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59話 わかりやすい

「ブラッド・レヴィル・サゥル!!!」


 セルヴァが魔法を唱えれば、一帯の敵が血を抜かれて干からびていく。

 獣人達はマーキングされているため被害がなく、その場にいたモンスター達だけが綺麗に倒されていた。


「流石ですねセルヴァ様」


「はい、シャルティ様がレベルを上げてくださいましたから。

 とにかくアイテムを回収しましょう。早く戻らないと」


 そう言って、セルヴァは20Fのボスを倒した時に出たマジックバッグ(中)を取り出した。

 デルタのマジックボックスほど収納はできないが、このダンジョンの敵を収納できるくらいには余裕のある収納アイテムだ。


 いそいそと嬉しそうにアイテムを拾い出す、セルヴァを見てデュランは目を細めた。

 以前の知るセルヴァなら魔法を他の者の前で使うことなどなかったのに、今では躊躇なく魔法を使っている。

 そして嬉しそうに、クミが喜ぶから血抜きをしておかないとと、微笑むのである。


 獣人達の目から見れば、セルヴァの方もクミの方もお互い気がありそうに見えるのだが、なぜか当人たちは自覚がないように見えた。

 以前なら難しい顔ばかりして、表情をあまり見せる事がなかったセルヴァが笑ったり、がっかりした表情を見せるようになったのを見て、獣人達は皆驚いたが口にはださなかった。

 ラーミャあたりは「くっつけちゃえばいいのに!」と、騒いでいるが、当人たちの問題なので口をはさむなとは釘をさしてある。

 

 慎重なセルヴァが、この密閉された世界で告白しないというのはわからなくもない。


 恋仲になって上手くいっているうちはまだいいだろう。

 だが不仲になった時が問題だ。色恋沙汰関係の亀裂は禍根を残す。この遺跡に暮らしていく以上お互いに逃げ場がない。導いていくはずのセルヴァとクミがそのような状態になった場合、内部崩壊の危険がある。

 だからこそ思いを伝えないと言うのは――セルヴァらしいといえばセルヴァらしいが……。


「デュラン様!凄いですよ!ポーションだけでなく炎の剣とかも落ちてます!

 セルヴァ様貰っていいですか!?」


 村人の一人がそう言えば、セルヴァが「はい、かまいませんよ。戦力が上がりそうなものは各自判断で持ち帰ってください。それとほかの人に渡せそうなものもアイテムボックスに詰めておいてくださいね。後で分けましょう」と、ポーションを詰め込む速度を維持しながらにっこり笑う。けれど拾うスピードは全く緩めていない。


(はやく帰りたいのだろうな……)


 ニコニコとアイテムを拾うセルヴァを見てデュランはわかりやすい、何故これでお互い気づかないのだ?と思うのだった。



□■□



「ところでセルヴァ」


「はい?何でしょうシャルティ様」


 狩りを終え、クミ達と暮らしている屋敷に戻れば、クミは獣人達に今日の夕飯のシチューの材料を渡しに行っていて、シャルティとわんこ達はクミの作った料理を嬉しそうに食べているところだった。

 セルヴァは少しがっかりしながら、席につけばシャルティに尋ねられる。


「獣人達をもっとレベルをあげてしまえばお主がわざわざ手伝うほどの事ではないのではないか?」


「いえ、さすがにそれは。

 スパイがいる可能性が高い以上、彼らを100%信用して動くのは危険かと。

 クミ様に害をなせるレベルになってしまえば脅威になります」


「ふむ。そういうものかの?」


 マドレーヌを嬉しそうにほおばりながら言うシャルティにセルヴァは頷いて、「くれぐれもクミ様のフィールド変更能力と、宝珠を浄化出来る事は内密に」と念を押す。


 シャルティはまだ少し納得いってなかったようだが、それでもこくりと頷いた。

 その隣ではそろりとアルがシャルティの食べ物に手を伸ばしていた。


「まぁ、お主がそういうならそうなのじゃろう……ってバカ犬!!

 我のマドレーヌまで手をだすなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そんなシャルティとアルの様子を仲がいいなと、セルヴァは微笑ましく見守るのだった。

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