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スナリッチの酒場 その2

  階段を登って砂浜を出て、石畳の通りを浜辺の逆方向に真っ直ぐに進み、正面に見える階段を降りてアーチ状の石橋を潜るようにまた階段を登る。そこから右手に見える坂道の中腹の右側の壁。その前でメレディス一行は立ち止まっていた。



「ここだ」



 男はそう言う。浜辺で流されたままだった『島流し』組を起こし、案内してくれている禿頭の男だ。



 男は一息ついて壁を見つめている。その様子にメレディス含む全員は首を傾げた。



「どういうこと?からかっているの?」



 そこで皆の意見を代弁するように、何も言わない男に最初に口を開いたのは黒髪ロングのいかにも気の強そうな少女だった。年齢は15から18歳くらい。疑問を抱いていたとはいえ不必要な迫力を纏っている。



「おいおいアリスタの姉ちゃん、そんな怒った顔をしてちゃあ、美人が台無しだぜ?」



 確かに綺麗とか美人って表現がふさわしい容姿をしている少女だ。名はアリスタというらしい。



「戯言はいいから、何かあるなら早く教えてくれくれないかしら」

「はいはい、オーケーオーケー。それじゃ、見てな」



 男は藁っぽい素材で作られた薄茶色の羽織を羽織っていた。その羽織の内側には内ポケットなり、また別な物騒な道具なりを装備してあるのだろう。そう思えば、左胸のあたりが僅かに膨らんでいる気もする。そこへゴソゴソと男は手を突っ込んだ。



「何する気?」



 アリスタは甲高い声で詰問する。



 異様な迫力だが、何が何だか自分の状況を理解できていない状況で、図体のデカい男が何かをしようとしていることに警戒するのは仕方ない。むしろ正しいことなのだろう。



「ちょっとうるせぇぞ。いや、かなりうるせぇ。状況が掴めなくてイライラするのは分からんでもねぇがな。聞いて確かめねぇと分かるもんもわっかねんねぇだろうが」



 と、そこに勇敢にも意見を申し立てる勇者が現れた。どちらも、まぁ間違ってはいないから、異論反論がなんともしにくい状況になってしまった。



「何?あなたには警戒心とか、防衛本能ってのがないわけ?」

「は?んなこと言ってねぇだろうがっ!」



 残念なことにこの2人の相性が絶望的に悪いことが早々に確定してしまった。



「ね、ねぇ、2人ともやめようよ。えっとアリスタさんと……」

「レナードだ!覚えとけ、ずんぐりむっくり!」

「お、落ち着いて下さいください。レナードさん」

「俺は落ち着いてるつーの!余計な口が出てきたから言ってやっただけだっ!」



 くだらない口喧嘩は続いているが、何となく、首元のネームプレートと第一印象でも決めておくか。第一印象ってのは今後にも影響することだから、若干盛って話しておこう。



 えーまず彼、茶髪小柄だがすばしっこそうな少年はレナードというらしい。名乗ってたしなレナードだろ。それで最初に言っておくと、仲良くなれそうにないな。口が悪い奴は心が汚い、なんて言葉もあった気がするし。第一印象は、大嫌いだ。



 次にアリスタとレナードの仲裁に入り、レナードから悪態を吐かれる面倒な役回りを買って出てくれた少年。名前はまだ聞いていないが、仲良くなれるだろう。いや、仲良くなるべき良人格の持ち主であると思う。



 最後、銀髪ショート、アリスタと打って変わって見るからに気の弱そうな少女。彼女も名前は知らないが、踏み込みすぎず、引きすぎない、ちょうどいい間合いで関わって損のない人だろう。ま、なんだ、もしものとき利用できる人はいて損ない。



 アリスタは黒髪美人、あと気が強くて怖そう。でも的外れなことは言っていないし、いいんじゃないかな。ま、好きの反対は無関心ってやつだ。



 同期のメンバー表はこんなところだろう。にしても5分の2が気難しいなんて、今回の『島流し』のメンツはハズレだろうか。



 そしてやはり、まだ2人の口喧嘩は続いていた。



「そうだって言ってんでしょ……!キミ、同じことを何度訊けば理解できるの?」

「は?てめぇの言い方がわかりずれぇんだろ?」



 もはや、論点がズレている。さすがに面倒になってきたので、案内役の男に司会進行役をやってもらおうかと口を半分くらい開いたところで、



「元気だねぇ、若者たち」



 やっと、口を挟むつもりになったらしい男が口を開いた。できれば、もう少し早く口を挟んで欲しかったなぁ。



 あと誰とは言わないが、2人と同じところに分類されたことは心外だ。静かな良い子だったろうに。



「ま、元気なのはいいことだ。けどな、ちょっとばかり黙っててもらえっか。ここの管理人スナリッチは味方としては非常に役立つ魔女なんだが、敵となるとおっかねぇ奴なんだ。多くは語らん、自分の眼で見て確かめてくれ」

