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76話 それぞれの主張

「貴方は公明正大に生きなさい。

 おじいさまに習って、弱きものを助けてあげられる強い子に。

 期待していますよ。セルヴァ」


 祖母がよく言っていた言葉。

 自分を大切にしてくれた、元大神官である祖父と、ほぼ純血に近い天使の血を継ぐ祖母。

 母に虐待されていたセルヴァにとっては二人の言葉は絶対であり、支えでもあった。



 だからこそ――祖父と祖母の期待を裏切らないようにと、弱気者の側に立ち支えられるようにと尽力をつくしてきたつもりだ。


 自分の事よりも他人の事を。

 大神官ロンディエンに不満をもつ者をまとめ上げ、彼らの不満を聞き、解消する。

 それが祖母に言いつけられた自分の役目。


 傲慢な父をいさめるのが自分の役割。



 だから――何も間違っていない。


 見張り台から見えるセズデルク王国軍を見下ろしセルヴァは思う。


 クミの力は絶対的すぎて、ロンディエンが持てばそれこそ世界をも破滅に導いてしまうかもしれない。

 だからその力を外に出すわけにはいかない。外と接触を持つのはたった一度でも許されないのだ。


 一度難民と受けいれてしまえば、あちらはこちらの情のもろい部分を利用してこようとするだろう。


 自分が邪魔だと思うものをセルヴァ達に押し付け、急激な人口増加による食料不足と土地不足による争いをおこさせ、こちらの内部崩壊をもくろむかもしれない。


 無関係なものを見捨てる非情さはクミにはないのだ。

 難民の存在を知れば、可哀想と受け入れてしまうだろう。

 だがいくら彼女の力が強大だとしても、土地も食料も限りがある。

 そして何より多種多様な国の者を受け入れていれば必ずもめ事はおこる。

 今が上手くいっているのは温和な獣人達だけだからだ。

 これで人間など増やせば、獣人を下にみている人間と、虐げられていた恨みのある獣人達とで必ず亀裂がおこる。

 人種や、文化の違いを無視して来るものを無限に受け入れる事はできない。


 人口増加はそれだけリスクが高まるのだ。

 

 だから――自分が非情にならなければ、でなければ彼女を守れない。

 大事な者を守るには何かを犠牲にする必要があるのはわかっている事で――何も気に病むことではない。



――そうよ。それでいいの――



 頭の中に声が響く。甘く懐かしい声。この声を聴くといつも何も考えられなくなる。


 そうだ、これでいい。自分のしていることは何も間違っていない。


「セルヴァ様」


 見張りの獣人に声をかけられ、セルヴァははっとする。


「はい?」


「もう彼らがここに攻撃をはじめて一か月になります。本当に放置していていいのでしょうか?」


 敵わぬと知りつつ、教団の命で壁に攻撃を仕掛けている兵士たちを哀れにも思うが、どうしようもない。

 教団の狙いは彼らの遠征費で国を弱らせる事。

 聖女の浄化の力という人質を取られている彼らは、逆らう術をもたないのだ。


「放っておくしかありません。我々に彼らをどうこうできる問題ではありません」


 そう言ってセルヴァは歩き出す。


 どうしようもない苛立ちを抱えながら。



■□■



「どうだ、何か中への連絡手段はみつかりそうか?」


「いえ、壁は頑丈で魔法をつかっても、マジックアイテムをつかってもびくともしません。

 上空も何かに守られているようで、伝書ドリを放っても戻ってきてしまいます」


 セズデルク王国の魔の森に設置された陣営で、第二王子アレンが部下に問えば帰って来た答えがそれだった。

 教団に出兵を命じられてはや1ヶ月。

 何の進展もない戦いに兵士たちの士気も低くなっている。

 そして何より魔の森では自力で食料を調達することもできない。

 この森でとれる植物や動物は闇に侵されていた期間が長く食する事ができないのだ。


 ……せめて中のセルヴァ様と連絡がとれれば。


 なぜ魔の森の闇の力が払われたのか、わからない。

 けれどセルヴァが聖女なしで闇の力を浄化する方法を知っているのなら、教団の言いなりにならなくてすむかもしれないのだ。


 セルヴァなら、きっとアレンが来たことを知っていれば迎え入れてくれるはず。

 彼は常に弱者の味方で、損得なしに人を救うような男だ。

 アレンたちの惨状を知っていて見捨てるような男ではない。


 何とか中のセルヴァと連絡を取り、この状況を打破しなければ。

 でなければ、遠征の食費がかさみ、国が立ち行かなくなる。


「なんとしても中との連絡をとる手段を探れ!!いいな!」


「はっ!!!」


 アレンの言葉に側にいた兵士が敬礼するのだった。

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