鏡の国でまた会いたい
これは夢だ。間違いない。
私はたまに夢だとわかる夢を見る。
それがこれだ。
というのも、私がフリフリのワンピースを着てお茶会の席についているから。こんな服は普段着ないし、そもそもお茶会になんて出ない。
それに世界がおかしい。嘘みたいにきれいな森の中でのお茶会だ。時計を持つタキシードを着たうさぎもいる。
さらにおかしさに拍車をかけているのが、向かいに座る砂川先輩が緑のタキシードを着て山高帽を被っているからだ。
砂川先輩というのは高校の先輩。ちょっと変わっているから、スペシャルってあだ名がついて、それが略されて、スペって呼ぶ人もいる。
そんな先輩と二人で対面してお茶会をしている状況だ。
「先輩、これは夢ですよね?」
「状況から見てそうだろうな」
夢の中でも冷静な先輩だ。
いや、でもこれは私の夢の話だし、私の中の先輩って感じなのだろう。
「でもまあお茶をいただきましょうか?」
「そうだな、せっかくだしいただこう」
二人でお茶をすする。
ついでに並べられたお菓子に手を付ける。
「先輩もこれいかがですか?」
「いただこう。うん、美味しいな」
夢の中だし、いくら食べても太らない。
だからここぞとばかりに二人でお菓子をたくさん食べた。
満腹になった頃、タキシードのうさぎがぴょんぴょんと跳ねながら言った。
「時間がなーい!」
最初は何のことかわからなかったけれど、段々と世界が歪んでいって理解した。
きっともうこの素敵な夢が覚めるんだ。
「先輩!」
私は壊れていく世界に抗った
「小花さん落ち着くんだ。これは夢だ。きっと大丈夫だ」
ぐるぐると歪み、世界と先輩が遠く離れていく。
「先輩!」
私は手を伸ばして叫び続けた。
□◇■◆
「変な夢を見たな」
僕は久しぶりに深夜に目を覚ました。
不思議の国のアリスのような夢だった。
そしてたまに見る夢だとわかる夢だった。
起きるにはまだ全然早い時間だ。
再び目を閉じて眠りにつく体勢に入る。
それにしても面白い夢だった。
僕がマッドハッターなのも変だが、まさかアリスが小花さんだなんて。
まるで小花さんも意思を持っていたようにリアルだった。
小さい頃からルイスキャロルの本を好んで読んでいたせいだろうか。
この際、明日久しぶりに再読でもしよう。
でもとりあえず、次に見る夢が続編の鏡の国のアリスのようだったらもっと面白いだろう。