10話 ダルデム教
「名乗るのが遅くなりました。私の名前はセルヴァ。ダルデム教の神官です」
そうセルヴァさんが名乗ったのは先ほどの遺跡から少し離れた小さな祠で一息ついた時だった。
祠の入り口ではわんちゃん達が見張り番をしていてくれている。
名前は指定のスキルのおかげで知っていたけれど、ダルデム教は初めて聞くな。
「ダルデム教?」
「貴方をこちらの世界に召喚した組織です。
聖女召喚は本来聖女だけを召喚する魔法だったのですが、手違いであなたが一緒に召喚されてしまいました。大変申し訳なく」
と、土下座に近い形で謝られる。こっちの世界にもあるのか土下座。
って、変な事に感心してしまった。それどこじゃなかった。
「あ、いいってわけじゃないですけど、セルヴァさんのせいじゃなさそうだし何度も謝っていただいたので大丈夫ですよ!
頭をあげてください。
むしろ命がけで抗議していただいて感謝してますので、そんな事されるとかえって申し訳ないですっ!!
それより何で聖女なんて召喚しているんですか?」
と、このままじゃ謝罪を延々としそうなので話題をかえてみる。
「先ほど貴方が呪いを解いた宝珠のためです」
「ああ、あのルビーみたいな宝石?」
「はい、あれは【起源の宝珠】と呼ばれるもので本来この世界の闇と光を安定させる、存在でした」
「世界を安定?」
「はい、あの宝珠がなければ、世界は闇に呑まれてしまいます。
闇の魔力はそこに生きるものをモンスターに変えてしまう力です。
その闇の力を浄化し続ける存在が【起源の宝珠】だったはずなのですが、突然宝珠は変質し、光を放たなくなり世界を闇に染め始めました」
「闇?」
「最初フェンリル様達に黒い靄があったとおっしゃっていましたよね?」
「あー、そういえば」
「それはフェンリル様達が闇に呑みこまれかけていたからです。
あと数日すれば闇に呑みこまれ理性のないモンスターとなってしまっていたでしょう。
フェンリル様達は人間よりも強靭な精神力をお持ちでだったため、闇に呑みこまれるのが遅かったようですが……私や貴方ではおそらく数日この森に居れば闇に呑みこまれモンスターと化していたと思います」
「えええ!?そんな怖いものなんですかあれ!?壊した方がいいですか?」
「いえ、あれは世界が存在するのになくてはならない存在です。
ですから聖女様に定期的浄化していただき、闇を中和するようにしていただいていました」
「定期的?じゃあまた呪われちゃうんですかあの宝石」
「はい。聖女様の使われる浄化のスキルでは一時期呪いを解くだけが精いっぱいかと」
「あー、じゃああの森の宝石も定期的に見たほうがいいですね」
「その必要はありません」
「……え?」
「私も信じられない事なのですが……
聖女様の浄化は一時期呪いの効果を封じるだけにすぎませんでした。
ですが貴方の「指定」のスキルは、【起源の宝珠】の呪いを完全に解いています。
鑑定のスキルで調べたので間違いありません。
――貴方のスキルの力は聖女以上です」
と、セルヴァさんがまじめな顔で告げた。
「じゃあ、私も聖女になるのでしょうか?」
「いえ、ステータス欄の職が空欄だった事から、職業的意味では聖女様ではありません。
私の知る限りでも、異世界人で召喚され、職業なしという存在は聞いたことがありませんし、職業なしなのにスキル持ちというのも初めて聞きます」
「えーっとじゃあ?」
「申し訳ありませんが、私の知識では貴方様がどういった存在なのかという事は判別できませんが……
かなりイレギュラーな存在であるのは確かかと思われます」
イレギュラーかぁ。
いい事なのか悪い事なのか判別付かないけれどWeb小説や漫画の異世界転移物なら凄い存在になれるはずだけれど、現実ならどうなんだろう?
などと私が考えていれば
ぽんっ!!
私の横に唐突にスライムが湧き、ばしんっ!! っと何事もなかったかのようにセルヴァさんが持っていたモーニングスターのようなもので叩き潰した。
「えっ!???」
「ああ、申し訳ありません。
セーフティーフィールドではないため、モンスターがスポーンしますが気になさらないでください。
念のため結界は張っておりますがここは元々高位なモンスターが湧く場所な為、私程度の結界では完璧に無効化することはできませんので」
と、祠の四隅に置かれた変な三角形の物体を見る。
この祠についた時何かしていると思ったけど結界を張っていたみたい。
「ちょ、ちょっと待ってくださいスポーンって……」
「ああ、貴方の世界ではモンスターはスポーンしないのでしたね。
この世界ではセーフティーフィールド以外の場所では、モンスターが自然にスポーン……湧きます。
そのフィールドのレベルによって敵が湧くレベルは違うのですが、ここで湧く敵のレベルがランク3。私の張った結界程度では、どうしてもランク1の敵が湧いてしまう次第でして」
と、説明するセルヴァさん。
ゲ、ゲームだ。この世界絶対ゲームの中だと思う。
ここまでゲームの世界だと凄い違和感がある。
そ、そうなんですか、と私はアハハと笑うのだった。