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78話 祖母

「セルヴァさん大丈夫ですか?」


 目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。心配そうにクミやシャルティにフェンリル達やデュランなどが自分の顔を覗き込んでいる。


「……え?」


「道に倒れていたのですよ、最近お体の調子があまりよくないご様子でしたが、あまり無理はしないでください」


 と、デュランが言うと、後はお願いしますと獣人数人と部屋を出て行った。

 どうやら彼らが部屋まで運び込んでくれたらしい。


「まったく、おぬしはいろいろ溜め込みすぎなのじゃ!!

 人間はあれこれ考えすぎでいかん!」


 と、シャルティが言えば


「わんわんわんっ!!」


 と、アルもそれに賛同していた。

 その様子になぜかシャルティとアルがデルとベガに引きずられて部屋を出て行く。


「あの子達も凄い心配してたんですよ」


「何をするのじゃぁぁぁぁ」とデルに引っ張られて外に連れ出されるシャルティを見ながらクミ。


「……ああ、申し訳ありません。最近あまり体調がよくなくて。風邪でも引いたのだとおもいます。すぐ治りますから。ご心配をおかけして申し訳ありません」


 セルヴァがそう言えば、クミが少しためらったあと


「セルヴァさん、私に隠してる事ありますよね?」


「……え?」


「外の人達です」


「……すみません」


 どうやら、外の兵士たちの存在をクミに知られてしまったらしい。

 きっと口止めしていた誰かがクミに話したのだろう。

 だが、それを誰が責められるだろう。動揺を隠せていなかったのは自分自身。

 これだけ体調を崩してしまえば口止めしていても限度があるだろう。

 クミが気づかないわけがないのだ。

 平静さをよそわなければいけなかったのに、それが出来なかった。


「お気になさらないでください。当初話した予定通りです。

 あちらがどんな接触を図って来たとしても、こちらは対応しない方針でいきます」


「でもセルヴァさんは助けたいんですよね?」


「……え?」


「だって凄く辛そうですもの」


「……いえ。

 私の個人的感情でクミ様に迷惑をかけるわけにはいきません。

 一度でも接触を持ってしまえば、彼らはそれを利用してくるでしょう。

 ここは最初が肝心です。


 今ある平和を私一個人の感情で乱すわけにはいきません」


 そうだ。クミに迷惑をかけないためにも、当初の予定通り外との接触は一切絶つのが正解なのだ。

 いちいち一個人の私情にとらわれて、すべてを失いわけにはいかない。


「でもセルヴァさんの仲のいい人達なんですよね?

 食料をわけるなり、捕虜にするなりするとか……」


「駄目です、一度でも食料をわけたり、捕虜として城塞の中に入れれば、教団はこちらに不要な民をすべて押し付けて来るでしょう。あの大神官はそういう男です。中に招き入れれば、人が増えれば増えるだけ衝突が生まれ、統率もできなくなります。それに、獣人の方々にも迷惑がかかります。

 今後無視する方向でいくしかありません」


 セルヴァの言葉にクミは困った表情をしたあと、うんと一度頷いて


「それはセルヴァさんの心を殺してでもしなければいけない事なんですか?」


 と、セルヴァの目をまっすぐ見つめて来た。


「え?」


「私の事を考えてくれてるのはすごく嬉しいですよ?


 でも、セルヴァさんは損得で動く人じゃないじゃないですか。

 見ず知らずの私を助けてくれようとしたみたいに。

 目の前に助けられる人がいるなら手を差し伸べて助けようとするって、獣人の人達も言っていました。


 本当は助けたいのに、私のために心を殺して無理をしているなら、私はその方が嫌です。

 苦労をするのはわかっていますけど、何かみんなで考えれば、救える道はあるはずです。

 最初から何もしないで諦めるくらいなら、何かしてみたほうが……」


「ですがっ!!!それではクミ様に迷惑がっ!!!」


 ベッドから起き上がりセルヴァが言えば、クミは少し俯いたあと顔を赤らめて。


「好きな人のための迷惑が嫌なわけないじゃないですか」


 と、微笑んだ。


 とたん、呼吸ができなくなる。


――駄目だ。クミとヴィクトールを会わせては――


 クミの力があれば、聖女召喚など無用の物となる。

 ヴィクトールならすぐその可能性に気づき、教団を倒す方向に話を進めるだろう。

 クミの力は聖女を無用とする可能性を持ち、ヴィクトールはその可能性を見出す。

 ヴィクトールは優秀だ。クミの『指定』の力を利用して、教団が不要な世界を作り上げるだろう。

 彼にはその資質も、指導力も統率力もある。


 ――貴方はあの子のために最善をつくすの、不満分子をあぶり出し、ロンディエンの邪魔になりそうな子を見つけてね?それが貴方の生きる意味なのだから。そしておじい様がロンディエンに害をなそうとするなら私に知らせる事、あの人は貴方の事をとても信用しているから――


 大好きだった祖母の言葉。

 自分はずっとその言葉を守ってきたじゃないか。


 助けるふりをして、ロンディエンに不満をもつ者達から情報を聞き出しすべて祖母に報告してきた。

 だってそれが僕の役目だもの。

 そうだ――クミとヴィクトールを会わせれば、ロンディエン様の害となる。

 教団など不要とたちどころにつぶされてしまう。

 おばあ様が悲しむ。


「セルヴァさん?」


 クミが不思議そうに声をかけて来た。


 今ならシャルティもフェンリル達もいない。

 クミのレベルなら自分なら殺す事が出来る。


 殺さないと。祖母のために。

 母に暴力をふるわれていたのを助けてくれたのは祖母で。

 自分は祖母に逆らう事は許されない。


 また母親の元に戻され、折檻を受け続ける日常に戻りたくない。


 今なら--殺せる。殺しちゃおう。


 黒い何かが耳元でささやく。目の前の女を殺せと。


 そうだ、殺さなきゃ。おばあさまのために。


 セルヴァがそのままクミの首に手を伸ばせば――


 ばしっ!!!!!


 ものすごい力で弾かれた。


「へ!?」


 クミが間の抜けた声をあげ


「離れろっ主っ!!!!そやつは操られている!!!!!」


 クミを守るようにセルヴァとクミの間にはいって邪魔をしたのは黄金龍シャルティだった。

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