45話 雄たけび
「はぁはぁはぁ」
森の中で、獣人の子リーチェは魔獣を探していた。
すでに村の人々は魔獣を呼び寄せる準備をしている。
このまま魔獣が獣人の呼び声に誘われれば勇者達に襲われる。
この前出てこないでって頼んだけれど、もう一度ちゃんと言っておかなきゃ!と、少女はこぶしを握り締めた。
……それにしても。
森の入り口でも前は闇の匂いが感じられたのに、今は全く感じられない。
どうしてだろう?
そんなことを考えていれば。
どぉぉぉん!!
町の方から爆発音が聞こえる。
――もしかして魔獣さんが呼ばれちゃった!?
リーチェが魔獣を探している間にどこかで入違ったのかもしれない。
リーチェは慌てて街に戻るために走り出した。
□■□
森からでて、街と森の境で、厄災の魔獣と勇者は対峙していた。
大勢の神官に囲まれた魔獣が勇者のスキルで攻撃されたのか苦しそうにもうもうと白い煙を上げている。
「魔獣さん!!!!」
ダメダメ!!魔獣さんは獣人の街の守り神。
おばあ様が言っていたの。
厄災の魔獣様は昔から獣人の街を守ってくれる優しい子だって。
本当だよ?私が森の中で迷子になった時助けてくれたもの。
リーチェは魔獣と勇者の間に割って入る。
「駄目!!お願い勇者様!!魔獣さんを殺さないで!!」
リーチェの出現に勇者は思わず剣を振りかざそうとしたその手をとめた。
「なっ!?さっきの!?」
勇者が狼狽したその瞬間
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
魔獣が大きな咆哮をあげるのだった。
□■□
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
セルヴァさん達と屋敷に作ったバルコニーで食事をしていたら、なぜか大きな雄たけびのような声がひびき、大地が揺れた。
「え!?え!?え!?何!?」
シャルティ達にピザを差し出そうとして、大地が揺れたのが怖くて私が机にしがみつけば、セルヴァさんが手を握ってくれて
「外で何か起きてるようです!!」
と、叫んだ。
でも街の周りに物凄く高い石造りの強固な城壁を作ってしまったばかりなので外の様子が見えない。
「掴まるのじゃ!!」
シャルティが背中に羽をはやし、私とセルヴァさんの手をもってぶわっと宙を舞った。
上空から外をみれば、モンスター達がこの遺跡を綺麗に避けながらまっすぐに森の外を目指して走っている。
「な、何事!?」
私が言えば、一生懸命地上からアルたちが何かを叫んでる。
「わんっ!!わんわんっ!!!」
「どうやらこの森の聖獣が仲間を呼んだらしい!
勇者を攻撃しろと指示したらしいぞ!?」
「えええええ!!!」
勇者ってもしかしてカズヤの事!?
私は慌ててモンスター達が向かう方へ視線を移すのだった。
□■□
『兄者!!聞こえた!?聞こえた!?』
城壁を軽くジャンプして外に着地し、アルがデルタとベガに話しかけた。
『ああ、あれは聖獣ラウルの鳴き声』
『生きてた!生きてた!闇に呑みこまれてなかった!
ラウル生きてた!森のみんな呼んでる!!』
『だがあの声はおかしい、闇に呑まれかけている!』
『それにあの鳴き声は……っ!!』
三匹とも全速力で駆け、魔物の後を追う。
『攻撃の合図だ!!』
□■□
ズドドドドドドド
なんでこんな事になったのだろう。
大地を響かせ魔物の大群が襲って来る。
「祟りだっ!!魔獣様の怒りが祟りをおこした!!!」
獣人や神官達が慌てて逃げ出し、
「勇者様はやく!!」と神官が手を引こうとするが、カズヤは足がすくんで動けない。
その様子を見た神官の一人は手を引いても動かないカズヤをあっさりと見捨て走り出す。
「ま、待ってくれ!!」
手を伸ばすが、皆一目散に馬に乗りまた馬のないものは全速力で逃げていく。
あの時、あの少女など気にせずに殺しておけばよかったんだ。
がくがくと震える身体で前方を見れば、少女は魔獣に抱かれていた。
□■□
「魔獣さん、これは……」
森を振るわせて突進してくる魔物を見ながらリーチェが言えば
『リーチェ』
心の中に魔獣が話しかけて来る。
「魔獣さん!!」
『私に掴まれ、お前だけは私が守る』
「でも町が!!」
『このような時に地下に避難するように訓練を受けているはずだ』
「あ……そっか!」
古くから、獣人達には言い伝えがあった、大地が揺れて森より魔物いでるとき、地下に避難するようにと。
各家に地下室が設けられており、きっとみな地下に避難したはずだ。
『リーチェ、この魔物達はそこの勇者を殺せば静まる。
静まり次第伝えよ。あの邪教徒共はこの村を滅ぼし獣人を奴隷化するつもりだ。
村が壊滅したら魔の森に逃げよと。神官達の心を読んだ。間違いない』
「でも魔の森は人の住めるところじゃないって……」
『闇は晴れた。理由はわからぬ。だが闇は晴れている』
「え?」
『来るぞ、しっかり掴まっておれ
我についていれば、攻撃されることはないと思うが離れるな』
その声と同時に、森から大量のモンスターが現れるのだった。








