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67話 幸せと不幸

「ふわふわして美味しい!!」


「甘くて口の中でとろけるよ!!!」


 子供たちが嬉しそうに綿あめを受け取りながらたべて、嬉しそうに言う。

 お祭りは楽しかった。

 私とセルヴァさんは綿あめを売るかかりで、獣人さん達が物珍しいのか大人も子供もたくさん買いにくるからわりと慌ただしい。

 どのお店も人がいっぱいで、皆美味しいと食べてくれている。


 シャルティもアルも嬉しそうにお菓子の屋台に並び、デルとベガはもくもくとお肉を食べていた。


 見渡せばみんな楽しそうでお祭りはそこそこ成功かもしれない。

 今年は突然で間に合わなかったけど来年は浴衣とか作ってやるのもいいかも。

 セルヴァさんなんて似合いそうだなぁと思うけど、肌の露出が多すぎて無理かもしれないのが残念かな。イケメンだからきっと似合うのに。

 と、チラリと見れば目があって、にっこり笑ってくれたから、私もにっこりわらって綿あめを作る。


 それから少しして、広場では踊りがはじまった。

 皆街の中央に集まり、中央の願いの短冊を飾った木を中心に踊りだした。私達もお店を終わりにして、広場に行けば、獣人さん達が音楽にあわせて楽しそうに踊っている。決まっているのは前半だけで後半の振り付けは子ども達以外の大人は自由に踊っていて、それほど決まりはないらしい。


「主―!!主達もおどるのじゃ!!!」


 セルヴァさんと隅っこで見てたらシャルティが迎えに来る。


「ええ、いいよ。私踊り方習ってないし」


「我も知らぬ!そこは雰囲気じゃ!!!」とシャルティがエッヘンと胸をはった。


「シャルティはいい加減なんだから」


「いい加減ではないぞ!適応能力が高いと言ってくれなのじゃー!!!」


 と、シャルティが私とセルヴァさんの手を引っ張り、。踊りの輪の中に連れて行く。


 三人で手をつないだまま踊るというわけのわからない踊りになったけれど、それはそれで楽しかったりする。

 

 この世界に来たときは、いきなりセルヴァさんが切られて森に放りだされてどうなるかと思ったけれど--、今こうやってみんなで街を作ってお祭りができて――私はきっと幸せなんだろうな。


 セルヴァさんに、デルやベガやアル。それにシャルティに獣人のみんなやラウル。


 この人たちに会えた事を心から感謝を。

 どうかこのまま平和な日常が続いていきますように。



□■□



「兄上!!無謀です!!本当にダンジョン10階攻略になど挑むのですか!?」


 セズデルク王国の城で、第二王子アレンが、第一王子ヴィクトールに叫んだ。

 ここはダルトナ聖王国から南に位置する、王国で王国の規模としては小国ではないが大国とも言い難い、中規模の国家ともいえる。

 最近新しく召喚された聖女様が「お米が食べたい」と、所望されていると、ダルトナ教団が指示してきた。セズデルク王国の所有するダンジョンにある米を聖女様のために、地下10階から持ち帰るようにと。


 過去に一度だけ10階を攻略できたことがあった。

 だがそれはもう60年以上前。ヴィクトール達の先祖の話であり、それ以後10階まで到達できた者はいない。

 それだけセズデルク王国の所有するダンジョンは攻略が難しいのだ。


 特に最近ではロンディエンが大神官になり神殿に納める税が重くなり、軍備に資金を回す余裕がない。

 そこにきて新しい聖女が民たちに食べ物をもっと配ってやれ、教育を施してやれと無理難題を請求してくる。


 その要求に神殿が援助してくれるならまだいい。ただ命を下すだけで、あとは国に任せきりなのだ。

 資金繰りが困窮しているところに、過去一度しか攻略できなかったダンジョン10階への派遣。

 これはヴィクトールが邪魔なロンディエンが死んで来いと言ってきているようなものである。


「……せめて、セルヴァ様がいてくれたらこんなことには!!」


 第二王子がこぶしを握りしめて言う。


「仕方あるまい。セルヴァが殺されたということは、歯向かう邪魔者は処分する予定だったのだろう。

 先日獣人の村も魔獣に滅ぼされたと聞いたが、大方神殿の連中が殺したのだろうな。

 次が我らだったというだけの事だ」


「このまま黙って殺されに行くのですか!?ならいっそ教団に一矢報いるべきです!!」


「口を慎め、アレン。

 我らのつまらないプライドでこの地を闇に染めるわけにはいかない。

 聖女がいなければこの世界そのものが成り立たないのだ。

 従う他ないのだよ。私は遠征に向けて資金を調達してくる。

 ……もし私に何かあった場合はお前がこの国を導いてくれ」


 ヴィクトールがそう言って歩き出そうとすれば


「不条理です」


「……アレン?」


「何が聖女ですか!?

 口だけは立派な思想を掲げて我らに押し付けてくるばかりで、援助もしない!

 それどころか自分達は新たに神殿を建て豪遊してさらに税を要求してくる!?

 理想ばかり述べる頭の軽い女のために我々がどれだけ苦しんでいるか!!


 起源の宝珠などという、ものさえな……」



 バシッ!!!



 アレンの言葉を遮って、ヴィクトールがアレンの頬を叩く。


「……兄上……」


「セルヴァがいなくなった今、これからは教団に危険な思想をもつ者はすぐにでも排除されることになるだろう。

 この宮殿にも何人の密偵がいるか分からない。いいか、国王などというものはお飾りだ。

 すべての実権は教団が握っている。我々はコマにしか過ぎない。

 二度とそのような事を口にするな。いいな?」


 ヴィクトールの言葉にアレンは無言でうなずいた。

 世の中の不条理を呪いながら。


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