56話 幸せな生活
「ああ、毎日こんな美味しいものが食べれるなんて幸せです~」
ラーニャさんが新しく教えたドーナッツを食べながらうっとりとした顔で言った。
あれから3ケ月たち、生活もだいぶ軌道に乗って来た。
元々干し肉さえあればいいやという食生活だったらしく、食事を作る習慣がなかった獣人さん達なので結局ご飯は配給制にした。
パン作りの人とは別にスープを作る人、肉を加工する人、肉を焼く人など役割も分担している。
ダンジョンで狩ってくる人達もセルヴァさんがレベルを上げたのでとても効率よく魔石を集めてきてくれるし、何よりシャルティとワンちゃん達がいるので魔石も肉もアイテムも困らない。
前はシャルティやワンちゃん達が狩ってきてくれても多すぎて処理できずダメにしていた、モンスターの死骸も、獣人さん達が綺麗に処理をしてくれるので無駄がなくなった。
元々肉の処理に関しては、神殿に干し肉として税金で納めていたため、獣人さん達は解体が上手なので、私とセルヴァさんだけでは捌けなかったお肉も、処理してくれるのですっごく楽。
ほぼ一日が食事作りで終わっていたのが、獣人さん達がやってくれるおかげで、私も自分の時間がもてるようになった。
「ラーニャさんっていつも幸せそうに食べますね」
と、私が微笑みながら言えば
「こんな美味しいもの食べれるなんて幸せですものぉ。
毎日美味しい食事が食べられて、お風呂まで入れて、睡眠時間もちゃんととれるなんて前から考えれば夢のよぅですよぉ。
見てくださいっ!この毛艶!美味しい食事とシャンプーでつやつやですよぉ~!!
クミ様のおかげですありがとうございますぅぅ!!」
と、抱き着いてきた。
ラーニャさんは隙あらば抱き着いてくるので最初は驚いたのだけれど、獣人では喜びの表現らしい。
ラーニャさんは抱き着きながら自慢げに尻尾を見せてくれる。
確かにつやつやで綺麗。来たときはぼさぼさだったかも。
「本当綺麗。つっやつやですね」
「クミ様に売っていただいたしゃんぷぅとリンスのおかげですぅ。
前は睡眠さえちゃんととれてませんでしたから、毛もボロボロでしたものぉ」
「前の生活って睡眠時間もなかったの?」
「今の大神官が就任してから急に税率が高くなっちゃってぇ、みんなダンジョンに籠って狩りをしないと間に合わなかったんですぅ」
「ですが、セルヴァ様が交渉してくださり、最近ではそこまで酷くはありませんでしたが」
と、ラーニャさんの言葉に続いて、一緒にドーナッツを作っていたラストさんが続けた。
「でも一番酷かった時よりマシってだけですよぉ。
一日に納めなきゃいけない素材も魔石も肉の量も多かったですしぃ。
寝て、干し肉を食べたらすぐにダンジョンに狩りに行かないと間に合いませんでしたもの。
ご飯だってお腹いっぱいなんて食べられた事ありませんよぉ?
セルヴァ様個人には本当に感謝してますけどぉ、神殿は嫌いですぅ」
「今が幸せならそれでいいじゃないですか!
働けば働いただけ幸せになれるって凄いですよ!
前は働いても全部取られちゃいましたから!
こうやってみんなに喜んでもらえるパン屋さんになれたなんて夢のようです!
クミ様ありがとうございます!」
焼きあがったベーグルを窯からだしながらサニアさんが微笑んだ。
「本当ですね、作ったものが美味しい、美味しいと食べていただけるのは幸せですね。
食事を楽しむなんて発想がありませんでしたから」
と、ラストさんも続く。
「このドーナツもきっとお店に出したら子供たちが殺到しますよ。
楽しみですねっ!!」
「はぁい~いっぱい作りましょう~♪」
イキイキしてるみんなを見て思う。
普通に働いて食事と休みの時間があるだけでこんなに喜ばれるなんてきっと前は酷かったんだろうなって。
獣人さん達は日本のように作ったものはその日のうちに!!というほどの味へのコダワリはないので朝食用のパンは前の日に作って、次の日に売っている。だから早朝の仕込みとかはないのだけれど、それでもパン作りは重労働だ。人数を増やした方がいい?とみんなに聞いてみたら、余裕なんでいらないですと言われるくらい、みんなすごく働き者。
その彼らがきついと言ってるんだから、外の世界は私が思っている以上に酷いのかもしれない。
デュランさんの話では、セルヴァさんが教団の中で唯一、弱者の立場に立ってくれて戦っていてくれたと言っていた。
――でも、外の世界では私がセルヴァさんを殺したと発表されているらしい。
セルヴァさんに守られていた人たちは――私のせいでセルヴァさんを失ってしまった。
ずっと守り続けてたものを、私のせいで捨てなきゃいけなくなったセルヴァさんはどんな気持ちなんだろう?
「クミ様?どうかなさいましたか?」
つい、手を止めてしまってラストさんに聞かれてしまう。
「あ、何でもないです!それじゃあこれから週1でドーナツ作りも頑張りましょう!」
「はいっ!!」
せめて--手の届く範囲の人だけでも、どうか幸せにしてあげられますように。








