86話 反撃開始!!(ざまぁ回 その1)
「ロンディエン様!!」
教団の大神殿の一室に部下が慌ただしくはいってくる。
「どうした?」
「先日派兵を命じたセズデルク王国が反旗を翻しました!!!」
部下の報告にロンディエンは笑う。計算通りだ。
第一王子ヴィクトール亡きあと王の代わりに政務をとりおこなっている、第二王子のアレンは思慮深さに欠ける。無理難題を押し付ければ、我慢できなくなり反旗を翻すのは予想済みだ。教団に逆らった罪で、アレンとそれに付き従っていたセズデルク王国の貴族連中を完全に排除し、ロンディエンの操り人形となる人材を国の中枢につければいい。
「わかった、すぐに近隣諸国に派兵を命じろ!」
「……はっ!!」
「ロンディエン様!!!!」
今度は別の神官が慌てた様子で入ってくる。
「どうした?」
「エフェリス王国が反旗を翻しました!!!」
「何っ!???」
エフェリス王国と言えば、セズデルク王国と近い強国と言われる国の一つだ。
その国の一つが反旗を翻すなどただ事ではない。
セズデルク王国にたぶらかされたか!?
いや、しかし聖女なしではエフェリス王国の起源の宝珠を浄化する事もできない。
エフェリス王国の起源の宝珠の浄化は今年だったはずだ、なのに何故このタイミングで反旗など。
「ロンディエン様!!」
「今度はなんだ!??」
「シャロール王国が反旗を翻しこちらに出兵の準備を進めていると情報が!!
他にもキャシェル王国なども裏切っているかもしれません!!」
「な、なんだとっ!????
一体何がどうなっている!???誰か詳細を知る者はいないのか!?
各地の神官や放った密偵はどうした!???」
「それが赴任していた神官から謎の文章が届きました!!!!」
「謎の文章?」
「はい!『ご飯がとても美味しいです。探さないでください……』と」
報告してきた神官の言葉にその場にいたもの達の視線が手紙に集まった状態で、長い沈黙が続き――
「なんの話だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
大神官ロンディエンの悲鳴があたりに響くのだった。
■□■
「まるで夢物語を見ているようだな」
王城から見下ろせばずらりと並ぶ兵士の大群にセズデルク王国の第一王子ヴィクトールは冷や汗を流しつつ、言う。
教団の命で、ダンジョン攻略に挑み、9階にてコカトリスに石化させられた後、気が付けば、親友のセルヴァに助けられた。
そこからはまるでおとぎ話を聞いているようだった。
教団を倒したいから力を貸してほしいとセルヴァに乞われ、弟のアレンには「クミ様とセルヴァ様が力を貸してくださるそうです!兄上!世界に平和を取り戻すのもお二人の力を借りれば夢ではありません!あとご飯が美味しいです!」と、よくわからない一言をつけ加えながら興奮した面持ちで言ってくる。
セルヴァの紹介で異世界人のクミに出会えば、目の前で簡単にセズデルク王国の【起源の宝珠】を完全に浄化し、「モンスターを入れなくしちゃいましょう!!これなら魔族に汚染されることもありません」と、完全にモンスターの入れないセーフィティーフィールドを起源の宝珠とその周辺に設置した。
そこへ人型のゴールデンドラゴンたちが「念の為我らも結界をはろう」と、事も無げに結界をはってしまったのである。
「何故、ゴールデンドラゴンが!???」と横にいたアレンに聞けば
「はい、クミ様が食事を提供するのでお力を貸していただける話になっております。
もちろん食事の準備はこのアレン率いる銀の騎士団にお任せください!
クミ様の元で修行しました!あく抜きから、料理にあった美味しい切り方など誠心誠意勉強中です!!」と、目をキラキラしながら言ってきた。
ヴィクトールが石化している間に、アレン直属の精鋭部隊だったはずの銀の騎士団がなぜか料理自慢の精鋭部隊になっていて、アレンが料理男子になっていたのだ。
ここからはもう怒涛の展開だった。
まずは他国の城塞の上空でゴールデンドラゴンをくるくる旋回させ、脅し、ヴィクトールが自分の軍門に下るように説得し、獣人やアレンの率いる部隊が作った料理を振舞った。
アメと鞭の使い分けで、王族も貴族も兵士も商人も住人も誰一人反対することなくあっさり落城させたのである。
何より一番大きかったのはクミのスキルが、【起源の宝珠】を完全に浄化出来る事なのだが。彼女の存在が聖女の存在を不要とさせたのが一番大きい。
まずは教団に反抗的とヴィクトールが睨んだ国々から説得を開始し、陣営に加えて各国にそれを宣言すれば、後はもう簡単だった。
皆教団に恨みをもっていたのだろう。ヴィクトール達が何もしなくても、次々と各国から使者がやってきて、勝手に軍門に下ってきたのである。
「今頃、教団は慌てているでしょうね。たった一か月で世界の情勢が大きく変わりましたから。これもクミ様のおかげですよ」
と、隣にいたセルヴァが微笑む。
「……貴公もしばらく見ないうちに変わったな」
屈託なく微笑むセルヴァにヴィクトールが言った。
以前なら難しい顔をして微笑む事などなかった友が、二年近く会っていない間に、表情が優しくなり微笑むようになったのだから。
「そうでしょうか?」
「ああ、表情が柔らかくなった」
「……そうかもしれませんね」
そう言って、セルヴァもヴィクトールもセルヴァを呼ぶ声が聞こえそちらに視線を向けた。
そこにいたのはクミで、嬉しそうにセルヴァに手を振っている。
「それでは、後はお願いします」
と、セルヴァはクミに歩み寄ると、何やら嬉しそうに言葉を交わしたあと、そのまま二人で手をつないで歩いて帰っていく。
「幸せそうでなによりだ」
と、愛しい事を隠そうとすることもないセルヴァにヴィクトールは見せつけてくれる、とため息をつくのだった。
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