80話 天使の加護
「ラウル。セルヴァさんは!!セルヴァさんはどうしたの!?」
のっそりと入ってきたラウルに私が飛びつけば
『時間を止めた。この中にいる限り死んではいない。
だが我も闇のせいで力が弱っている、時間を止める事ができるのは長くて半日だ』
そう言ってラウルが見つめれば、そこには自分でわき腹を刺した状態のセルヴァさんがぷかぷか浮いている。
はやくセルヴァさんを治す術を探さなきゃ。
「シャルティ、何がどうなってるの!?
指定のスキルじゃ治せないってどういうことなの!?」
「我にもよくわからん。だが、あれは確実に何かに操られておった。
おそらく何かしら、目覚めるきっかけがあったのだとは思うが……あれは生まれた時から刻まれる誓約だ」
「誓約?」
「確かあ奴は天使の血を引いていると言っていたな」
シャルティの言葉に私は頷いた。確かお酒の席でそんなことをぽつりと言っていた気がする。
『ふむ、なるほど、そのせいか』
と、シャルティの言葉にラウルが頷く。
「どういう事?」
『天使は子供に加護を与える事が出来る。
が、その加護は使いようによっては呪いにもなりかねない』
「加護が呪い?」
『天使は血筋の者に加護を与える事ができる。
危険な時にある行動し身を守るようにと加護を与え、天敵などから逃げるように子供を操る事ができるのだ』
「つまり、その、加護を悪用して、セルヴァさんの身を守るためではなく、自分の利益になるような行動をさせた。
それが私を殺すことだったって事?」
『そうだ。おそらく教団の害になると判断された場合、害をなす可能性のある対象を殺すように加護がかけられていたのだろう。
『指定』のスキルでは『加護』は守るべき保護スキルと認識されたため治療対象にならなかったのだろう。
そのため傷を治療したときに一緒に解除されなかったのかもしれない』
「なんでそんな事を!!」
『そこまでは我にはわからない。直接聞くしかあるまい』
「直接?」
『そうだ。加護を解くために直接セルヴァの精神世界に入り込む。
まずは加護を解かねば、セルヴァの傷を治してもすぐ操られる。
そうすれば主を殺そうとするだろう。
加護を解く以外セルヴァを救う手立てはない。
主は……もちろん行くのであろう?』
そういうラウルの言葉に、私はうんと頷いた。
そうしたら「きゃんきゃん」とアルが私に飛びついてきた。
「アル?」
「くぅんくぅん」
アルが一緒に行きたそうに足にしがみついてくる。
「お主は待ってろ!馬鹿犬!!」
シャルティがしがみついてきたアルを私から引き離した。
さっき私とシャルティの命令を聞いて動けなかったのを気にしてるのかも。
「ありがとうね、アル。あの時アルがシャルティの言う通り殺してたら助からなかった。
だからアルはよくやってくれたよ?だからいい子に待っててね?」
私が言えば、アルがくぅんっと頭を垂れた。
「それにシャルティも。
……大人の私が慌てて子供の貴方に辛い選択をさせた。
シャルティの言ってる事も正しかったのに。本当にごめん」
私が言えば、シャルティも「見かけは子供でも我の方がずっと年上じゃ!当然じゃろう!!」と、涙をぬぐう。
「ごめんね、セルヴァさんを治したら美味しい物つくるからね」
と、言えば、約束じゃぞとにししと涙目で笑っていて、辛い事をさせた事を反省する。
『アル、安心しろ。
主が精神世界で死ぬことはない。問題はセルヴァを救い出せるかどうかだけだ。
そして時間も決まっている。1時間。その間に助けられなかったら――諦めるしかない』
「でも、助けるってどうやって?」
『セルヴァが刻まれた天使の加護を、自分に害になすものと認識すれば、『指定』の治療で一緒に解除されるはずだ』
「なら、説明すれば簡単ですね!」
「そう単純なものではないのじゃ」
私の言葉にシャルティが眉を顰める。
「え?」
『頭でわかっていても納得できない事はあるだろう。
主が頭では黄金龍の行動が正しいとわかっていても納得できなかったように』
と、今度はラウル。
うん……それは否定できない。
何より子どもは最終的には母親の愛情を求めてしまうと聞いたことがある。
どんなにひどい境遇にされても、心の奥底では母親の愛情を求めてしまうというけれど、セルヴァさんはどうなのだろう。
それでも、助けなきゃ。でないと死んじゃう。
『チャンスは一回。我ができるのはそこまでだ
それで無理だった場合は――諦めろ主』
ラウルの言葉に私は頷いた。
あけましておめでとうございます!
もしよろしければ今年もよろしくお願いいたします!
誤字脱字報告&ポイント&ブックマーク本当にありがとうございました!
ラストまで書きあがっていますので宜しければ最後までお付き合いいただける幸いです!











