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73話 不穏な空気

「外に大軍がいる?」


 セルヴァが報告をうけたのはクミ達が石鹸や化粧品の開発にいそしんでいる時だった。

 ネット通販が使えなくなった時に、石鹸などないと困ると、女性陣が開発に勤しんでいる。やや、趣味サークルのノリになりつつはあるが、それでもクミもかかわっている獣人達も楽しそうなので、微笑ましいとセルヴァは別行動をしていたのだが……。


「まさか、攻撃を仕掛けてくるつもりでしょうか?」


 と、見張りをしていた獣人が不安げに聞いてくる。


「いえ、この城壁はレベル250の私の全力の攻撃でもびくともしませんでした。

 教団では傷つける事すら無理でしょう。空も見えないガラスのような物質が張られています。

 空から攻撃するのも不可能です。放っておいて問題ありません」


 と、セルヴァ。


「フェンリル様がいるのがわかっている以上、教団といえども勝ち目がないのはわかっているはず、それでも兵を差し向けてきたということは、狙いは別にあります」


「別……ですか?」


「おそらく派兵した国に対して嫌がらせです」


「と、いいますと?」


「勝ち目のない戦いにわざと出向かせ、遠征にかかる費用や食料などで困窮させ、教団に借金を負わせてその国を教団のものにするのが狙いでしょう」


「相変わらず汚い事をっ!!」


 獣人の一人がぐっと拳を握り締めた。彼らも同じような境遇だっただけに、外にいる兵士たちの事は人事ではないのだ。クミがいなければ、おそらく獣人達はひどい結末を迎えていた。奴隷や慰みものにされていた未来が容易に想像できる。

 それだけに教団のやる事が許せない。


「ああ……だから……」


 セルヴァの言葉に、もう一人の獣人が頷いて


「何か?」


「いえ、見張り台から旗が見えるのですが、たしかあの旗はヴィクトール様のセズデルク王国の旗です」


 獣人の言葉にセルヴァは言葉を失った。セズデルク王国はセルヴァが懇意にしていたヴィクトールやアレスがいる王国だ。

 獣人の村と言い、セズデルク王国といい、セルヴァがいなくなった途端、懇意にしていた人々が嫌がらせを受けている……これは偶然なのだろうか?

 だとしたら……


 ぐらっ。


 考えようとした途端、急に視界がかすみ、頭がぼんやりとして何も考えられなくなる。


 ――何だ?


 急に感じた違和感にセルヴァは頭を抑えた。


「どうかしましたか?」


「……いえ、この事はデュラン以外に話さないでください。

 もちろん他の村の人にもです。決してクミ様の耳に入る事のないように」


「……その、差し出がましい事を言って申し訳ないのですが」


「なんでしょうか?」


「彼らも受け入れる事はできないのでしょうか?クミ様ならきっと……」


「駄目です。彼らだけなら確かに何とかなるでしょう。

 ですが今後また教団が嫌がらせで別の軍を派遣してきたらどうなりますか?

 そのたびに受け入れていけば、土地も食料も足りなくなります」


「……確かにそうですが」


「いいですね?この話は決して他言無用です。

 引き続き見張りをお願いします」


 そう言ってセルヴァはその場を後にする。どうしようもない苛立ちを抱えながら。


■□■


「何を恥じる事がある?凄い力じゃないか」


 そうヴィクトールがセルヴァに声をかけてきたのは、まだセルヴァの祖父が大神官だった時代。

 まだヴィクトールもセルヴァも10代後半と若い時分だった。


 闇の力でモンスターを倒すセルヴァを恐れ、誰一人セルヴァに近づかない中、彼だけは親しく話しかけてくれたのだ。


 10階のダンジョン攻略にへと教団員もつれ国を挙げて挑んだ時、セルヴァもその応援で駆け付けていたのだ。

 運悪く、ダンジョン攻略の一部隊がダンジョンの罠にはまり、生き残ったのはヴィクトールとセルヴァの二人だけだった。


 彼は闇の力を恐れることなく認めてくれた、数少ない知り合いだった。

 それ故、ダンジョンの罠から二人で生き延び、地上に戻った時には、親友と呼べる存在になっていた。

 だからこそロンディエンからすれば目障りな存在だろう。教団は邪魔な彼らを始末する方向に動き出した。


 セルヴァは街をぐるりと囲む壁に視線を向けた。


「そこにいるのですか? ……ヴィクトール」


 セルヴァは城壁を見上げ呟くのだった。


■□■


「では、セルヴァ様はそのまま放置しておけと?」


 見張りだった獣人の報告にデュランが聞き返す。


「……はい。本当によろしいのでしょうか?

 セズデルク王国のヴィクトール様が軍の中にいるかもしれませんのに……」


 と、報告する部下に、デュランがふむと考え込んだ。


 ヴィクトールは一度セルヴァが獣人の村に連れてきたことがある。

 確かに彼は気さくでいい人間だった。獣人の地位向上にも力を貸してくれた恩人だ。

 何より、ヴィクトールとセルヴァは仲がよかったはずだ。


「確かにセルヴァ様らしくないな……」


 と、デュランは考え込む。

 元々彼は正義感溢れる人間だ。損得よりも義を重んじるところがある。

 それが故、殺されそうだったクミを放っておけなかった。

 自分の身の安全を考えるよりも先に、クミを守ろうとして結果切られ殺されかけた。


 たまたま転移された近くにフェンリル様達がいたから助かったと聞いているが、もしいなかったら死んでいてもおかしくなかったはずだ。


 その彼が未来に危機が迫るからという理由でそう簡単に目の前にある救える命を見捨てるのだろうか?

 彼なら救った上で次に備える……デュランの知るセルヴァならそうしたはずなのだが……。


 それだけクミ様が大事だという事なのか、大神官に殺されかけた事で彼の中で考え方がかわったのか……獣人達に迷惑がかかると考慮してくださっているのか。


 もしくはそのすべてなのかもしれない。


「とにかく、セルヴァ様の言う通り進めなさい」


 デュランの言葉に見張りの獣人達は頷くのだった。


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