72話 それぞれの思い
「パパ!行ってくるね!!!」
頭にラウルを乗せたリーチェがお茶を飲んでいるデュランとセルヴァに手を振って、元気に学校へと向かっていった。
ここに移り住んでからすでに1年以上経過し、リーチェもかなり身長が伸びた。
食べる物がいいせいか、子供たちのほとんどがこの一年で大きくなっている。
以前はやせ細っていた子供たちが見違えるほど毛艶もよくふくよかになっているのだ。
その姿に微笑ましいなと思いながら手を振るリーチェに大人二人は微笑んだ。
「気をつけるんだぞ、リーチェ」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
二人が見送るとリーチェは嬉しそうに外にでていった。
「本当にここに来てから、生活が見違えました。クミ様とセルヴァ様、それに聖獣様達のおかげですね」
と、デュランがお茶を飲みながら言う。
「いえ、すべてクミ様のおかげですよ。
……私は結局何もできませんでしたから」
そう言って、セルヴァはデュランの淹れてくれたお茶を飲む。
このお茶はクミが作り方を獣人に教えたもので「私がいなくなってもお茶とか飲めるように、公園のチューリップとかも、実用的な花に変えましょう!」と、アプリの「鑑賞用花」から選べる花の中でジャスミンやカモミールなどお茶やハーブなどに実用的に使える花に入れ替えた。
ダンジョンと同じで、収穫から三日後にまた生えるため、お茶やハーブなどといった以前では考えられなかった嗜好品も今では誰でも楽しむ事ができる。
自分が死んでからの事も考慮しているところが、クミらしいと思いながらお茶を飲めば
「セルヴァ様も尽力してくださいました。どれだけ皆感謝していたことか……」
と、デュランがお茶を注ぎながら言う。
デュランなりにセルヴァに気をつかっているのだろう。
「私は特になにもしていませんよ。凄いのはクミ様です。」
先代の大神官の意思を継ぐセルヴァを慕ってついてきてくれた国や村などの集落はあった。けれど、結局はロンディエンに、税を軽くしてくれと嘆願するのが精いっぱいだった。
神殿にいた時の自分はあまりにも無力だった。きっと皆、口だけで何もできなかった自分の事を不甲斐なく思っていただろう。
このように劇的に状況を変えるなどということが出来たのはクミの力あってであり、セルヴァはただ彼女に従っただけにすぎない。
「彼女には本当に感謝しなければいけませんね」
と、セルヴァは嬉しそうに微笑んだ。
■□■
まったく不思議な方だ。
帰っていく、セルヴァを見送ってデュランはため息をついた。
自分の話はすぐ卑下に近い謙遜をするセルヴァがクミの話の時は嬉しそうに、凄い凄いと褒めたたえて顔を赤らめるのだから、誰がどう見てもクミに好意があるのがわかる。クミの方もセルヴァと話すときは顔を赤らめているのが見て取れて、想いが通じあってるのはあきらかだった。
なのに、なぜか当の本人たちはお互い気づかずに進展しない。
まぁ、クミは以前の表情一つ変えず淡々と話すセルヴァの方を知らないため、仕方ないのかもしれないが……。
彼女が変えたのはセルヴァだけではない。
彼女は獣人達でも役に立たないスキル持ちと言われた者達のスキルに活路を見出して、それを役立ててしまう。
デュランの姪のファーファもその一人だ。
ファーファは、スキルを使用してもわけのわからない文字列が表示されるだけで、まったく役立たずのスキルといわれてきた。
だがクミは、すべての物質の成分がわかるファーファのスキルは素晴らしいと、大喜びしていたのだ。ラードフロッグの唾液は水酸化ナトリウムだ!!と意味不明な事で喜び、その唾液を利用して石鹸を作りだしてしまった。
そして、これで、私が死んでもちゃんと石鹸が作れますね!と笑うのである。
今を生きるのが精いっぱいの自分達とは違い、クミはその先まで見据えて行動しているのだ。
クミに言わせるとファーファのスキルは夢のようなスキルらしいのだが、デュランたちにはまったくわからない。
もともと嗜好品など神殿に没収されてしまうため使う事がなかったのもあるが、見た目や肌や毛並みに気を使うなどという事もなかったため、そのような品物を作ろうという発想すらなかった。
ファーファのスキルがどのような形で役立つのかなど考えもしなったのである。
クミはファーファのスキルを素晴らしいと褒めたたえ、すぐにダンジョンへと連れて行った。
クミの言う通り、彼女のスキルで分析したおかげで、植物のモンスターの体液から化粧品などを開発してしまう。
ファーファも自分のスキルのおかげでいろいろなものが発明されるのが嬉しくて、クミやセルヴァそして聖獣達と一緒に嬉しそうにダンジョンに挑むようになった。
以前はおどおどして、周りを気にする子だったのがいまはイキイキと狩りに行くようになったのである。
それだけではない。子ども達にたくさんの事を経験させ学ばせるため、子供たちも自分のやりたい事、未来を考えるようになった。
以前ならただダンジョンに籠り、神殿に品物を納めるだけだった毎日だったのが自分のやりたいことを考えられるようになったのである。
一年前までは明日食べていけるかと、生きるので精いっぱいだったのが嘘のように、夢や希望のある世界で--。
クミ様に感謝せねばーー。デュランはセルヴァの背を見送りながら思うのだった。
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