47話 氷点下
私の所にセルヴァさんそしてシャルティの二人が降り立てば。
「クミ……助けてくれたのか……」
と、何やら勇者を彷彿とさせるような恰好をしたカズヤに話しかけられた。
途端がばっとセルヴァさんに腕をつかまれそのままセルヴァさんの後ろに下げられる。
そりゃ、見捨てられたけど、助けられるのに見殺しにできるほど私は度胸がない。
そんな事をすれば一生人を殺したと後悔する。
だから助けただけで、それ以上でもそれ以下でもない。
でもそれをいちいちこの男に説明するのもなんとなく嫌だ。
私が何も言わないせいか、カズヤは勝手に勘違いしたようで
「ありがとう、やっぱり僕の事を思ってくれてるのは君だけだった」
と、とんでもない事を言い出す。
「え、ちがっ……」
私が慌てて言い訳しようとすれば
「すまなかった。俺がどうかしていた。
騙されていたんだ!キリカに!君が浮気しているなんて言葉を信じて君を裏切った!
許してほしい」
「浮気って……」
私は絶句する。謝るのそっち?
い、いやいやいや。最初に謝らなきゃいけないところってそこじゃないような気がする。
浮気していたことも許せないけれど問題点はそこじゃない。
「少し頼られたからっていい気になっていた僕が悪かった。
君は何でも一人でこなしてしまうから、本当に愛されているか不安で……
そんな時甘えてくる彼女に惹かれてしまった。
あの女の本質を見抜けなかったんだ。
命をとしてまで僕を愛していてくれる君を裏切った。
本当にすまない、許してくれ!!」
と、カズヤが頭を下げる。
え?いや、だから謝るところ違う。
命の危険があるのに見捨てた方が問題でしょう?
あ、なんだろう。
冷めた。
氷点下まで冷めた。
そりゃ命が危険な立場で守れっていうのは酷だってことはわかってる。
でも一言くらい文句言ってくれてもよかったよね?
無理だったとかならまだわかるけどガン無視したよね?
目をそらしたよね?そこはキリカまったく関係ないよね?
そこはスルー?
さーっと自分の中で何かが引いて行く。
女は一度冷めると嫌いになるというけれど、なんとなくその感覚が今わかった気がする。
むしろまだ少しでも未練があった自分の方に驚いたけど。
「あ……」
私が何か言いかけるけれど
「……あなたは他に謝らねばならない事があるのでは?」
と、先にカズヤに詰め寄ったのはセルヴァさんだった。
「え?」
「先ほどから聞いていれば、聖女様に責任を押し付けるばかりで、悪いのは聖女様といいたいだけではありませんか」
「セ、セルヴァさん」
あまり怒らないセルヴァさんの怒った声に私は思わず止めにはいるけれど
「何故転移させられそうになった時止めなかったのですか?
勇者の貴方が止めていればあそこまで無碍に転移させられることもなかったでしょう。
命の危機にあった彼女を見捨てた、そこが一番の問題でしょう?
貴方はわざと一番許されない罪から論点をずらしているのでしょうか?」
そう言うセルヴァさんの声は冷たくて、私は思わず止めようとした手を止めた。
なんだかこんなに怒ってるセルヴァさんは初めて見る。
「仕方ないじゃないか!
異世界なんてところに来てわけもわからない状態で僕にどうしろっていうんだ!?
命が危ない状況なら誰だってそうするじゃないか!!」
「では、あなたを助けたのは誰です?」
「え?」
「このような状況下でも、貴方を助けたのは誰かと聞いているのです。
クミ様も一歩間違えば命が危うかった。それでもあなたを助けた」
セルヴァさんの声に、カズヤがハッとした顔で私を見る。
「……それは……」
俯いてしまったカズヤに私はため息をついた。
「……それに、セルヴァさんは助けてくれました」
「え?」
「助けようとしてくれたのは、元恋人だった貴方じゃなかった、見ず知らずのセルヴァさんだった」
「で、でも僕は異世界で事情なんてわからなかったっ!」
「ええ、セルヴァさんは事情をわかっていて抗議して、切られて殺されそうになった。
殺される可能性があるのがわかっていて止めてくれた。
他人のセルヴァさんがそこまでしてくれた。貴方は何をしてくれたの?」
私が言えば、カズヤはぎしっと歯ぎしりをして
「……君もか」
と、つぶやいた。
「え?」
「どいつもこいつも!?異世界人の美形の方がよかったというんだな!?
用がなかったらポイ捨てか!?
キリカもお前も!!異世界でちょっといい男に言い寄られたからって、簡単に人を捨てて!?
少し容姿のいい男に口説かれればすぐ尻尾を振ってこれだから女はっ!!」
ちょ!?また論点ずらし!?
いま議論すべきはそこじゃない!
私が頭にきて反論しようとすれば
「大体っ!!両親のいないお前をもらってやったのに!!!!」
……え?
「親父たちの言う通りだった、これだから親のいない子なんて……」
ぱしっ!!!
何か言い終わる前に、カズヤの頬をセルヴァさんが平手で叩いた。
「セ、セルヴァさん」
「貴方は何を言っているのです? 捨てた?
はて、おかしいですね。先に彼女を捨てたのは貴方のはずです!!
それに両親云々など今関係ない事でしょうっ!?
貴方は相手が弱い部分であるところに論点をすり替えて相手を責める癖があるようですが、見ていて甚だ不愉快でなりませんっ!!!」
「だからあの時はああするしか!!」
「ああするしかなかった?
笑わせますね、あなたはクミ様が目覚める前に大神官に受けた説明で、自分が優遇されている立場だと自覚していたはずだ。
聖女様がクミ様について大神官に嘘の説明をしている時、貴方の立場から止めてくれれば、こんな事にならなかった、
聖女様の説明には明らかに不自然な点があった、そしてあなたも目を逸らした。
嘘だとわかっていたのでしょう?でもあなたは止めなかったではありませんかっっ!!
心の中では浮気を責められるのが嫌で消えて欲しいと思っていたのでは?」
「……そ、そんな事があるわけがっ!!」
と、なぜかカズヤが縋るように私を見る。
あー、あっさり捨てたと思ったら、キリカがそれとなく捨てるように言ってたわけか。
そしてカズヤも黙って聞いていたと。で、止めもしなかった。
そうだよね、両親のいない女をお情けでもらってやっただけで、私なんてどうでもいいんだろうね。
嫌なら嫌と最初から言ってくれれば、私だって付き合ったりしなかったのに。
心の中では馬鹿にしてたくせに、両親がいないのは恥ずかしい事じゃないなんて思ってもない事を言っていたなんて許せない。
「もう貴方の声も聴きたくない。安全な場所に避難させてあげるから私の前に二度と現れないで」
言えた言葉はそれだけだった。








