77話 声
「なんだかセルヴァさん元気ないよね。シャルティ、何か知らない?」
あれから数日、やっぱりセルヴァさんは日に日にやつれてる気がする。
食事をちゃんと食べているのに、身体はやつれていってるから凄く心配。
理由を聞こうにもはぐらかされてなんとなく最近は避けられてる。
……本当なら本人から理由を言ってくれるまでは黙っていようかと思ったけれど、さすがに体調が悪くなっているのに見過ごすわけにもいかない。
「あー、それなら……」
お菓子をポリポリ食べながらシャルティが何か言いかけて
「わんっ!!!!」と、デルが窘めると、
「わ、我は何も知らぬぞ!???」と慌て始めた。
知ってる。
これ絶対知ってる。
「シャルティ、デル、ベガ、アル~何か知ってるならちゃんと教えてくれないかな?」
私がにこやかにみんなに詰めよれば、
「な、ななななななんのことじゃ!?我にはさっぱりわからぬぞ!??」
と、私が作ったおせんべいを食べながら言うシャルティ。
なぜかアルはベガとデルに押さえつけられている。
ふむ。
これはあれだ。
「下にサクサククッキーを敷き詰めた濃厚なレアチーズケーキ」
私が無表情で言えば
「ぬ!?」
と、シャルティが反応した。
「パリパリでサックサックの生地を何層にもつみかさねてたっぷり果物と生クリームのミルフィーユ」
「わんっ!?」
「パンの中にたっぷりホワイトチョコを詰めたチョココロネ」
「ぬぬぬぬ!?」
「じゅわーっと口いっぱいに肉汁が広がる、ジューシーな肉まんに、二度揚げしてさくさっくとして香ばしいショウガたっぷりから揚げに、薄くスライスしたお肉の間にチーズを挟んでそれを何層にも積み上げて衣をつけた、中はチーズでとろーり、外は衣でサックサックのとんかつに、砂糖と醤油で味付けして薄―く切ったお肉をたっぷりいれたすき焼き」
「わんっ!?」
「きゃん!?」
「カカオパウダーをたっぷりかけて中は口の中でしっとりとろけて外側はぱりぱりの生チョコケーキタルト」
「きゃいぃぃぃん!!」
大好物の羅列に耐えられなくなったのかアルがたまらず尻尾をふりふりして飛びついてくる。
「くぅぅぅぅ、仕方ないのじゃ!我らが教えた事は絶対内緒じゃぞ!!」
と、シャルティもよだれを垂らしながらあっさり落城した。
「うんうん!するする!」
私が頷けはシャルティはひょいっと外の城壁を指さして
「理由はあそこじゃ!」と、教えてくれるのだった。
■□■
「セルヴァ様大丈夫ですか?顔色がよくありませんが」
道行く獣人に言われて、セルヴァは「少し体調がよくないようで」と、答えて早々にその場を立ち去った。
町中にめぐらされている用水路に視線を落せば、確かにそこに映るのはやつれた自分の姿でため息をつく。
――これではクミ様に心配をかけてしまう――
頭ではわかっているのに、最近なぜか食べ物を身体が受け付けない。
クミに心配をかけまいと無理をしてその場で食べてはいるのだが、後で吐いてしまう。
こっそり出された食べ物をクミに気づかれないようにアル達にわけて、食べる量は減らしているはずなのに、少量の食べ物でも受け付けなくなっているのだ。
外にいる兵士たちがきて2ヶ月たつ。
そろそろ彼らの本国は冬季にはいり、本国からの食料の援助も心もとなくなっているはずだ。
教団がダンジョン産の肉をすべて没収してしまうため、彼らは外の狩りに頼るしかない。
ヴィクトール達は飢えているのに自分だけは食事をしているという事実に罪悪感で押しつぶされそうになる。
かつて自分を慕ってくれていた彼らを見捨てなければいけないという選択肢をとった自分の行動が間違ってるとは思っていない。
思っていないはずなのに、わりきれない。
なぜか心の中をもやもやとした黒いものがひしめいているような違和感。
――彼らを受け入れて、何か別の対策を――
ドクン。
思った途端、心臓が激しく脈打ち、息が出来なくなる。
まただ。
心臓を抑えて呼吸を整えようとするけれど、上手くいかない。
彼らを助ける方法がないかと考えるたびに頭の中がモヤにかかったように、考えられなくなってくる。
――だめよ、あの子の役にたたなきゃ、ね、セルヴァ?――
どこからか女性の声が聞こえた、とても懐かしい声。
――貴方はそのためにいるのでしょう?――
そうだ。自分が生きている理由は――
そこでセルヴァは意識を失った。








