第七話 ツンデレ少女 咲緒里さん
こうして、兵士との戦いが始まったが、容易なことではない。
レベル一とは言っても、最初の内は斬られて、斬られての状態。
その度に康子さんの指導が入る。
時間はあっという間に過ぎていった。
「うおーりゃあ!」
ようやく兵士を倒すことに成功。
「よくやったわ」
手をたたく彼女。
「じゃあ、今日はこれまでね」
彼女の微笑み。この笑顔を見ると、かわいくていいなあ、と思ってしまう。
「疲れたよ。全身もうボロボロ」
今まで経験をしたことがない疲労が俺を襲う。
「癒しの光線をあなたにかけてあげるわ」
そう言うと、彼女は杖を取り出し、光線を発射する。
するとみるみる内に俺の疲労は取れて行った。
「どう。これでよくなったでしょ」
「うん。体の痛みも取れたみたいだ」
「そう。疲れだけじゃなく、痛みも取ることができる」
訓練では、兵士に斬られてもけがというところまではいかない。しかし、斬られたところの痛みはどうしてもある。その痛みをこれで取ることができた。
「なかなかすごいね」
「これから海忠くんは、ホルンラオンブルク中佐と戦っていくんだけど、その時には、けがをするかもしれないし、疲労もたまっていくと思う、その時にこの癒しの光線が役立つと思うわ」
「それはありがたいね。って、結局、俺って戦わなきゃいけないわけ?」
「そうよ。とにかく、その為に今訓練をしているのだから」
「仕方がないなあ……」
もう俺は、これから訓練を行い、戦っていくしかないのだろう。
「じゃあ今日はこれで終了。お疲れさまでした」
そう言うと、彼女は去っていこうとする。
「ち、ちょっと待ってよ」
「うん? どうしたの?」
「これから毎日訓練するってこと?」
「そうよ。毎日。素振りと兵士やモンスターとの戦い。兵士やモンスターはレベルを毎日少しずつ上げて行くわ」
毎日というのは想像していなかった。
「俺、まだ自信がないんだけど」
「大丈夫、あなたならできるわ」
「せめて一日おきとかにできないの?」
「無理。あなたは一日も早く戦士にならなくっちゃいけない。余裕なんかないのよ」
そう言われるともうなにも言えなくなる。
「理解してくれた? これから頑張っていくわよ」
「う、うん……」
そう言うのがやっと。
「それじゃあ、また」
そう言って去ろうとする彼女。
「そ、その、康子さんは、同じクラスの生徒になるとか、そういうのはないの?」
「うん? なんで?」
「だって、ゲームとかではよくあるじゃない。戦うヒーローに寄り添うヒロインが、同じクラスになって、席が隣どうしになってみたり」
そういうシチュエーションに昔から結構あこがれたりする。
「そうねえ……」
苦笑いする彼女。
「その方がよかった? あたしと一緒にいたかったりする?」
いたずらっぽく笑う彼女。
意外だ。こういう表情もするのね。いい感じ。
「い、いや、純粋にヒーローとヒロインはいつも近い方がいいんじゃないか、と思って」
「うーん。この世界で暮らしていくことも選択肢としてはあったんだけど、あたしはあなたのバックアップとしてきているわけだから、その選択はしないことにしたの。いつも一緒だとあなたの自主性が弱くなって、あなたの成長速度が鈍くなるというのがその理由。遠くから見守っていく、ということね」
「そうなんだ……」
自分でもよくわからない気持ち。なんだか、心持ち少しがっくりしている。
「でも戦いの時は、すぐにはせ参じるわ。その点は心配しなくていいわよ」
「戦い自体したくはないんだけどね」
「その弱気な心から直さないとね」
「難しいなあ」
「とにかく、また明日ね。この調子でどんどん上達しましょう」
そういうと康子さんは、扉を開く。俺は一人でそこに入り、自分の部屋へと戻っていく。
これから訓練の日々なんだなあ。ついていけるのだろうか。
それに、いつホルンラオンブルク中佐がまた襲ってくるかもしれない。
高校二年生にして、大きな重荷を背負ってしまったのだろうか。
そう思うと、胸が苦しくなり、頭も痛くなる。
康子さんを信じるしかないよなあ……。
今出せる結論はそれしかないと思う俺だった。
さて翌日。
いつものように、気力がそこまであるとはいいえない状態で学校に向かう。
また普通といえば普通の一日の始まりだなあ。恋愛ゲームみたいに、イベントは発生しないのかなあ。 とてもあこがれるんだけど。
そうは言っても現実は厳しい。
今までだってそんなことは一回もなかった。
それどころか、モンスターには襲われるし、訓練はさせられるし、で、一体なんなんだろう俺の人生って……。
