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佳城の未来

 ーー急げ。



 蒼い基盤に4本の黄金の針が回るロケットペンダントがヒンヤリ冷たい。



 ーー何だ。



 眼前、スローモーションで動く仇と相棒。敵と味方。



 紫紺に、鮮緑に、青藍に発光し炸裂するマナの波動。



 震えて汗が泉のように噴き出す2つの手。自分がそこにいないかのような、胃が浮いているような、吐き気のする感覚。



『合言葉は?』



 そこでロケットから老婦のようなガラガラ声で告げられる。



 ロケットを開き、その中にいる精霊と契約しなければならない絶対的状況でも問題は問答無用で降りかかるという事実を……。



 ーーどうすればいい。



 時間経過は如何なる時も減速しない。着実と削られていく精神とマナ。



 分からなくても、分からなければならないこの状況。



 このロケットに封じられた『愛の精霊』の力を借りなければ、自分も、皆んなも、あの人も殺される。



 ーー落ち着け、落ち着け、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろっ!



 経験値など遥かに凌ぐ緊張感。自覚していても、いつも通りの思考は不可能だった。血管を氷水ほどの冷気を纏った何かが駆け巡る。もうこの凍てつく緊迫感を薙ぎ払い、冷静さを取り戻すことはできそうにない。



 たとえーー自分の持ち味が、冷静沈着な順応力であったとしても……。



「はっ……」



 いずれ、と言わずこの瞬間、当然に張り詰めた精神は擦り切れ、脆弱になり、プツリと切れた。



 糸は切れた。



 ーームリなのか……。



 諦めかけた心へ走馬灯のように過去の記憶が脳天から流れ込んでくる。



 それは、苦楽を共にした仲間との思い出であったり。



 立場が敵と味方であることを恨んだ、戦乱の世だからこそ生まれる敵への尊敬であったり。思慕であったり。



 苦難の先で出会えた神秘であったり。



 留めどなく、記憶は蓋を失った酒樽のように流れていく。



 でもーー結局、最後、果てに現れる景色はいつも同じだった。



 それは力も身分も持ち合わせない奴隷の少女だった。世界から不必要の烙印を押された少女。



 それでも自分にとっては何よりも、誰よりも、世界を敵に回したって大切にしたい、大切にするべき人だった。



 その人は決まって躓いて転んでしまいそうなところに手を差し伸べて言うんだ。



『諦めて行動して、思考せず手を動かせば、上手くいくことなんてザラ、あたりまえのことなんだよ。だからーー』



 ーーだから、相言葉より、俺がすべきなのは。



 切羽は詰まりつつもまず、諦めを選択した。それだけで、たった一言の助言を思い出しただけで、鼓動の早い心臓は割合すんなり落ち着いていった。



 それでも全快とまではいかないが、幾分かは楽になる。凄い力だ。彼女の言葉こそ、本物の魔法だと思う。



 ロケットをポケットに戻して立ち上がったところに、さらに問題は立ちはだかる。



 漆黒のローブを靡かせた強敵の刃が向けられていた。そいつのその狂気に染まった目と目が合った。



 そいつは敵で仇で自分を殺しに来る人物ーー灰の魔術師。



 シルバーヘアの残酷な女であり、意見の合わない、相容れない相手。少し離れた視線の先で斬撃を蝶のよう舞い圧倒的機動力で蜂の針のような打撃を放ち続ける奴ーーの足元。



 ーー命が危険に晒されても、俺がすべきことは決まっている。



 何も考えず、ただやるべきことを淡々とこなしていくこと。



 湿り、天井から吊り下がる鋭利な乳白の結晶が鏡のように映る水溜り。



 そこに転がる錆びれた真鍮のベルに俺の視線は吸い寄せられた。



 ーーそれは次の手を探すこと。



 その答えが、文字通り雷に打たれたように、不思議とはっきり見えた。



「『ナノアーツ』……!」



 洞窟に裏返った自分の声が反響し、響き渡る。



 叫びに呼応して地を転がり、手に吸い寄せられるベル。



 ーー俺が皆んなを救ってやる。



 覚悟を決めて、俺は前方に跳躍し、捕まえたベルを灰の魔術師クルエラに向けて放り投げつけーー



「合言葉はーー鳥籠の住人大海を知らず」



 と、また叫んだ。するとベルは眩く光り輝く。



 その光にその場はあっという間に呑み込まれた。



 ーー見たか、クルエラ。死ぬのは俺たちじゃない、お前だ。



 朦朧とし出した意識の中で、メレディスは誰にも聞こえない小さな声で、そう呟くのだった。

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