「お、おう」

「わ、分かったわ」



 男の大柄な体格と威厳のある低い声音で、2人はアッサリと引き下がった。鶴の一声を見た気もするが、はたまた逆で小者2人組というあんまりな映像を見せられた気もする。



 ともかく男はメレディス達を一喝すると、胸元から緑翠の真珠を取り出して、無模様で何の変哲もない乳白色の壁へと向き直り、そしてこう唱えた。



「ウォーリア・ソラ」



 すると誰が書いたわけでもなくーー



『ーー合言葉は』



 という、また読めないのに意味だけは理解できる言語形で、壁面に黒字の文字が現れる。



 それに従って、男は答える。



「鳥籠の住人、大海を知らず」



『入りな』



 その文字を最後に会話は途切れる。男も真珠を最初あった場所にしまい、こちらに向き直った。



「これで入る許可を得られた。今のは、いわゆる身分確認だ。近頃は物騒でな。さっき余計なことはするなと言ったのはそういうこった。あとは壁があるように見えているだけ、手をこうして壁に当てればーー」



 ーー白色の壁に腕がめり込んでいた。というより、外から見ると手を壁に差し込んだまま石を固めたように隙間なく腕と石が溶接されていた。



 アリスタは無表情であったが、レナードは割合驚いていた。興奮していると言った方が正しいくらい。アリスタも別に無感情ってわけじゃないだろうし、もしかすると驚くと逆に無表情になってしまうタイプなのかもしれない。ポーカーが強そうだ。



 後の2人は驚いて口を開けているといった感じ。良くも悪くも感情の起伏があまりないタイプなんだろう。



 メレディスも一応無反応ではニヤッとしている男が可哀想なので、ほどほどに驚くことにした。正直、2人の言い合いとそれを制した男の成り行きを経ての出来事では驚くことも面倒になってしまっていた。



「さ、行くぞ。何も考えるな。壁はあって見えるだけで、本来はないもんだ。着いてこいよ」



 男はサラッとそう言って壁の中へと消えていった。



 言葉通りの説明であることは、そりゃそれぞれ分かっているが、ついつい壁をそっと撫でたり、押したりしようとすると、



「何してる?早く来い」



 首だけがニョキっと壁から現れる。首だけ壁からはみ出している絵図は普通に猟奇的だ。いったいどんな凶悪犯がいたんだって感じ。



 だからといって、いつまでも坂道に棒立ちで突っ立っているわけにもいかない。通行人は不思議とあまり見かけないが、形式上、道のど真ん中に立っているのは通行の邪魔だし、何より時間の無駄だ。



 誰も先陣切って、サッと行ってスッと通り抜けるつもりはないらしいので、恐縮ながらメレディスは黙って一番最初に通り抜けることにした。



「お、おい……やべぇなアイツ」

「あんなヘンテコな奴について行くのに抵抗はないわけ?」



 なんて負け惜しみのようなセリフも聞こえた気がしたが、そんなのは背中でやり過ごして、メレディスは中へと入った。潜り抜ける感覚は濡れない水を全身に浴びたような感覚。



「結構、気持ち悪いな……」



 ぼやきつつ、頭を上げて周囲を見回すと、そこは紛れもない酒場だった。そしてこんなにも人がいたのかと、今度こそしっかりと驚かさせる大勢の人数が酒を飲み、外からは想像もできないほど壮大な空間がそこには広がっていた。



 あたりを見回すと、少し離れた場所で酒を受け取り手を振る男と目が合った。



「あそこか」



 呟いて、その場所まで向かおうとしたところで、肩が肩とぶつかる。結構堅かった。故にまあまあ痛い。軽く「すみません」そう会釈しつつ言おうとした瞬間、コンマ数秒で危機を感じた。



「おっと……」



 何に危険を感じたのかを理解する前に身体は自然と後ろにバックしていた。そこで目にする。男が物騒だって言っていたのはそういうことか、と。



「あっぶね」



 マジで危なかった。手のひらから、額から、腋から、とにかく全身から冷や汗が流れる。



 正面に立っている深い緑のマントを羽織る盗賊のような格好の男の手には、黒光する刃の伸びる短剣が握られていた。

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