43話 カズヤ視点
「ここが厄災の魔獣がいる獣人の街か」
異世界に召喚されて3か月と少し。
カズヤは勇者として訓練を受けていた。
そして今回は『勇者』としてのはじめての任務だ。
複数の神官達を引き連れて、魔獣を倒すべくこの地に訪れたのだ。
獣人の街テトラスへと到着したカズヤ率いる勇者一行はあたりを見渡す。
「ようこそおこしくださいました。勇者様」
獣人の町長デュランが頭を下げる。
その後ろには町の獣人達だろうか、多くの獣人が控えていた。
「厄災の魔獣は呼び出せますか?」
「はい。厄災の魔獣はあちらからは攻撃してきません。
魔獣はレベルが低く勇者様が遠くからスキルを行使していただければ倒せると思います」
と、デュランが頭を下げれば、カズヤはふむと頷いた。
「そんな簡単なのに何故誰も倒していないんですか?」
「属性です」
と、デュランに代わって答えたのは同行した神官の一人だった。
「属性?」
「はい、あの魔獣は普通のモンスターと違い、闇をまき散らします。
そして闇属性なため光属性しか効きません。聖女様も大神官様も攻撃スキルは持ち合わせていないため倒せないのです」
「……うん。なるほど」
そう言ってカズヤはあたりを見回した。
この世界に来て不審な点は多々ある。まずは真っ先に元恋人クミが魔の森に飛ばされてしまった事。
反対しようかと迷ったが、結局はお前も捨てると言われるのが怖くて見殺しにしてしまった。
……いや、心のどこかで浮気してしまった罪悪感から彼女が目の前からいなくなることを願っていたのかもしれない。
とにかく力をつけるまで従順でいなければ――でなければ自分も捨てられる。
異世界人にとって必要なのは自分の職業『勇者』であって、異世界人自体は能力がなければクミのようにあっさり捨ててしまう世界なのだ。
だが逆に言えば能力があれば、殺されない。むしろ優遇される。
いかに自分の存在が有益かを見せる必要がある。
この任務失敗するわけにはいかない。
そんな事を考えていれば
「駄目!!あの子はいい子!!殺さないで!!」
突然、カズヤの前に一人の少女が飛び出してきた。
獣人の可愛い女の子だ。
「この子は?」
カズヤが聞けば、慌てて町長のデュランがリーチェを抱き上げる。
「こら、リーチェいい加減にしないかっ!!」
「あの子はこの町を守ってくれてるだけなの!殺さないで勇者様!!」
デュランに抱きかかえられて少女は必死に叫ぶが、
「気にすることはありません。さぁ行きましょう」
と、神官の一人に促された。
「あ、はい」
カズヤは神官に連れられて歩き出すのだった。
□■□
「杉並さんは凄いですね」
職場でそう声をかけてくれたのはクミの方だった。
なんとなく、職場でPCの知識を披露していたら、そう褒めてくれたのが彼女だったのだ。
それ以来親しくなり、いつの間にか彼女の方に自分の方から告白していた。
自分の自信のない事をそれでも凄いと褒めてくれる彼女にいつの間にか自分の方から惚れていたのである。
けれど――付き合ううちに違和感を持った。
彼女は自分を頼ってくれない。
いつも自分で解決してしまって、聞かされるのは事後報告で、自分はそんなに頼りないのかと。
そこに近づいてきたのがキリカだった。
彼女は甘え上手で、何でも一人でこなしてしまうクミと違い、頼ってくれるキリカの方が自分が守るべき相手だと錯覚してしまったのである。
だから結婚目前だったのに婚約をなかった事にした。
なのに、現実はどうだろう。
キリカは教団に美形の神官達をあてがわれた途端、自分を捨てた。
自分のことなど最初から眼中になかったのだ。
気づいた時にはもうクミは死んでいて、もう過去は取り戻せない。
………ごめんクミ。
カズヤはぽつりとつぶやくのだった。











