87話 過剰戦力 アレン視点(ざまぁ回2)
「しかしクミ様は本当に不思議な方ですね」
ずらりと各国の首脳が集まった会議室を見つめて兵士の一人がアレンにつぶやいた。
会議はヴィクトールを含め、ゴールデンドラゴンの長、そして各国の代表が参加している。
教団を倒すために各国が集まっているのだ。
その場に集まるだれもが、『いや、ゴールデンドラゴンがいる時点で過剰戦力』と思ってはいるのだが、ゴールデンドラゴンの長が「なるべく仕事をやっているところを見せつけねばならぬ!」と謎の使命感に燃えていて、誰一人断れない。
……おそらく、ゴールデンドラゴンの長の好きなお酒をなるべく長い期間クミからもらうためにクミの寿命延長の取引を有利に進めたいのだろう。
寿命をなるべく伸ばして欲しいゴールデンドラゴン側と、周りが死ぬのにそんなに長生きしたくないというクミ側の戦い。
そこはクミとゴールデンドラゴンの取引なので自分が口を出す事ではないだろう。
クミは本当に不思議な人だった。
人間ならば寿命を延ばすといわれれば誰もが喜んで受けそうなものを彼女は嫌そうに断るのだ。
アレンはクスリと笑い、クミに助けてもらった直後の事を思い出す。
■□■
「これから皆さんには料理を憶えてもらいます!!!」
セズデルク王国のアレン率いる騎士達がクミ達の遺跡に迎え入れられて10日たち、だいぶ兵士たちの体力も戻ってきて、皆に教団を倒すのを手伝ってもらいたいと集められた兵士たちに告げられた言葉がそれだった。
アレンを含め、皆教団を相手に剣を手に戦う事を想定していただけに、
「……は?」
と、兵士全員が間の抜けた返事をしてしまう。
「りょ、料理ですか?」
アレンがクミに聞き返した。
ゴールデンドラゴンのシャルティや、フェンリル達を従えており、【起源の宝珠】も聖女なしで浄化できるというクミのいう事を否定するつもりはない。
むしろ異世界人なのに、腐敗した世界の現状を変える為に行動してくれるというのだ。そして自分達の命を救ってくれた。それ故彼女の願いなら何でも聞く覚悟はできていた。
ただ、提案されたことが思っていた事とかけ離れすぎていて、思わず聞き返してしまう。
確かにここで食べる料理は、今まで経験した事がないほど旨い。
だがそれと、教団を倒す事が結びつかない。
「はい、なるべく犠牲者をださず、人と争う事なく、人を従えるのは圧倒的な軍事力だと思います!!」
(うん。わかる)と、うんうんと頷く兵士たち。
「それゆえ、見た目から逆らえぬと思えるほどわかるほどの軍事力の差を、見せつけなければなりません!!」
(それは物凄くよくわかる)と、アレンも頷いた。
「それ故、皆さんには料理を憶えてもらおうと思うのです!!!」
「「「「最後だけおかしいっ!」」」」
と、その場の兵士たちが一斉に突っ込んだのを憶えている。
結局、アレン達が料理の腕を磨いたのはシャルティの故郷であるゴールデンドラゴンの里にいるゴールデンドラゴン達に料理を振舞い、彼らを味方につけるためだったのだが。
兵士たちよりも格段にレベルの高い獣人達はダンジョンで食料の確保。
そして獣人よりも味覚に優れているアレン達が食事を作る事となったのである。
元々食事係だった獣人達はそのままアレン達に食事の作り方を指導し、そのほかの獣人達は狩りと収穫に明け暮れた。
大量の食事を用意して、クミとセルヴァはゴールデンドラゴンの里に乗り込み、彼らを味方につけてしまった。
その後はあれよあれよといううちに、各国を味方につけてしまったのである。
犠牲者を一人もださずに。
あとは教団をつぶすだけなのだが……まぁ簡単につぶせるだろう。
ゴールデンドラゴン達が攻め込めば、誰一人抵抗することなく降伏するのは目に見えている。
今頃教団の本拠地聖都では、どうやって降伏するかでもめているに違いない。
長年各国を苦しめた教団がひれ伏す姿を想像し、アレンはにんまりする。
さて、楽しみだ……と。
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