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32話 獣人の村テラトス

「勇者様が視察にくる?」


 獣人の村テラトスの村長の部屋で、まだ若い村長デュランが報告してきた若い獣人に聞き返した。


「はい。どうやら勇者様が厄災の魔獣の視察にくるとの事です」


「……そうか、わかった、勇者様をお迎えできるよう準備をしておきなさい」


 デュランがそう言えば、獣人はお辞儀をしてでていった。

 確かに最近聖女と勇者が召喚されたとは聞いている。

 だが何故よりによってここに視察にくるというのだろうか?

 ダルデム教にとってこの地はそれほど重要な地ではなく、聖女が召喚されて間もないこの時期にわざわざ来るほどの重要拠点ではない。

 それどころか彼らには目障りな存在なはずだ。


 獣人たちは現在の大神官ではなく、先代の大神官に目をかけてもらっていた存在だった。

 そのため当代大神官であるロンディエンは獣人のこの町を疎ましく思っているはずなのだ。


 それでも獣人達は森に住む闇をまき散らす「厄災の魔獣」の荒ぶりを沈め、森に返すという大任を担っているため、ダルデム教とて手出しはできない……はずなのだが。


「勇者様に厄災の魔物を倒させる気か……」


 デュランはぽつりとつぶやいた。


 もしその力で厄災の魔獣を討伐すれば、獣人たちは用済みとなり、ダンジョンに近いこの地を欲しがっているダルデム教は言いがかりをつけて、獣人を追い払おうとするだろう。

 皮肉にも闇をまき散らす厄災の魔獣は立場の弱い獣人達を守ってもいるのだ。


 せめてこんな時、セルヴァ様がいてくれれば……とデュランはため息をついた。

 セルヴァは獣人や弱い者のよき相談相手だった。

 彼はダルデム教団で、数少ない大神官ロンディエンに意見ができる存在だったのだ。

 教団の横暴に不満をもつ者や、理不尽な目にあっている者達の味方でもあった。

 彼は聖女召喚の際に、間違って一緒に召喚された異世界人に殺されたと聞いている。


 もちろん、それを信じている者は少ないだろう。

 弱いものの立場になり、ダルデム教で意見を言えるのは彼だけだったが故邪魔だと殺されたと見ている者の方が多い。

 誰もがセルヴァの死に懐疑的なのだ。


 だが聖女を握られているがゆえ、誰もそれを指摘できるものはいない。

 ダルデム教に逆らう事はその地の滅亡を意味する。


 せめて――苦しまず逝けた事を祈るしかない。


 デュランはいま亡き友を惜しみもう一度深いため息をつくのだった。



□■□



「セルヴァさん凄いですよ!!」


 地下九階のクリスタルの並ぶ景色に私は声をあげた。

 スマホを見つけてから何日かすぎて、私たちは地下九階まで攻略できていた。

 地下八階の牛さんなどを倒して辿り着いたその先の地下九階はクリスタルの並ぶ綺麗な景色が広がっていて私は思わず声を上げる。


「ええ、そうですね。ですが気を付けてください。

 クリスタルがあるという事は……一度退避したほうがいいかもしれません」


「え、何でですか?」


「範囲攻撃のあるクリスタルゴーレムが出るからです」


 うっ!?また私の防御力のなさが問題か。

 一応ワンちゃん達とレベルは上げていて、順調にレベルも上がって60までなっている。

 レベル500の魔族を倒しても一回に上がるレベルに上限があるらしく、私のレベルはみんなに比べると低い。

 しかも私は基礎能力が低い。

 セルヴァさんが今レベルが75だけれど、セルヴァさんがレベル60だった時よりすべての数値が20くらい低いのだ。

 そしてセルヴァさんと違って身を守る呪文もスキルもない。

 指定は倒す事はできるけれど、倒すだけならワンちゃん達で余裕だし。

 セルヴァさんやワンちゃん達が心配しているのは私に流れ弾(?)が当たる事。

 そして襲い掛かってくる敵を怖がってしまうため、ダンジョン攻略が遅遅として進まないのは100%私のせいだったりする。

 くっ、もやしっ子でごめんなさい。


「なんだか私が足ひっぱちゃってますよね、すみません」

 セルヴァさんとワンちゃんたちだけならすぐにでも地下十階に行けたのだけれど、転移の魔法陣は本人がいかないといけない。

 セルヴァさんだけが地下十階に行っても私は行けないためどうしても私を守りながら進まなければいけなくなってしまう。

 うう、もう私は地下十階に行くのを諦めて外で待ってて野菜だけとってきてもらった方がいいのかな。

 でもなー、住める可能性があるなら地下十階も行っておきたい。

 もし仮に魔の森の闇の力が晴れたのが教団にばれて追手がきたときに、外よりもダンジョンの中に避難した方が安全だし。


「いえ、かまいませんよ。

 大体冒険者でも地下五階以下行ける者は少ないのですから。

 まだ数日もたってないのに地下九階まで行けるというのは快挙です」


「そ、そうなんですか!?」


「はい。それが故地下10階の野菜などに価値があります。

 外で栽培の研究する事の許可がでないのはそのためです。

 嗜好品にして、利益を独占しておきたい貴族や王族が許しません」


「なるほど。地下10階に行ったのに、外で栽培できてゴミじゃんってなったら困るわけですね」


 考え方はわかるけれど、利益を独占するために国民の健康無視はどうなんだろう。

 この世界に自生する麦っぽいものでパンも作っているらしいけれど、それでも私の作るパンよりずっと硬くて食べにくい味のものらしい。


「ですから、クミ様の世界は凄いと心から思いますよ」


「え?」


「食による健康に対する知識があり、そして貴族や王族でもない市民が野菜など当たり前のように食事にとりいれている。

 そしてクミ様の料理してくださる料理のように、味を工夫し楽しむ事が出来る。

 それはとても素晴らしい事だと思います」


 言われて私は、固まった。

 当たり前すぎて、なんとも思わなかったけれど、そっかこっちの世界の人からしたら、食事を楽しむ余裕すらないのか。

 野菜が食べたいとセルヴァさんにわがままを言ったけれど、こちらの世界ではすごく贅沢な事だったんだ。


「……そうですね。これもセルヴァさんのおかげです!ありがとうございます!」


「え!?いや、何故そのようになるのでしょうか!?

 私はクミ様の世界が凄いと純粋に思っただけなのですが」


「だって、こうやってわがままのダンジョン攻略に付き合ってくれてるじゃないですか」

 

「いや、それはもちろん貴方にこのような苦労を掛けてしまったのはわた……」


「すとっぷ!!」


 言いかけたセルヴァさんの口の前で手をかざす。


「……え?」


「召喚したのも、間違ったのもセルヴァさんじゃなくて大神官って人ですよ?

 いつまでもセルヴァさんが謝るのはおかしいです。

 セルヴァさんは助けてくれた恩人で謝られるのは違うと思います。凄く感謝してるんですから。

 謝られるとかえって申し訳ないです」


 私の言葉にセルヴァさんが困った顔になり、なぜか赤くなる。


「……セルヴァさん?」


「いえ、すみません。

 はい、以後気を付けます」


「ほら、また謝ってます」


 と、言えば困ったように顔を押さえる。

 美形なのに褒められなれてないのか、褒めるとすぐ照れてかわいい。



誤字脱字報告&ポイント&ブックマーク本当にありがとうございました!多謝!!




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