14話 最悪な状況
「さて昨日は食事の準備で話を中断してしまいましたが
……今後についてお話ししないといけませんね」
「今後ですか?」
朝、二人で焼きおにぎりを食べた後、祠で二人で座った状態で私たちは話し合っていた。
「はい。まず現在、状況は最悪といえます。
この大陸ではダルデム教が各国で祀られていますが【起源の宝珠】を浄化できる聖女召喚ができるのはこのダルデム教の高位神官のみです。
【起源の宝珠】は世界各国に存在し、その地を光で浄化し続けていますが、闇化した場合聖女様に浄化してもらわねばなりません。
【起源の宝珠】は聖女の浄化なしに放置しておけば、闇に侵され、この森のように闇に呑みこまれてしまいます。
この宝珠は人間の住む国には必ず存在します。
それゆえ【起源の宝珠】を浄化できる聖女召喚ができるダルデム教に逆らえる国は存在しません。
つまり、ダルデム教に目をつけられてしまった私達が人間の世界に戻るのはとても危険といえます」
「危険?」
「私達が生きていると教団に知られれば指名手配されるでしょう。
どの国に潜伏したとしてもダルデム教の神官がいるので追われ逃げ切るのは困難かと。
神官職は皆他者のステータス画面で名前を確認出来る為、偽名で街に潜伏する事も出来ません」
「えーっと、それはつまり」
「最低でも私達が死んだと判断される程度の期間はこの森に潜伏するしかありません。
頻繁に身元調査を行う事があるため神官から隠れて街で暮らすのはほぼ不可能に近い。
ですが、貴方が森での原始的な生活が無理だと判断するなら別の方法もあります」
「どんな方法でしょうか?」
「貴方の能力を明かし、教団に聖女として迎えいれられる方法です。
現大神官は、目に見える利益には貪欲です。
計算高く、それ故わかりやすい。情はまったくありませんが、利益があるなら優遇します。
貴方の能力を知れば厚遇するでしょう。
テイムしたフェンリル様達も神殿に連れて行けば、理不尽な要求も出来ません。
今回貴方を殺そうとした事を貴方自身が割り切れるのであれば悪い条件ではないと思います。
もちろん私も貴方が厚遇されるよう、交渉します」
と、真剣な目で言う。
えええ、ちょっと設定がヘビーすぎない。
こういうのって捨てた国を離れて他国で冒険者やりながらスローライフ的なものを送るものじゃなかったの?
なんだかゲーム設定の世界なのに妙なところで現実的すぎる。
「セルヴァさんはどっちがいいと思います?」
私が聞けばセルヴァさんがうーんと考えるポーズをとったあと。
「私の意見は、私の価値観において最善であり、貴方の価値観においての最善ではあるとは限りません。
私が意見を言ってしまえば、あなたもその意見に引きずられてしまう可能性があります。
それ故、意見をすることは控えさせていただきます。判断は貴方にお任せいたします。
どのような結論でも、出来うる限りのサポートはさせていただきます」
と、目をつむって祈るポーズをした。
まぁ、セルヴァさん的にはきっと戻らない方がいいという意見なんだろうなーというのはこれまでの発言から推測はできる。
私の能力が知られたら悪用されるかもって言ってたし。
でも、セルヴァさんの言う通り、森で衣食住を確保するのも難しい、生きていくのがやっとの生活をしていくよりは、教団に使われる立場でも保証された環境で生きたいという人もいるだろう。
でもなぁ。
あの二人が一緒にいる姿が浮かんで、悲しくなる。
あいつらが視界にはいる可能性があるだけでも絶対嫌だ。
「選択肢もなにも、人を殺そうとした教団に戻るなんて論外だし、私を見捨てたあの二人と一緒とか嫌なのでここで暮らすしかないと思います」
私の言葉にセルヴァさんがほっとした表情になった。
やっぱり戻るのは反対だったみたい。
でも最初から反対している方も選択肢に入れてくれるあたりこの人は誠実なんだよね。
ちゃんと私個人の幸せと意見も尊重してくれている。
誰かさんたちとは大違い。
一瞬カズヤの顔が浮かんでしまい、私はもう一度振り払うように思いっきり頭を振るのだった。