63話 願い事
「主―!!書けたのじゃー!!!」
「わんわんわんっ!!!」
飾り付けを終え、家に帰った途端、願い事を書くと張り切りだしたシャルティと、シャルティに負けじと、一緒に願い事を書き始めたアルが私にお願いを書いた紙を渡してくれる。
「えーっと、どれどれ」
と、私が見るけれど……うん、読めない。
アルは手形だし、シャルティの文字も意味のわからない記号の羅列でわからない。
「なんて書いてあるの?」
「美味しいものがたくさん食べれるようにじゃ!」
「わんわんわんっ!!!」
シャルティとアルが胸を張る。
「二人ともらしいね」
私が頭を撫でてあげれば、二人とも「当然じゃ」「わんっ」と嬉しそうに頭を撫でられる。
こういうところでは本当可愛いのに何故喧嘩ばかりするのかなぁ。
「ところで主は何を書いたのじゃ?」
「え?私?」
「そうじゃ!全員願いを書くのじゃぞ!」
「あー、そうだよね。大人も書かないとね」
言って、シャルティが渡してくれた紙を私は受け取った。
なんとなく子供だけというイメージがあったけれど、シャルティにこの行事を教えたゲームマスターはそういう方針だったらしい。
シャルティが紙を配っていたから村の人も書いてくれてるといいなぁ。
今後の村の運営方針の参考になるかもしれないし。
チラリと、セルヴァさんを見れば、難しい顔をして、村の人たちが納めてくれた魔石の数を集計していた。
願い事は毎日こうやって暮らせていけますようにかな?
このままセルヴァさんやシャルティやワンちゃん達と暮らせていけるといいなぁ。
ちょっと夫婦みたいと妄想してみる。
セルヴァさんと夫婦でわんちゃんとシャルティが子供。
そうなったら嬉しいけれど。
……妄想だけは自由だと思う。だ、誰にも迷惑はかけてない。……うん。
「セルヴァさんもお願い事書いてもらっていいですか?」
「私もですか?」
「シャルティの話だと全員書く習わしみたいです」
「わかりました。どういった事を書けばよろしいのでしょうか?」
「うーん、こうなったらいいなーっていうお願い事です。
叶わないような夢でも、大丈夫ですよ!
こんなお願いしたんだーってみんなで見て楽しむのもだいご味ですから。
私の世界ではネタに走る人もいます!」
「……なるほど。お願いですか……」
と、私と目があったあと、急にかぁぁぁぁっと顔が赤くなる。
え。ど、どどうしたのかな?
「だ、大丈夫ですか!?」
「す、すすすすすすみません!?なんでもありません。
年甲斐もなく恥ずかしく叶わぬ夢を考えていたもので」
「どんな夢か聞いても大丈夫ですか?」
「あ、いえ、その……世界が平和になりますようにと……」
と、後半は聞き取れないくらい小さな声で言うけれど、それのどこが恥ずかしいのかな?
この世界は……夢を語る事も恥ずかしいと思うような世界なのかも。
抑圧されすぎて夢も希望も語れない世界ってなんだか嫌だな。
「素敵だと思いますよ。セルヴァさんらしいです」
と、私が微笑めば、セルヴァさんも少しハニカミながら「はい」と答えてくれた。
せめてこの村だけでも、夢を自由に語れるのが当たり前の世界にしていきたいな。
□■□
ぱたん。
クミとお休みのあいさつをした後、セルヴァはぱたりと扉を閉めてそのままずるずると扉に寄りかかりながら腰を下ろした。
――顔にでてしまった――
と、顔を手で覆いながら、一人反省する。
クミに何か願い事をと聞かれた時、彼女と両想いになれたらと想像してしまい、顔に出てしまった。自分でも頬が赤くなってしまうのがわかったのだから、クミにはバレバレだっただろう。案の定、大丈夫ですか?と心配までさせてしまった。
夢を恥ずかしいと勘違いしてくれたからいいものの、想いを知られるわけにはいかない。
気を引き締めないと――。
彼女は手が届くような存在ではない――。
忌み嫌われていた自分が彼女と対等になろうなんて失礼だ。
平和な時間が長すぎて、気が緩んでいる。
かつての獣人の村の様子を知っているだけに、今の状況が以前と比べどれだけ幸福な光景か。
重税に悩み、傷ついても病んでいても薬を使う事すら許されず、食事もろくにとれず細い身体で狩りに行かねばならなかった獣人の人々が、今はどうだろう。
美味しいものを食べ、会話を楽しむ余裕もでき、自分に与えられた仕事を喜んでやっている。
村の人々が生き生きとしているのだ。
最初クミの異常ともいえる食へのこだわりを不思議に思っていたが、今ならわかる。
美味しい食事というのもは人々を幸せにする。
彼女の料理を食べて幸せだと微笑む人々を見て、自分まで嬉しくなってくるのだ。
美味しい食事と、適度な休暇、そして生きるための仕事とやりがい。
それをクミは住人一人一人の適性を生かして全員に分け隔てなく与えている。
ただ、与えるだけではなく、獣人達の労働意欲もきちんと考慮出来るところが彼女の住んでいた地域の教育水準の高さを物語っていた。
皆が幸せに暮らしているこの生活を崩すわけにはいかない。
この関係を維持して、変わらず街を発展させていかないと――そのために気持ちを知られないようにしなくては――。
セルヴァは「はぁぁぁぁあ」と大きくため息をついた。
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