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〈8〉

寄港中。

〈8〉


             ◆       ◆       ◆


 船室から出て、上甲板に出た勇者は目を(みは)った。

 河港に横付けされ、片舷を水面に映しながら停船する《マイムーナ》を初めて目にしたのである。


「本当に船だったんだ」

「何だと思ってたんだ」

「いや、あの部屋って窓が無かったし、船にしちゃ揺れなかったからな」

「河港に入っていると言ったろ」


 ギネスが呆れるが、河港は防波堤に囲まれているから波は基本的に立たない。

 無論、船舶関係者はそれが常識と思うが、それ以外にとって『それは通じないのか』とも痛感する。先入観から、船は揺れる物と思ってしまうらしい。


「あれは、何だ」


 指摘された方を見ると、後甲板に載っていた大きな岩をコロの原理で転がす所であった。

 既に岩の下には何本もの丸太が敷かれていて、力強そうな人馬族セントールが牽引体勢を準備していた。


「ああ、岩を港へ降ろす準備だろう。

 起重機デリックが使えれば楽なんだが……」


 しかし、デリックは蒸気動力で作動する為、ボイラーの火を落としてしまった現在、残念ながら動かない。

 セントール達は腹帯を巻いて、岩にロープを引っかけると力を込めて曳く。


「ん、ギネズ軍曹か」

「ああ、航海長。おはよう」


 こちらに気が付いた航海長のフェリサが、ラミアの特徴である長い胴体を引き摺って近づく。

 勇者カスガの顔が引きつるのは、蛇な姿の異形の接近からだろう。実際、紫色の蛇体の長さは迫力がある。


「当分、出港しないから、操船科も野良仕事だよ」

「ベルサ一等兵か……。まぁ、本艦唯一のセントールだからな」


 セントールもヤシクネーに比べれば希少種族では無いが、馬の下半身から来る身体の構造から海軍の将兵としては少数派で、艦隊任務よりも陸戦隊に属する者が殆どだ。


「荷駄としては優秀だぞ。お、こちらは例の少年か。

 私はフェリサ伍長だ。航海長をしている」


 機関長側のカスガに気付いて、自己紹介するラミアの航海長。

 うねる紫色の鱗にやや怖気づきながら、「勇者、カスガだ」と返す勇者。それを見て、くすりと微笑みを浮かべるフェリサ。


「ラミアは初めてか?」

「前の世界、パンドーラでも出会ってるが」


 パンドーラのラミアはサイズがフェリサに比べて、遥かに巨大なモンスターであった。いや、蛇体の側面にヤツメウナギ風に人の顔が幾つも埋め込まれて、ついでに先端に蛇頭が付いていて、馬をも丸呑みする様な小山の様なキメラ的な化け物だった。

 完璧にエルダのラミアとは別物である。


「やっつけると経験値が高かったな。宝石も多かった」

「経験値?」


 初めて聞いた単語にフェリサは興味を覚えた。宝石が何の事だか判らず、問い質す。

 カスガは魔物は倒すべき存在で、退治すると自分を強化する為の経験値と言う物を排出し、その身体は宝石と化して財産になるのを説明した。


「たまにドロップアイテムも落とすけどな。宝石は拾うのが大変だったけど、アイテムでイベントリに自動収納される機能を追加したら、勝手に収集されて大助かりだった」

「うーん、良く理解出来ないな」


 航海長との会話に、艦長が言っていた〝勇者カスガはエルダの常識に疎いらしい〟とはこの事かと実感する。ギネス軍曹は異世界という物は、全く違う常識が横行しているのに口をあんぐりと開ける。


「倒すと経験値が宙空に表示されて、モンスターは宝石に石化されて砕け散るんだぜ。パパラパーとファンファーレが鳴ってね」

「ファンファーレって、誰が鳴らしているのさ」


 フェリサの突っ込みに、「知らん。どっからとも無く勝手に鳴るモンだろ」としれっと口にする勇者。いや、それエルダでは怪奇現象なんだけど。


「済まないが、カスガを見てくれるなら置いて行くぞ。あたしは機関室に行く」


 会話が弾んでいるので、機関室に急ぎたかったギネスがフェリサに提案する。

 監視役は下士官以上であれば誰でも良いので、彼女が専任で面倒を見てやる必要は無いのである。


「機関室。どんな物なんだ」


 意外にも食い付いたのはカスガだった。


「蒸気機関を据え付けてる所だよ。本艦の主要な動力源で心臓部だ」

「えーっ、蒸気機関。この世界にはエンジンが存在するのか!」


 行きたいとせがむ勇者に、せっかくこいつのお守りから解放されると思っていたのが目論見が外れ、頭と胃が痛くなる機関長だった。



〈続く〉

同じファンタジー世界でも、パンドーラ界はかなりエルダと異なります。

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