79話 苦渋の決断
よくわからなかった。
セルヴァさんが突然立ち上がって、私に手を伸ばしてきて――それをシャルティがはじいたところで、デルと、ベガとアルが部屋にはいってきた。
「駄目犬!!セルヴァを殺せ!!いまそのセルヴァとテイム状態じゃないのはお主だけだ!!
殺さねば、我らが主を殺す事になる!!!!」
シャルティが叫んで、アルがびくっと身を震わせた。
殺せ?何を言ってるの?
アルがどうしていいのかわからない様子で私とセルヴァさんを見るけれど、セルヴァさんの身体から黒い何かが立ち込めている。
目は虚ろで、何かぶつぶつとつぶやいていた。
状況がよくわからない。何がどうなってるの!?でも何とかしなきゃスキルを使わなきゃ。
「アルっ!!!!ダメっ!!!殺しちゃだめ!!!!」
私が叫んで慌ててステータス画面を出すけれど、それよりはやく――
ザシュっ!!!!
セルヴァさんが短剣で貫かれた。
……そして貫いたのは……
「セルヴァさん!!!!」
そう、セルヴァさん自身だった。
だめっ、早くスキルをっ!!私がステータス画面からスキル画面を出そうとすれば
「シャルティ様っ!!クミ様をっ!!!!!」
セルヴァさんが口から血を吐き出しながら叫んで、シャルティが私の手をつかむ。
これじゃあステータス画面が操作できない。指定のスキルでセルヴァさんを治せない!
「何っ!???」
「呪いに抵抗してまで自らを刺したセルヴァの意思を汲んでやれ!
主を守りたくて、呪いに逆らって自分の命を犠牲にしたその意思を尊重するのじゃ!!!
あれは無理だ!!殺すしかないっ!!!」
「何わけのわからない事を言ってるのシャルティ!!!手を放しなさい!!!!」
私がシャルティに叫ぶけれど、その間にセルヴァさんの身体は床に倒れ込んだ。
ダメ、ダメ、ダメ。
セルヴァさんが死んじゃう!!!!
指定で治さなきゃ!!!
「シャルティっ!!!!!」
泣きながら腕に力を入れるけど、シャルティは見かけと違って力強くてびくともしない。
「……クミ……ま……。シャ……さまを……おこらない……ください……。
て……かご……こうする……しか……」
セルヴァさんが口から血を吐きながら何か言うけれど。
「こうするしかないなんてない!!指定できっと治るはず!!!!
離してシャルティ!!!!」
「指定のスキルで治るなら、主が最初セルヴァを指定で助けた時にとっくに呪いは解けていたはずじゃ!!!
解けなかったという事はそういうことじゃ諦めろ主!!
こやつの傷を治せば、またあやつは身体を呪いにのっとられる!
そして今度はわれらが操られたセルヴァの強制命令で、主を殺さねばならなくなるっ!!!
我はそんなの嫌じゃ!!!!!我は主を殺したくないっ!!!」
シャルティが涙を流しながら私を睨んだ。
確かに以前、テイムにはたった一度だけ強制的に命令できる権限があると聞いた。
でも何で、何でセルヴァさんが私を殺そうとするの?
なんで?何でこんなことになったの?
ああ、こんな事なら、セルヴァさんに外の人を助けて何て言わなきゃよかった。
ただセルヴァさんの役にたちたかっただけなのに。
こんなの望んでいない。セルヴァさんに笑っていてほしかっただけ。
それなのになんでセルヴァさんが死ななきゃいけないの?
「セルヴァさんっ!!!」
私が叫べば、セルヴァさんが目を細めて微笑んで……そのまま……目をつむる。
死んじゃう!!!!
死んじゃうっ!!!!!!!
思った瞬間。
ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
セルヴァさんの身体が光輝き、宙に浮く。
「なっ!???」
『なんとか間に合ったようだ』
私たちが声をあげれば、扉から現れたのは……虎型聖獣ラウルだった。