そう思って歩き、教室に入る。
ちなみに、俺の家は学校から歩いて十分ほど。
「もう。どうしていつもあなたは……」
「そうは言ってもよお」
朝から口喧嘩。
俺のほぼ唯一といっていい友達、伊東由一郎と、中学生から由一郎と縁のある水島咲緒里。
二人は、なにかあるとしょっちゅう喧嘩をしている。ちょっとうらやましい気もする。
ちなみに由一郎と俺は高校一年生からの友達。俺はそう思っているが、由一郎は俺のこと友達だと思っているだろうか。多分、そう思ってくれているとは思うが。
咲緒里さんとも高校一年生から一緒のクラスなのだが、今までほとんど話をしたことはない。
「お、海忠じゃねえか。お早う」
「お、お早う」
「ちょっと、由一郎くん。お早うじゃないわよ。あたしのこと聞いているの?」
「はいはい。聞いていますよお」
いつものごとく、軽く受け流す。
「全く、あきれてものがいえないわ」
今日もどうせ他愛のないことで喧嘩をしているのだろう。
由一郎はスポーツマン。筋肉質な体をしている。テニス部で頭角を現してきていて、この二年生の中で期待されている部員の中の一人だ。
夢は、国際大会で優秀すること。俺には想像もつかない大きな夢を持っている。
咲緒里さんもテニス部に所属。ポニーテールで、容姿はなかなかいい。
それはいいんだが。
どうも短気なようだ。いや、俺たち以外の人に対しては普通に対応している。ところが、由一郎に対しては、いつも腹を立てているようなのだ。
そう他人事のように思っていると。
彼女が俺の方を向く。
「前々から言おうと思っていたんだけど」
「うん? なに?」
彼女が俺に話しかけることなんて今までほとんどなかったのだが。
もしかして、俺に気があるとか? いや、そんなことないか。
ほんのちょっぴりだけ期待はしたのだが。
「生駒くんもだけど、あなたもどうしていつもボーッとしているの」
「そうは言ったって、眠いんだからしょうがないでしょ」
「寒い時期だって、暑い時期だって同じじゃないの」
「あらら、そりゃそうだ」
「高校二年生になったのだから、とにかく気をつけなさい」
「はーい」
反論はしたかったが、すればその倍ぐらいに返ってきそうなので、自重する。
彼女はまだ言い足りないようであったが、ここでチャイムが鳴ったので、自分の席に戻っていく。顔を合わせて苦笑いする由一郎と俺。
ホームルームが始まるが、俺は咲緒里さんとの会話を思い出していた。
話しかけられた、ってことは、これはもしかして、彼女と縁があるってことかな。そして、ツンデレというタイプなのかもしれない。
一瞬希望的な考えになる。
でも。これは縁があるとは言わないよなあ、普通。ただ怒られただけだし。これで縁があるっていったら、世の中の人は皆縁があるってことになっちゃうよな。
それに、ツンデレっていっても、ツンだけでデレがなければただのツンだし……。
と、すぐにマイナス方向になってしまう。
俺たちは、教室だとボーッとしていることが多い。それを今までも快く思っていなかった彼女だが、その怒りの矛先は今まで由一郎だけに向いていた。
しかし、俺にも怒りを相当もっていたのだと思う。それが、高校二年生になっても変化がない姿に、我慢の限界を越えたということなのだろう。それで、俺に対しても怒りの矛先が向いた、ということがいえるのではないか、と思う。
まあ由一郎はスポーツをしている時はシャキッとしているから、まだましな方だと言える。同じクラブにいるから、怒ってはいても、颯爽とした姿があることも理解していると思う。
その点、俺は……。
心のかなりの部分で怒っているということだよな。
でも俺は、気力がないあのだからしょうがない。
ああ、やっぱり女性には縁がないってことかなあ。
がっくりときていた俺だったが。
それにしても、彼女が俺に話しかけてくるとは。今までは、ほとんど無視に近い状態だったのに。
というか、今までは、咲緒里さんどころか、他の女性たちと話すことほほとんどなかった気もするが。それが、怒られたとはいえ、少なくとも相手にという存在は意識されたということだろう。
これは大きな第一歩ではないだろうか。
今まで女性と縁がなかった俺。
しかし、昨日の康子さんの登場から、少しずつ変化が出てきたのかもしれない。
これも縁の一つというものなのかなあ、と思ったりする。
こんな風にいろいろな思いが俺の心の中に浮かんでくるのだった。
この小説を読んでいただきまして、ありがとうございます。