89話 ヤダこの人頭おかしい(ざまぁ回4)
「カズ ヤ……?」
いきなり床を破壊してでてきたカズヤにキリカは思わず声をあげた。
どうしてこの男がここに!?
牢屋を脱走してきたっていうの?
見れば向こうも驚いたようで、こちらの事をじっと見つめている。
もしかして脱走するつもり?
急に牢屋にキリカが入れられたのと何か関係があるの?
「キリカお前!!」
「よかった無事だった!?」
「はぁ!?」
「せんぱーい、私操られていたんですぅ。
でも最近自力で洗脳を解いたらぁ、こうやって閉じ込められちゃって。
よかったぁ~心配してたんですよぉ」
と、かつて甘えていた口調でカズヤにかけよった。
何がどうなっているのかわからないけれど、今はカズヤにすがるしかない。
「操られてた?」
「そうなんですよぉカズヤ先輩を牢屋から出してっていったらキリカも閉じ込められちゃってぇ」
「……そんな事信じられると思っているのか?」
「酷い、信じてください~先輩っ!!!」
叫んだ瞬間。
「悪い、僕にはクミしかいないんだ」
と、カズヤがうっとりした目で視線を逸らした。
……は?
何言ってるのこいつ?
思わず顔が思いっきり引き付いてしまいキリカは慌てて表情を戻した。
「お前なんて相手にしている暇はないんだ。僕にはクミが待っている。
今頃泣いて僕の帰りを待っているはずだ」
と、うっとり見上げるカズヤを見て思う。
この人一年閉じ込められている間にあたまのネジが飛んでしまったの?
頭おかしい。
浮気して見捨てた女が待ってるわけないじゃない。
でもここで置いて行かれたら、どうなるかわからない。
やっぱり縋るしか……などと考えていれば
「まずは仲間を集めて、教団に復讐する!!
その後はクミを嫁に迎える!!やっと迎えにいけるよクミ!!
自由に生きてやる!!」
と、恍惚な表情で言うカズヤ。
人と会話をしないですごすと頭がおかしくなるっていうの聞くけれど……
前からちょっと引く事を時々言うような人だとは思っていたけど……
キリカの取り巻きの神官の話では、クミにはお前なんて要らないとフェンリルをつかって送り返されたと聞いている。
なのに何でこの人の中では泣いて待ってる設定になってるの???
ここまで頭お花畑な人だった???
SNSがあったら友達に「この人やばい精神病行った方がいい~怖い~」と送ってしまいそうな態度にキリカはひくひくと頬をさせてしまう。
そしてキリカがだした結論は……ここに残った方がよさそう。
「クミ先輩に会えるといいですね!!!」
と、たきつけて追い出そうと応援をしてみれば
がんっ!!
と、牢屋のドアが破られた。
そこには魔導士風の服装をした男が二人。
「ちっ!?牢屋の兵士は催眠で眠らせたはずなのに、スキルの力を過信しすぎたか」
と、カズヤ。
ちょ、これどっちについた方がキリカは得なの!?
と、様子を見守るキリカに
「聖女と、勇者。身柄を拘束する。我々に従ってもらおう」
金髪の魔導士風の男が手をあげる。
「拘束?ふふっ。笑わせるなレベル85の僕をどうにかできると思っているのか?
見るがいい!!僕の勇者の力とスキルの力をっ!!!!」
漫画のキャラのようなセリフをいい、金髪の魔導士の男に殴りかかり。
ばしんっ!!!!
と、逆に殴られすっ飛んでいた。
「なっ!???」
あまりの痛みにカズヤが吹っ飛びながら聞いた言葉は……
「我らゴールデンドラゴンにレベル85で勝てるわけがないだろう」
人型ゴールデンドラゴンの侮蔑を込めたようなセリフだった。
「僕は……勇者のはずなのに……これから復讐げ……き」
何か言いつつカズヤは意識を失う。
「……うわっ。ださっ」
情けなく伸びたカズヤを見て思わずキリカは口にだしてしまう。
「さぁ、行くぞ聖女」
ゴールデンドラゴンが腕を持ち上げるのでキリカは
「もしかして助けてくれるの!?」
期待を込めたまなざしでゴールデンドラゴンを見つめる。
ゴールデンドラゴンが聖女のキリカを助けにきてくれたのかもしれない!
「……おめでたい人間だ」
ゴールデンドラゴンの侮蔑を込めた眼差しにキリカは察した。
状況はやっぱりよくないらしいと。
■□■
「ふむ。で、この中でロンディエンとはどれだ?」
会議中、問答無用で押しかけて来た人型になったゴールデンドラゴンたちと各国の代表を前に、教団の上層部は正座をさせられていた。
上空にゴールデンドラゴンが現れたと思ったら、人型になりあっという間に神殿を制圧してしまったのだ。
――なんとか逃げ出さねば――
すでに魔術で姿を変えたロンディエンが冷や汗を流す。
上空にゴールデンドラゴンがいると報告を受けた時点で姿を変え、影武者をたてている。
もし捕まれば、いままでの自分の行いを考えるに……命はないだろう。
なんとかごまかせればいいが……と、考えていれば。
「「「「あれです」」」」
その場にいた誰もが迷うことなく姿を変えたロンディエンを指さすのだった。
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