88話 キリカとカズヤ(ざまぁ回3)
「何でキリカがこんな扱いうけなきゃいけないの!???」
手首を手錠で施錠された状態でキリカが叫んだ。
最近貴族相手にカジノで大儲けしていたため、神官達が今まで以上にチヤホヤしてくれていたはずなのに、急に態度が冷たいものにかわり、質素な部屋に閉じ込められたのだ。
今までは、毎日ご馳走が運ばれ、着替えも風呂も化粧もすべて侍女がやってくれていたのに、質素な食事とみすぼらしい服を着せられている。
何よりむかつくのが、何故こうなったのか誰も説明しない。
おかしい。おかしい。おかしい。
大体聖女だって呼びつけたのはあの人達だったはずじゃん!!
何でキリカをこんな目にあわせるわけ!??
可愛がっていた美形の神官達も自分を助けるどころか、「あんな気持ち悪い女に媚を売って損した」とつぶやいて去っていった。
食事を運んでくる兵士も「お前みたいなのが聖女なんて虫唾がはしる」と嫌味を言ってくる。
今まで聖女様と崇めていたくせに!!何なのよこの扱い!!!
何よ!何よ!何よ!!
私の浄化の力がなければこの世界は困るはずでしょ!?
私にこんなことをして、ただですまさないんだから!??
「早く出しなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
キリカは大声で叫べば、がこぉぉん!!!牢の床が破られた。
慌ててそちらに視線を向ければ――そこにいたのはカズヤだった。
■□■
何か慌ただしい。
バタバタと落ち着かぬ見張りの兵士たちを見て、カズヤは何かあったのだと悟った。
けれど何が起きたかまではわからない。
だが、時折、ロンディエンがカズヤの様子を見に来るようになったことにより、かなり切迫した事態だというのは察している。
もしかしたら、カズヤを殺そうと言う話になっているのかもしれない。
レベルも85になった。
確か勇者修行の時に、人間の最高レベルは70だと聞いた事がある。
85になれば十分だろう。そろそろ脱獄した方がよさそうだ。
レベルが上がったおかげで勇者のスキルもなかなか便利なものが増えている。
経験値が倍増するスキルを獲得したおかげで、レベルもこの一年と少しでだいぶ上がった。教団の連中がこちらの事を気にも留めていなくて助かった。
あちらが疑念を持つ前に、鑑定をごまかす「偽造」のスキルでレベルをごまかす事ができたのだから。
体力増強と一点集中のスキルで、武器がなくても壁を壊す事くらいたやすい。
スキル催眠で見張りの兵士たちは自分が逃げても気づきもしないだろう。
まずはこの神殿を抜け出して、仲間を集め、神殿の連中をひれ伏させてやる。
復讐はこれからだ。
まずはクミを迎えに行かないと。
きっと彼女は寂しがっているはずだ。
ああ、クミ、やっと君に会える。
この一年どれほど待ちわびただろう。
あの尻軽女キリカのせいで、僕たちは引き離されてしまったけれど、やっと君と結ばれる時がきたんだ。
まずは地上に脱出しなければ。
天井を壊し、ジャンプで上の階に脱出すれば……そこにいたのはなぜかみすぼらしい服を着たキリカだった。
■□■
「ロンディエン様!!西の神殿が落とされました!!!」
会議室で、毎日のようにくる報告にロンディエンは頭を抱えた。
何故こんなことになったのだろう。
異世界人の一人を無能と捨てた事がすべてのはじまりだった。
職なしでろくなスキルをもっていないと、邪魔だったセルヴァとともに始末したはずだったのに、あの異世界人は無能どころか、聖女すら凌ぐ力をもっていた。
【起源の宝珠】の永遠の浄化。
異世界人がその力をもつがゆえに、宝珠の浄化で権力を保っていた教団は一気に不要な存在と化してしまったのだ。
そんなことが出来ると知っていたら決して捨てはしなかったのに!!!
自分の子どもには、母親を使って、ロンディエンに逆らえぬ呪いをかけていたはずなのに、なぜセルヴァはクミがそのような行動をとることを許したのか。
「母上!!何故あれに止めさせなかったのですか!??」
会議室に座るロンディエンの母であるクリスティーナに問い詰める。
クリスティーナは天使の血が濃いため見かけは若くて美しい金髪の女性だ。
「落ち着きなさいロンディエン、あちらにはゴールデンドラゴンがいると聞き及びます、天使の加護を解くくらいの力はあるのかもしれません。
まだセルヴァが反乱軍の中心にいるのなら私が説得を……」
「おめでたい女だ!!
加護の存在がばれた後にセルヴァがあんたの話を聞くわけがないだろう!!
これだから女は思慮が浅くて嫌いなのだ!!」
「なっ!??母親に向かってなんて口をきくのですかっ!!」
「あんたがセルヴァは用なしだと言わなければあの時、異世界人と一緒に殺そうとなどと思わなかった!!
神殿で異世界人ともども飼い殺しにしておけばよかったのだ!!」
と、醜い親子喧嘩をはじめた、ロンディエンとクリスティーナを見て、他の神官達は顔を見合わせた。
ゴールデンドラゴンが攻めてきたら、責任をすべてこの二人に押し付けて許しを乞おうと。








