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〈9〉

今回は短いです。

〈9〉


             ◆       ◆       ◆


 グラン王国東部にあるエロエロンナ地方。

 古妖精語エルフィンで〝波瀾万丈の光〟との意味を持つ、エロエロンナなる名と男爵位を授かったエロコ・エロエロンナ嬢が、この土地を授かって約一世紀。

 何も無い不毛で、ただ広大だった土地に海軍基地を誘致し、国一番の大河、ポワン河の河口に姓と同じエロエロンナと言う名の街を建設して、爵位も成り上がって辺境伯領ともなった今日は、既に押しも押されぬ大貴族となっている。

 そこが領都となっている港湾都市、エロエロンナは当然、領都である。


「久しぶりね」


 ぼっぼっぼっ、ぼっ、とバルスジェットエンジンが豪快な騒音を立てている。

 王都との間に設けられている飛行便の客となっていた女領主は、眼下の領都を見下ろした。マッチ箱みたいな建物群が幾つも建ち、広場では市が開かれてごま粒みたいに人が蠢いている。


「ここまで来るのに一世紀もかかっちゃったわ。まぁ、あたしは半妖精ハーフエルフみたいだから、まだまだ先は長そうだけど」


 この飛行船は錬金術が造り上げた奇跡である。

 浮遊石によって宙を浮かび、科学で造り上げた噴射機関推進する最新型だ、東部域の辺境と呼ばれるエロエロンナ地方と中央の王都との所要時間が僅か数時間にまでなっているのも、この新型エンジンのお陰である。

 まぁ、代償として恐ろしく燃費が掛かり、商業的にペイせずにこうした軍事用に限られてしまうのだけど。


「降下開始。提督、間もなく到着致します」


 太り気味の魔鳥族セイレーンの護衛士官の言葉にはっとなる。

 一応、今でも海軍軍人だから〝提督〟と呼ばれているが、予備役で名誉職みたいな物だが、セイレーンは現役軍人だから、エロコの事を提督扱いしてくれる様だ。

 海軍ではセイレーンは珍しいのだが、墜落した時に備えて主に空中勤務に集められている。

 窓の外に雲が流れ、やがて視界一面が白くなるのは高度を下げて雲海に突入したからだろう。


「ありがとう。もうすぐミキとも再会ね」


 半年近く離れていた領主代行の宰相の姿を浮かべる。

 辺境伯ともなると、自領より中央での政治活動や社交が中心となるのが悩みであった。

 もっとも、西部や北部では「今は自領を離れられぬ」と中央に滅多に顔を出さない辺境伯も居るのだが、帝国国境線に接してない分、東部のエロエロンナ領は軍事的な圧力が少ないので、これは仕方の無い事だろう。


『はぁ、本当はずっと自領に引きこもりたいのだけど』


 内心ごちる。元々、技術士官だから物作りが専門だし、田舎者だから、社交に夜会とかは苦手なのだ。必要だからこなしてはいるが、ドレスなんぞは着慣れないので、夜会は軍服専門である。

 夜会に費やす暇があれば、図面を描くか、新たな技術の勉強をしたいと思う。まぁ、社交は政治的な意味も含まれるので、出席をせぬ訳には行かないのだが。


「! 揺れた?」


 鈍い衝突音が耳朶を打つ。ややあって船体が不自然に揺れる感覚が身体を襲う。

 先程の士官が伝声管に駆け寄り、「何があった」と慌てて艦橋に問い質し、暫く、そのやり取りに時間が過ぎた。


「何があったの」

「事故です。雲中でセイレーンと本船が接触したらそうです」


 セイレーンにしてはぽっちゃりした士官が、片手で伝声管の送話口を押さえて返事をする。


「まぁ。その方は怪我しなかったのかしら」

「何とも……収容はされていますが、あ、どちらへ」


 エロコは好奇心が出てしまう。

 収容された衝突相手。一応、この船には一流の魔法医が乗ってるから、命に別状はないだろうが、久々に面白いアクシデントである。

 会って会話したい。彼女は船室を出ると、部下に「案内しなさい」と命令した。


「しっかしセイレーンが衝突か。これが騎竜だったら、大惨事ね」


 ちらりと今度の閣僚会議に、航空法の制定を提案しようと思ってしまう。

 飛行船《ファルグレン》との接触事故、それはエトナ中尉にとって不幸ではあったが、エロコ辺境伯にとっては勇者の存在をいち早く知るきっかけとなる。



〈続く〉

領都編。

何か久しぶりに彼女を書いた。遂に辺境伯です。

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