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感情のわからない少年の夢について

そこにいる。


夢を見ている。


数えきれない感情が、流れ込んでくる。


頭の中がいっぱいになる。


心の中に、押し寄せてくる。


それらの感情の行き先は、無い。


たまっていく。積み重なっていって、崩れそうになる。


耐えきれなくなる。


次第に、淘汰されていく。


一番強い想いで塗りつぶされる。


殺したくなる。


その矢印は自分に向かう。


自分を、殺す。




ハッと息を呑み、目が覚めた。白い天井が目に映る。

また、同じ夢をみていた。


心の中が、たくさんの感情で埋まっていく夢。いつも最後には、僕が僕を殺す。


いつからこんな夢を見るようになったのか、はっきりとは覚えていないが、物心ついたときにはもうこうだったような気もする。


何も感じない僕が、夢の中では世界中の感情の器になるなんて、不思議な話だ。


着替えて、リビングに入ると、父さんが正座をして居た。着ているのは、着物だろうか。少し違うような気もする。


僕が来ても何も言わないし、何か修行でもしているのだろう。そう思って、邪魔をしないようにそっと立ち去ろうとすると、父が口を開いた。


「大事な話がある。ちょっと座れ」


「‥うん」


父の真正面に正座をする。父がこういうことを言うときは大抵何か起こっているときだが、今回はそんな感じはしない。怒り、というよりも不安。そんな感じだ。

自分の感情がわからない僕は、他人の感情を手に取るように理解することができる。皮肉な話だ。


「お前は来月で16歳になるな。」


「うん」


うつむきがちに返事をする。正直に言って、僕はこの人と話すのが苦手だ。この人の感情は、見えづらい。ほかの人の思いは4K放送のテレビみたいにはっきり見えるのに、この人はピンボケした写真みたいに輪郭すらはっきりとは見せてくれない。

できることなら、この場からさっさと立ち去りたい。


「うちは代々陰陽師の家系で、16歳になったらお前もこの仕事を継がなければならない。少し早いかもしれないが、軽く説明しておこうと思ってな。」


「うん」


「どうした、驚かないのか。もっとこう、びっくりするのかと思っていたんだが。」


「…別に」


「驚かない」じゃなくて、「驚けない」。昔からこうだ。喜びとか、悲しみとか、そういったものを感じたことがない。母さんが死んだときも、涙一つ流れなかった。きっと、僕は、どこかが歪んでいる。


鏡を見ると、僕は黒色に見える。喜びは黄色、悲しみは青。感情には全部、色がある。何も感じていないとき、その人は白色に見える。だけど、僕は黒だ。白とは正反対の色。黒色をした人は、ほとんど見たことがない。


テレビの向こうに見たことなら、一回だけある。人を殺した人だ。3年前にあった、渋谷ハチ公前での通り魔事件。5人が死に、50人以上が怪我をした。彼は、「人を殺してみたかった」と語ったらしい。


後悔をしている人は、紫色に見える。

でも、その人は黒色をしていた。それがどういうことなのか、いまだに僕はわかっていない。会えることなら、その人に会いたいと思っている。


まあ、そんなこんなで、僕はこんな反応しかできないというわけだ。


「少しくらい驚いてくれるかと期待してたんだけどな。まあいい。それじゃあ、まずは、陰陽師についてかは話そうか‥」









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