19話 カズヤ
「キリカ」
神殿の廊下で、キリカを見かけたカズヤはキリカに話しかけた。
異世界転移させられて、カズヤとキリカは神殿に保護されていたからだ。
だが、キリカは聖女とわかると調査があるとすぐ引き離された。
カズヤは勇者の称号があるといわれ、剣や魔法の訓練をうけているのだが、異世界転移させられてからあまりキリカと話せていない。
「先輩の事が好きです」
そう言って、キリカが近づいてきたのは、クミと結納も済ませたその帰りだった。
クミと違って自分をたててくれて可愛らしく頼ってくるキリカに、カズヤは惹かれてしまった。クミに大きな不満があったわけではない。
それでも一人で何でもこなし、解決してしまうクミに、頼りにされていないようなもの悲しさを感じていたのは事実だった。
いつも幸せな家庭を作ろうといってくれるのだが、なぜか自分を見てもらっていないような気がしたのだ。
結婚を本当にしても大丈夫だろうか?そんな事を考えている心の隙をつかれたともいっていい。
異世界にくる前のキリカは本当に自分に可愛く頼ってくれて、自分が彼女を守らねばと思っていたのに……異世界にきてからはどうだ。
顔のいい神官達に連れられて嬉しそうに歩いている。
自分と会ってもよそよそしい挨拶をするだけなのだ。
「カズヤ様も勇者としての修行がんばってくださいね」
そう微笑んで、手を振って去っていく。
美形な神官に囲まれて去っていくキリカを見送り、カズヤはぐっとこぶしを握り締めた。
――結局自分は、利用されただけだった。
クミを魔の森に捨てると大神官が言った時、嬉しそうな顔をしたキリカの顔が今でも忘れられない。
むしろクミが目を覚まさない間の会話で、キリカが邪魔だから捨ててくれと誘導していたようにも感じた。
クミを不幸にするためだけに自分に近づいた。
それを察知したのに、恐怖でクミが魔の森に転送されるのを助けもしなかった。
仕方ないじゃないか、どうしろっていうんだよ。
カズヤはぐっと歯を食いしばる。
ごめん―――クミ。俺が間違っていた―――と。
□■□
ぞわぁぁぁぁぁぁ!!
なんだかすごく嫌な相手に名前を呼ばれた気がして、私は全身鳥肌がたった。
「ど、どうかしましたか!?」
手を引いていたセルヴァさんが慌てて私の顔を覗き込む。
あれから、私たちは地下2階へと移動して、狩りに明け暮れていた。
敵はイノシシをちょっと大きくしたタイプ。
ワンちゃん達が嬉しそうに獲物を狩って、比較的安全な場所にいる私たちにアイテムを持ってきてくれる。
ワンちゃん達があっさりイノシシを倒すところを遠くから見ていたら、急に嫌な人に声をかけられた感覚におちいって、私は両腕を押さえた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、なんだか嫌な人に名前呼ばれた気がして」
キリカあたりかな?人が死んだと喜んでいるかもしれない。
見てろよ絶対生き抜いてみせるんだから。
それにしても――わんちゃんたちが持ってきてくれるアイテムに私は目を落した。
ナイフ 3本 鉄の剣 4本 旅人のローブ 6枚 丈夫な糸 5本 旅人のマント10枚 革の手袋 4双 革のブーツ 5足 鍛冶用ハンマー 2丁
「凄いですね。本当にアイテムがぽろぽろ落ちて来る。
これだけあれば、着替えも困らないですね」
ローブを持って私が言えば
「そうですね。あとはオノなどが手に入ってくれるとありがたいのですが」
と、セルヴァさんがきゃっきゃと嬉しそうにイノシシを狩っているワンちゃん達を見ながら言う。
でもマントが10枚は地味でも大きい。
マントをソーイングセットで縫い付けてお布団みたいにしてあとはもこもこ系のモンスターの毛を狩ってそれを詰めれば簡易お布団ができたりするかも。
石の床に寝る心配はなくなるよね。
「セルヴァさん、モコモコのモンスターっていたりします?
羊みたいな」
「羊?ですか?」
「えーっと、ラビットがいたんだからシープ?」
「ああ、いますね。ボルダーボアと一緒の階層に居る事が多いので、もう少し先に進めばいるかもしれません。毛が必要なら狩りましょう」
よっし!もうちょっとマントが集まったらシープちゃんの場所に移動しよう!
なんとか快適生活を手に入れないとね。
なんて話していたら、
ぼんっ!!
突然目の前にボルダーボアが湧いてしまう。
「わっ!???」
私がこけそうになれば、セルヴァさんが私をぐいっと引き寄せて
どごんっ!!!
容赦なくモーニングスターで叩きボルダーボアは吹っ飛んでいった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい、ありがとうございます、でもセルヴァさんって見かけによらず武闘派なんですね。いつもモーニングスターで倒してますし」
見かけ神官服でにこやかタイプのセルヴァさんが容赦なくこん棒で叩き殺すさまはギャップをものすごく感じる。
その言葉にセルヴァさんは一瞬困った顔をした後
「魔法は苦手ですから……」と言葉を濁した。
あれ?何か聞いちゃいけない事だったのかな?
なんて思っていたら
ずどどどどどどど
突然大地が揺れる。
「え!?え!?何っ!?」
私が怖くてセルヴァさんに抱きつけば
「しまった!?レアモンスターがスポーンした!?」
セルヴァさんが叫び、突如私たちの前に現れたのは、人間の身体をゆうに超える大きな巨体な蜂と小型犬くらいの蜂が数体だった。
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