実》
そう呼ばれる果実を知っているか?
それは、口にした者を不老不死にさせるという。
人々はみなその果実を羨んだ。手に入れるために戦い、争い、時には信頼し合う友でさえも手に掛けたという。
そんなたった一つの果実を争奪する戦争が、一体何十年……何百年と続いたことだろう。
そして……もはや誰が始めたかすら分からないその永い永い争いに、とうとう終止符が打たれる時が訪れる。
多くの犠牲の上に勝利を勝ち取ったのは、一人の若い女だった。
女が果実を一口かじると彼女の身体が黄金色の光に包まれ、やがて収束する。
それはたった一瞬の出来事であったが今この瞬間、彼女は確かに不老不死の肉体へと生まれ変わったのだ。
彼女は勝利の、そして誰しもが憧れた不死の身になれたことへの喜びを全身で噛み締めた。
しかし、幸せを感じていられたのも束の間。いくら不老不死になったところで周りの人間はみな普通に年を取り寿命を迎える。共に幼少期を過ごした友人も例の争いによって既にこの世を去っている。
そうして百年ほど経ったある時、彼女はようやく気付いた。
そもそも、争い事で勝利を手にするということは自分以外の全員を敵に回すということ。そして、不老不死になるということは、『死なない』のではなく『死ねない』ということなのだ、と。
いくら絶望したところで生きていくしかない。『死』という逃げ道が選択肢にすら与えられないのだ。
もう気が付いている頃かな。そう、その彼女こそが〝私〟だよ。
私は……輝かしい勝利と引き換えに数えきれない程多くの大切なものを失った。
《称賛の実》を手にするということ、それはすなわち大罪に値するらしい。
どうやら私はとんでもない重罪を犯してしまったようだ。おそらくこれは私に課せられた罰なのだろう。
なんて、そんな感情を抱いたのはもう何百年も昔の話。
そんなもの、今となってはただの空気とさして変わらない。気にするだけ時間の無駄だ。
……まぁ、時間は無限にあるのだけれど。
運命には逆らえない。とうに覚悟はできている。私は独りで生きていくのだ。
昔も今も、そしてこれからも……ずっとずっと……




