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90話 あっという間 (ざまぁ回5)

「なんだか本当にあっという間でしたね」

 

 群衆の前で、紐をつけられた状態で連れまわされている教団の人達を見て私が言うと、隣にいてくれるセルヴァさんが、感慨深げに目を細めて「そうですね」って微笑んでくれた。

 今帝国の王都で、教団の中で特に酷い事をした人達が見せしめ的に民衆の前で連れまわされている。

 木の実とか投げられて可哀想ではあるけれど……彼らはそれだけ酷い事をしていたのだから仕方ないのかもしれない。


 重税に無理難題、そして強制労働。それがどれだけの国の人達を苦しめてきたか。


 魔の森でのほほんと生活してきた私ではよくわからないけれど、獣人さん達やセズデルク王国の兵士さん達の証言でなんとなく察しはついている。

 だからどうこう言うつもりはないし、助けるつもりも毛頭ない。


 野次を浴びながら街を練り歩かせる。

 これは人間の国の代表が決めた事だ。


 本当は今後をどうするかの各国首脳のあつまった会議中で民衆の前で殺す……という意見もあったのだけれど、さすがにそれはと顔を青くしてしまったら、なぜかみんな速攻で「やめましょう!!」と言ってくれた。

 たぶん私の隣のゴールデンドラゴンの長老ディストニアさんが睨みを利かせてくれたのだろう。

 異世界に日本の価値観を持ち込むのはどうかと思うけれど、やっぱり大量に人が殺されるのはちょっとと思ってしまう。

 ちなみにディストニアさんはシャルティのお父さん。

 シャルティって何気に偉かったみたい。


 なんとなくレストランの上から連れまわされている教団の人達を見ていれば、紐で連れられたキリカの姿が見える。

 ボロボロのローブを着て歩かされていた。

 キリカの贅沢三昧のためにかなり税金を増やし、カジノを開いて貴族を借金漬けにして言う事を聞かせたり、かなり悪質な事をしていたため、大勢の人に恨まれているみたいで、絶え間なく野次られている。


「大丈夫ですか?無理そうなら見る必要もありませんよ?」


 流石にちょっとかわいそうになってしまって眉をしかめていたら、セルヴァさんに後ろから抱きしめられた。


「大丈夫です。ちゃんと自分達のした事は見ておかないと」


 と、私。

 セルヴァさんのやりたいことを手伝うと決めた時、こういう結末になるのはわかっていた。

 相手を戦って倒すという事は……たとえ殺してなくても一生恨まれる覚悟も背負わなきゃって。

 きっと今見せしめ的に歩かされている教団幹部は一生私を恨んでいくと思う。


「自分がやったことで人生を大きく変えられてしまった彼らの結末を私は見ておく責任があると思います」


「……クミ様……すみ……」


 言いかけたセルヴァさんの口を私は人差し指で「しっ」とした。


「え?」


「謝るのはなしですよ?二人でやるって決めた事を謝るのは駄目ですからね?」


「……そうでしたね」


 そう言ってお互い見つめあってふふって笑いあう。

 

 魔の森で世界の様子なんて気にしないで生きていく選択肢も確かにあったけれど。

 セルヴァさんは優しすぎるから、きっと力があるのに何もしないで苦しんでいる人々を放っておけるわけがないもの。

 気にして心を痛めていくセルヴァさんを見るくらいなら、苦労でも世界を平和にした方がずっといい。


 これから、教団と言う重圧がなくなった人間が、各々好きな事を始めてしまわぬように。

 ゴールデンドラゴンの方たちに協力してもらうことになっている。


 最初の頃は大変だろうけど、セルヴァさんの親友のヴィクトールさんが国をまとめれば大丈夫だろうって言っていた。


 ゴールデンドラゴンのディストニアさんの話では、セーフティーフィールドで暮らしている人口を養うくらいの作物は10階のダンジョンで十分養える計算で世界は構築されているらしい。初代ゲームマスターがそう構築したと語っていた。


 何故全部セーフィティーフィールドにしないのか。

 何故起源の宝珠が必要なのか。

 何故ダンジョンでモンスターを倒さないといけないのか。


 そこにもいろいろ理由があるらしく、ダンジョンでモンスターを倒すことで世界に魔素を巡回させて世界の均衡を保ってるなど理由があるとか。だからダンジョンを必須の世界観にしたと語っていた。


 でもゲームマスターが世界から去り、起源の宝珠が闇に包まれた事で初代ゲームマスターの築いた理想の世界は壊れ、ダルトナ教団のような教団が実権を握ってしまい、世界の均衡は本当に何年もしないうちにあっという間に崩れた。


 だから戻さなきゃ。ゲームマスターの築いた秩序を。

 初代ゲームマスターが思い描いていた世界が時代に合わず、秩序が乱れたというのなら、作り直す必要もある。


「これからが本番ですね。頑張りましょう!」


 私がそう言えば、セルヴァさんが微笑んで


「はい。お互いにがんばりましょう」


 と笑ってくれた。

 そうだよ、頑張れる。セルヴァさんのためならなんだって。

 私が心に誓っていたら


「あーーー先輩!!!!」


 歩いていたキリカに名前を呼ばれた。


 ……あの子やっぱり嫌いだわ。

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