23話 簡易ベッド
「簡易ベッド完成しましたね」
と、私がセルヴァさんと拠点の家の中で作ったのは羊から大量にとってきた毛を踏み固めたものの上に縫い合わせたマントをシーツにした簡易マット。
本当はマントを縫い合わせて布団にしたかったけれど、さすがに日も暮れてきてそこまでやる時間がなかった。
遺跡に残っていた魔道具のランプに魔石をいれて光はつくのだけれど、照明器具の光に慣れた私の感覚だとランプだけだとやっぱり薄暗くて作業がしづらいので、今日はここで妥協することにした。
「これは凄いですね」
「はい、意外とふかふかですよ!これで安心して寝れますね!」
ちょっと小さいけれど、私とセルヴァさんの分の二つもつくるから仕方ない。
あとでちゃんと大きい布団に作り直そう。
「そうですね。今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んでくださいね」
「セルヴァさんもおやすみなさい」
私がそう言えばセルヴァさんがにっこり微笑んで部屋を後にしようとし、扉の前で立ち止まり振り返った。
「クミ様」
「はい?」
「今日はありがとうございました」
と、改まって言われた。
「私の方こそありがとうございました、明日も頑張りましょう」
と、微笑むと、祈りのポーズをして去っていく。
ちなみに私の部屋ではアルが、セルヴァさんの部屋ではベガが一緒に寝る事になっていた。デルは入り口のあるリビングで見張り番。
モンスターは入れないはずだけれど一応ね。やっぱりモンスター来たら怖いし。
「アルもありがとうね」
私がアルの頭を撫でながら言うと嬉しそうに「わんっ!」と吠えてくれた。
まだまだ生活の基盤をそろえるためにやらなきゃいけない事はたくさんあるけれど、なんだか楽しい自分もいる。
いいよね、こういうみんなでワイワイ共同作業って。
あこがれていた家族の形とは違うけれど、一人の時よりずっと楽しい。
食事を作れば食べてくれる相手がいて、美味しいって言ってくれる人がいて、困ったときにはちゃんと手を差し伸べて助けてくれる人がいる。
憧れていたのはこういう普通のやり取りだったはずなのにな。
そう言えば私カズヤに料理褒められた事あったっけ?
なんだかいつも美味しいけど……の後にここが気に入らないって言われて、ごめんねって謝っていた気が……そこまで考えて私は慌てて考えるのをやめた。
ダメダメあんなやつらの事を考えたら負け。
婚約も一方的に破棄された上、見殺しにされた相手なんて元彼氏だとも思いたくない。
まぁ、ああいう人と見抜けなかった自分も問題はあるかもしれないけれど。
結局幸せな家庭に憧れが強すぎて――その男性の本質を見てなかったのかな。
最初優しくしてくれたのに舞い上がりすぎて、うわべだけの優しさに幸せな家庭を夢見てしまったのかもしれない。
冷静に考え直してみれば彼の ? と思う行動も、見えてるのに気づかないふりをしていたのかも。
――って、考えてるし。早く寝よう。
明日も頑張らなきゃね!
■□■
「はぁ」
セルヴァは自分用の部屋でため息をついた。
隣ではフェンリルのベガがスースーと寝ている。
クミは本当に不思議な人だった。
異世界から無理やり召喚された事で自分を責めもしない。
前向きで、自分の魔法にも怯える事もなく、それどころか喜んでくれたのだ。
異世界人ゆえの価値観の違いなのか――それとも彼女個人の資質なのか。
今まで闇の属性のせいで、恐れられていた。
だからあのように感動されるとは夢にも思わなかったのだ。
そうだ――力は使い方次第で、よくも悪くもなる。
そんな大事な事を自分は何故見落としていたのだろう。
聖女召喚などと偉大な力を持ちながら、私利私欲を貪る事しか考えていない大神官。
そのせいで、各国が、お布施と言う名の重税に苦しんでいるのを知っている。
彼を見ていれば、どれだけ偉大な力をもっていようとも、所詮は使うのは人間だという事をよくわかっていたはずなのに。
問題は力ではなく、その力を行使する人間の方だ。
それゆえにクミの「指定」の力は不確定要素が大きいものの、使い方によっては強大すぎる。あの男(大神官)には渡してはいけない。
できればあの力は封印しておいたほうがいい。
――それに。
嬉しそうに自分を見つめる彼女の顔を思い出し、顔が赤くなってしまい、セルヴァは顔を押さえるのだった。











